第十五話
エルフという言葉を聞いて思わずテンションが上がった俺らだったんだけど、人がいっぱいなお店の中で大の大人がファンタジー丸出しの話をしていたらおかしく思われちゃうと思うし、勇気もイデア達も楽しくご飯が食べれないよなといろいろ質問したいのを我慢。
本当ならすぐにでも会長さんのお知り合いのエルフさんにお会いしたいところだけど、考えて見たら応接間に荷物を置きっぱなし、車も駐車場に置きっぱなしな状態。さすがに良くないなって思って荷物を回収しようとカミサンに相談したら、イデアの着替えもあるって事だったんで、食事が終わり次第、イデアに着替えをしてもらう事にしたんだ。
「それにしても…よくあんな状態で買えたねぇ」
「だって…いつまでもまぁくんの服じゃ可哀そうだから、絶対に一着は買っておこうって思ったんだけど。一着買うのにもあの子ったら『私など今着ているこの上等な一着で結構で』とか『私のようなものにこんなに綺麗な服は勿体ないです』なんて言うんだよ!あんなに綺麗で可愛いのに本当にもったいないって思ってついつい気合入っちゃったよ!」
自分の品物を買うって事にまだ戸惑いがあるイデアを引き連れて、きっと強引にいろいろ買ってたんだろな?とその時の事を想像してたら、ふと食事中のイデアに目が行った。
勇気と同じものをとって、ナイフ片手に慣れないフォークを持ちながら目の前のお肉と格闘している彼女の様子を見ていたら、出会った頃のように飢えて荒んだ目をした彼女とは思えない柔らかい表情が見れたので、少なくとも俺らが彼女にしている事は苦痛ではないのかな?
割と勢いだけで行動して今に至ってるんだけど、こういう素顔を見れるとちょっとほっとする。傷ついて絶望的な表情をしていた彼女が俺らの行動で表情が柔らかくなるのを見ると、少なくとも間違いじゃないって感じられるし、少しだけ彼女の近くによれたのかも?とも思う。
まずは彼女にこちらでの普通の生活を送ってもらう。
そんな事を軽くカミサンと話していて、彼女が生活を送れる必要最低限のものをそろえようと思ってこちらに来たものの、まだ俺らは彼女の事は何も知らない。
何処から来たのか?何をしていたのか?聞いている事を含めて本当の事は何も知らないから、今の彼女の様子を見ていろいろ知らないといけないと思うし、これから手さぐりで彼女が笑顔になるために何が出来るかを考えて行かないといけないと思う。
その後、彼女がどの様な道を歩むかわからないけど、少なくとも彼女を助けたからそれで終わりって言うのは嫌だし違うと思う。縁があったからうちに来てくれたんだし右も左もわからない彼女を知らないからってほっとけないって思うのは当たり前だと思うから、これからわからないままでもいろいろやっていこうと思ってた。
だけど、今目の前に彼女の生き方のヒントになりそうな情報を持ってる方がいる。
おそらく異世界から来たであろうエルフさんが今何をしているのかが知りたい。どこから来たのか?どうやって生きて来たのか?今何を思っているのか?出来る事なら手あたり次第全部聞いてみたい。
そんな事を思っていたら、いつの間にか皆さん食事がひと段落したようだったので、慌てて謝り、会長さんにお礼を言ってそのまま一度応接間に戻った…と同時に俺と勇気、会長さんと男性の担当さんは部屋の外に追い出されてしまった。
「着替えだってわかってるんだけどさ…怖い顔して追い出すことないじゃん」
「まぁまぁ、女性が集まるとそう言う事もあるって。それが無くてもイデアが着替えるんだもんよ、俺らが出たほうがいろいろやりやすいじゃん」
「ま、まぁ。そう言うもんじゃよ。気長に待ちましょうや」
「さ、さすが既婚者。あの殺気見てすぐに落ち着けるところ本当にすごいっすね!」
そんな追い出された四者四三様、いろいろな事を言いながら待ってたらさ、一時間ほどで女性陣が出て来たんだよね。
グレーのタートルネックと黒いミニスカート。それらの上に少し大き目な白いフーディコートを身に着けたイデアはとってもキラキラとしていまして。その場にいた男性陣は思わずほぉーっとため息をついてしまったんだ。
