第十四話

目の前に俺らと同じような状況の人がいる!


正直、滅茶苦茶話が聞きたいところなんだけど、勇気の目が早く飯を食わせろって訴えてるから仕方がない。


会長さんにはあとで話が聞きたいけど、息子の腹が限界っぽいので改めて食事の事をお願いすると、息子に向かって「食欲があって結構結構」なんて笑いながら用意してくれたんだ。


そんな会長さんに連れてこられた場所は、ショッピングモールの中でも、お値段が高すぎて入るのを躊躇ってしまっていたバイキング形式のお店。


正直今も躊躇してしまってるんだけど、そんな俺らの気持ちをよそに真っ先に食事をとりに行ってしまう息子ら数人。


対照的に、色とりどりの料理に圧倒されているイデアなんだけど、待ちきれないのか?勇気がイデアの手を引っ張って料理をとりまくってるよ。


「わぁ…見たことのない料理がいっぱい… 私は王様の晩餐に招待されてしまったのでしょうか?私など「はいはいイデアさん!そんな事よりこの料理とっても美味しそうだね!好きなもの食べ放題なんだよ!どんどん食べようよ!」」


勇気は勇気なりにイデアに気を使ってくれてるのかな?こっちに来てまだ間もないイデアにいろいろ教えてあげようとしてるのを目の当りにして、ちょっとだけ息子の成長が見れて嬉しいなと親として微笑ましく思ってしまったよ。


そんな光景を見ていたら、てんこ盛りの料理を運びながら会長さんが目の前を通るのよ。


「これこれ!若い者は遠慮しないでどんどん食べないと!」

「いやぁ~こういう機会あまりないので、つい緊張しちゃいまして…正直何も考えてない息子がうらやましいくらいですよ」

「いやいや、こんな爺に遠慮せんと!どんどん食べなされ!」


そんな会長さんの言葉にちょっとほっとしちゃって、俺もこの機会を楽しもうと料理を運んだんだ。ちゃっかり担当さん達も席に座ってがっつり料理食べてるんだけど、あとで会長さんに怒られないかな?


そんな様子見てたら、俺らが遠慮するのは失礼だし勿体ないって思って、楽しく食事を始めようとしたんだ。だけど、頭にちらつくのは”コンビニアルテミス”で販売されていたくじの事。コンビニアルテミスに入って店員にこの経緯を聞くのが一番だと思うんだけど、店舗があるであろう場所に行ってもなかった。


だったら入った人に様子を聞いてみたい!多くの店舗を見てると思われる会長さんが入っているんだったら、きっと仕事で疲れ果ててなんとなく入った俺とは違う視点で見てるかもしれないって思うんだ。


きっかけはあまり良いものじゃないけど、この機会逃したらコンビニアルテミス、いや、イデアに繋がることが聞けなくなる!


そう思ったら


「「相談があるのですが」」

「「えっ?」」


ありゃっ、会長さんと被っちゃったよ…恥ずかしいなぁ~。

お互い苦笑いしながらも、ここは人生の先輩から言葉を聞いたほうが良いと思って会長さんから話してもらおうとしたら、会長さんと目くばせした女性の担当さんが口を開いたんだ。


「いきなりのお願いで申し訳ないのですが、当モールのPR動画にお嬢様を出演させてほしいのですが、いかがでしょうか?」

「PR動画への出演っすか?」

「えぇ、お恥ずかしい話ですが…本日、当モールのPR動画をとる予定でしたが、タレントのドタキャンで流れそうになっていたんです。ですがお嬢様のようにとてもお綺麗な方が協力してくれるのでしたら、糞タレントが出るより数十倍、いや!数百倍良いモノが取れると思うんです!!!こんな巡りあわせそうそうありません!もう是非是非お願いしたいと!!!!!「これっ!はしたないですぞ」」


いやぁ…会長さん止めてくれなかったらイデアのところまで突っ走ってたよ、この人。あまりの熱量に夫婦そろってドン引きしちゃったんだけど、タレントさんにドタキャンってのは可哀そうだなぁ。


