第十一話

次に向かうは、県内最大のショッピングモール。

「食品、衣料、日用品」「ペット」「家族、子供向け」「スポーツ」の4つのテーマの建物が4つ連なったショッピングモールだ。


遠くから見たら要塞にも見えなくない、とてつもなく広さを持つ場所。いろいろなイベントやってるからよく家族で遊びに来てるんだけど、今回の主役はイデア。


いつまでも他人の服じゃ落ち着かないだろうし、女の子なんだから、なんだかんだお洒落もしたいだろうしね。それに、衣服だけじゃなくて、下着や靴なんかも必要だよな。


某ヒーローが「明日のパンツは大事!」なんて言った記憶があるんだけど、まさに下着は大事で・・・って、カミサンの目が怖いんだけど。


えっ?声に出てた?ごめんごめん~



怖いって言ったらさ、一応、家を出る前に、イデアにはトイレの使い方を教えていた時。


「か、紙で拭くのですか?勿体ないです!もったいないけど、紙じゃないと駄目ですか?」


「洗いたいところに水が出てくるんですか?」


「こちらから水が出て流れるんですか?水は飲むものですが・・・」


そんなイデアの言葉に、ウォシュレットを知らない外国の方々のリアクションを見ているようで、思わずニヤニヤしていたら、カミサンが白い目で俺を見てるのよ。


俺、やましい事してないよ!


ズボンも脱がしてないし、使い方の説明だけだよ!もし途中でトイレ行きたくなったらどうするのよ!俺ついて行けないよ。


カミサンだって、イデアだって一緒にトイレに入って二人で用を足すなんて出来ないでしょ?恥ずかしいでしょ?俺だってこの状況恥ずかしいけど仕方がないでしょ?


大事な事だから、もう一度言うけど、


俺、やましい事なんかしてないし、しないよぅ信じてよぅ!


こんなやり取りもあった事もお伝えしておこうと思いますよ。


☆ ☆ ☆


で、車に乗ってショッピングモールに向かってるんだけど、イデアとカミサンは後ろ、俺と息子を前にして出発したら、 さっきまで固まっていたイデアが、ようやく慣れてきたのか?いろんなことに興味がいくみたい。


「鉄の箱が動いてます!!!」

「どんどん早くなります!!!すごいです!すごいです!」


心から驚き、興奮した声が聞こえてきて、俺とカミサンも思わず笑ってしまったんだ。

ただ、そんなイデアをバカにするような発言を勇気が言うもんだからちょっと叱っておいた。


「バカだなぁ~何にも知らないだね」

「知らないって事をバカにするな!イデアはおそらく電化製品なんてない世界から、命からがらうちに来たんだ!そんな人間がいろいろな事を見て驚きながらもこうやってはしゃいで楽しんでるんだよ。怖がらないでいろいろ楽しめるって事はすごい事じゃないか?」

「う、うん・・・」

「お前が勉強やスポーツが出来なくてバカにされたらどう思う?頭にくるだろ?お前がやってることはそれと同じだと思うし、お前にはそんな最低な人間になってほしくないんだよ。相手をけなすより、相手の良いところを見て尊敬する人間になれよ!わかったか?」


そう言うと息子がイデアに向かって謝ったんで、俺も一緒に謝ると、そんなそんなと言いながら、手をバタバタさせて答えるイデア。まだまだ俺らにかなり遠慮してるなぁ。


そんな中ちょっとしょげてる勇気に対して、イデアにいろいろ教えてやってくれとお願いすると、途端に息子の目が輝き、車内では息子がテレビに映ってる風景などをイデアに教えるようになってくれたんだ。これをきっかけにいろいろ話せることが多くなるといいなぁ。


そんな事を思っていたら、ちょっと喉が渇いてきたので、近くのコンビニに寄ることにしたんだ。


コンビニと言うと、イデアが閉じ込められていたのもコンビニだから彼女にとっては嫌な思い出になってるのかな?って思ったんだけど、本人の顔を見る限りでは苦手意識などはないようだったので、ちょっとほっとしながら自動車の戸を開けると、冷たい風が俺らをなでてきた。


「やっぱり寒いなぁ」

「イデアさんの恰好あのままじゃなくてよかったね」

「家の中と言い馬車の中と言い、暖かいのは魔法の力なのでしょうか?暖かい風があたり一面を覆っていましたので、私も温かいままここに来ることが出来ました。本当にご主人様たちには感謝です」

「だからぁ、ご主人様じゃないよー」

「す、すいません・・・」


車から外に出たイデアが、身をすくめながら寒さを感じているのを見て、改めて冬を感じる。カミサンが寒さに弱いので、ついエアコンのお世話になっちゃってるんだけど、季節感が薄れてしまうから駄目だよね。


お茶でも買ってとっとと行こうか?と思ったんだけど、考えて見たらまだイデアに買い物の一つもさせてない。これからこっちで生きていくんだったら買い物のひとつでも出来たほうがいいかな?って思ったんで、温かいお茶を持たせてレジに行く。


先に俺が買い物をして、それからイデアにもお願いしたんだけど、手に持っているお茶を店員さんに渡すように言うと「お願いします」と一言。あ、俺がやってるの見てたんだね。偉いなぁ。


で、店員さんから125円ですって言われると、俺が渡した小銭入れから必死にお金を出そうとしてるのよ。一応家で教えたんだけど、さらっとしか言ってなかったから大丈夫かな?


一応、後ろに人がいないことを確認して「すいません、お金に慣れてなくて、ちょっと買い物の練習させたいんでいいですか?」と店員さんに言うと、イデアの外見から外国人の方と思ってくれたのか?にこにこしながら了承してくれました。


そして、イデアが必死に出したお金を台に並べて


「これが100円で、これが10円で2つ、そして穴の開いた茶色のが5円・・・全部で125円丁度です」


なんて言ってくれて、思わず自分が感動しちゃったんよ。ありがとう!と笑顔で言うイデアに、店員さんもにっこり。


自分もありがとうございます。と言いながらお店を後にしたんだけど、うん、良い対応をしていただけると本当にありがたいし、嬉しくなるもんだなぁ。今度からコンビニ寄るならここにしよう!と心に決め、ショッピングモールへ向かったんだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


で、到着したんだけど、結構込み合ってるのね。


今日平日で、特段イベントもやってないみたいなんだけど、さすが年末だねぇ。冬休みに入ってるのもあり、お子様連れのご家族やら、中高生の団体さん?仲良しグループかな?本当にぞろぞろ歩いてるのよ。


これだったら、銀髪長身長な美人さんのイデアでも目立たないかな?人がいっぱいで良かったかも?







・・・と思っていた私がバカでした。

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