「いやぁ元が良いと何を着ても良いって思うんだけど、イデアちゃんほどキラキラ輝く子ってなかなかいないと思うんですよね?やっぱりPR動画…いやっ、わが社専属のモデルさんとか…なんとかならないっすかね?会長!」
「う~ん…時間がなかったからアクセサリーも靴も買えなかった!背が高くてスタイルがいいからもっともっといろいろな洋服来てもらいたいのにぃ!!!本当に残念!小物のバックもいろいろ欲しい!本当にイデア着飾りたい!!!!」
そんな男性陣をよそに女性陣は何か物足りないようにブツブツ文句を言ってるんだけど、当の本人の表情は暗いのよ。うんわかってるよ。どうせ私などこのような綺麗な服を着る資格すらありません!なんて言うんでしょ?言わせないけどね。
「イデア!本当に似合ってるよ!俺の服着てる時より数倍可愛いよ!いや~ユキのセンスがいいのかな?本当にいいよ!!!」
そんな俺の台詞に合わせて男性陣がうんうん頷き、女性陣がにやりと笑顔を見せる中、顔が真っ赤になってうつむくイデアがいました。
うん、みんなに褒めてもらって良かったね。イデア。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「会長さん、もし良かったらこれから天女さんにお会いすることは出来ますか?」
「ああ大丈夫じゃよ。彼女にも話はしてあるから皆さんでいらっしゃい」
食事までご馳走になりいろいろわがままを言ってしまってる気もしないでもないけど、やはりどうしてもエルフさんの話を聞きたいと思った俺らだったんで、改めて会長さんに話をしたところ快諾してくださったので、家族そろってお会いすることにしたんだ。
男女の担当さんは、イデアになんとかPR動画に出て欲しいと言ってたんだけど、いろいろ心配な事が多いからどうしても首を縦にふれずにいたら、会長さんが間に入ってくれたので本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
そんな俺の顔を見て「気にしないで良い」と言ってくれた会長さんの懐の大きさに感動しながら、担当さん達と別れ、ごちゃごちゃした気持ちを整理しながら歩いていると、気が付かない間にショッピングモールから外に出ていて、隣にある公園のような場所に来ていた。
春になれば桜が一面に咲き多くの方が訪れる名所になっているこの場所も、この寒い中、草木は少し寂しい様子を見せている。
そんな公園の真ん中を目指し歩いている会長さんだったんだけど、公園の真ん中にある小さな小屋のような建物の戸を開けると、そこには信じられないような景色が飛び込んできたんだ。
目の前にはまるで高級旅館のように綺麗に手入れされた木々に囲まれた日本家屋があり、入り口で一人の女性がにこやかな笑顔で待っていたんですよ。
外側の小さい小屋の入り口は、某猫型ロボットの移動式ドアなのか?
建物の中に建物ってあるのかも知れないけど、どう考えてもこの小さい小屋にこんな大きな建物入らないっしょ?いろいろおかしくない?会長さんは平然としてるけど、これって俺がおかしいの?って思ったら、カミサンも勇気も呆然としてるのよ。うん、俺だけおかしいわけじゃないよね?
そんな俺らの様子に笑いながら手招きし、会長さんは目の前の女性の声をかけたんだよね。
「只今。儂の天女様」
「おかえりなさいませ、旦那様」
金色の髪を結い上げ、エメラルドグリーンの瞳を輝かせて上品にほほ笑むトンガリ耳の女性は俺らに向かって深々とお辞儀をしたんだ。
「はじめまして、旦那様がお世話になりました。私は三倉エンゲリス。皆様が会いたいと思っているエルフでございますよ」
入り口からあっけにとられ、深緑の着物を上品に着こなす目の前の女性に目を奪われ、思わずポカーンとしてしまった私達家族の様子を見て、エンゲリスさんは ほほほと笑うのでした。
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