だけどイデアもこっちに来てまだ2日目。

封印解かれて倒れ込んで、気が付いたら俺らに引っ張りまわされて人がいっぱいな場所にいる訳で。そんなイデアだから笑顔でいろいろ話してるけど、内心とっても緊張してると思うんだよね。


そんな状態のイデアにタレントさんみたいな事が出来るんだろうか?いろいろお話しながらいろいろな場所に行って、見たことも体験した事の無いような場所に行って話すって事が出来るんだろうか?そんな事を思ってたら、カミサンも同じような事を思ってたのか?不安そうな悩んでそうな複雑な顔をしてたんだよね。


俺らの事信用してくれているからこそ、こんな人が多い中にもついてきてくれたんだから、これ以上彼女の負担になることは止めておこう。そう思ったら自然と頭を下げてお断りししてたよ。


「彼女がまだこちらの生活に慣れていないので、これ以上負担はかけさせたくありません。申し訳ありませんがその話はお断りさせてください」

「そうですか…う~ん…」

「あと、彼女は私達の子でないんです。訳あって保護しているので、きっと労働条件的にもマズイと思うんですよ」

「保護、でございますか?」

「えぇ、この子私たちの家に突然現れましてね…」


ありゃ、気が付いたらいろいろ話してるよ、俺。

断りついでについ流れでイデアの話をしちゃったんだけど、会長さんが思いのほかこの話に食いついてくれて、親身に話を聞いてくれるもんだから、カミサンと相談してすべてを打ち明ける事にしたんだけど、こんな話をしてもきっと信じてくれないだろうなって思ったらね。


「いやぁ、儂と同じような体験しているなんてなぁ…本当に驚いたわい」

「「えっ!」」

「いやぁ、昔、儂も同じような出会いをしとってな、世間は狭いものだとただただ驚いておる。儂の場合は空から光輝く天女様が気を失った状態で降ってきたんじゃがなぁ、いやいや懐かしいものだわい」

「「そ、その話、詳しく!!!!」」


目の前に人生の先輩がおる!

本当に偶然な出会いだけど、この出会いは偶然じゃないんじゃないか?って思っちゃったよ!さっきイデア目当てで積極的に話しかけてくれた担当さんの事悪く言えないくらい、今度は夫婦そろってこっちのほうが食いついちゃって、ついつい会長さんの目の前まで顔を出しちゃったよ!!!


「まぁまぁ落ち着きなされ!この爺逃げも隠れもせんわ。まぁ、これも何かの縁、よかったら儂より詳しいモノも呼んでしっかり話をしようではないか」

「すいません、つい興奮してしまって。こちらもその方がありがたいのですが、宜しいですか?会長さんより詳しい方って言うのも気になりますし、会長さんがお会いした天女様との事もこちらの役に立ちそうなので是非お話お聞かせ願いたいのですが!!!」


そう言いながら興奮が止まらない俺らに対して、落ちついてというジェスチャーをしながら、会長さんが懐からスマホを取り出してどこかに電話をかけ始め、しばらくすると俺らに向かってOKのサインを送ってくれたんだ。


「うんうん、儂の天女様もOK出してくれたから、今からでも話が出来ますぞ!…あっ、そうそう、天女様が言うには『私はエルフと言ったほうがわかりやすいかも?』だそうな。えるふ?ってわかるかのう?」

「「え、エルフ!!!!そこら辺も詳しく!!!!!!!!」」


なんか、さりげなくとんでもない事を言ってきた会長さんに思わず脊髄反射しちゃったんだけど、この機会を絶対逃すものか!って力強く首を縦に振ってお願いする私達夫婦がいました。


世の中、意外といろいろなモノが転がってるもんなんですね…本当に。

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鴨川京介 様

レビュー本当にありがとうございます。

書いては消して書いては消しての繰り返しでなかなか先に進まなかった「コンビニ~」ですが、レビューを見てやる気が出てきて、また必死にネタを絞って書いていこうという気持ちが生まれてきました。遅筆ではありますが、今後もどうぞ「コンビニ~」をよろしくお願いします。

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