第七話
「あ、あれっ?だ、誰?この超絶ビジンな人!」
ようやく落ち着きつつあった俺らの後ろから、宿題を終わらせた息子がかなり驚いた顔でこちらを見ている。さっきカミサンから話を聞いてなんとなく経緯がわかってきた俺でさえびっくりしてるから、当たり前だよなぁ。
「体洗っただけで見違えるほどのべっぴんさんになったよ!おまえもきちんと体や歯磨ききちんとすれば美男子になれるかもよ!」
「嘘だぁ!体洗っただけでこんなに美人さんになったら、地球上のみんなが美男美女になっちゃうじゃんかよ!嘘つくならもっとましな嘘ついてよ!」
「・・・とにかく、めんどくさがらずに体の隅々まで洗ってね! わ か っ た?」
「「イエッサー!!!!」」
な、なんで俺まで・・・ま、まぁノリと勢いは大事だって事でいっか!とばかりに強引に話を進めるため、改めて机に座る俺らと彼女。ただ、まだ緊張感が残るリビングで一体どうしようかって思ってたらさ、カミサンが彼女が入っていたパッケージを持ってきて話を始めたんだ。
「えっと、改めて自己紹介するね。私の名前は村主 幸(むらぬし ゆき)、隣は旦那の正木(まさき)。息子の勇気(ゆうき)なの、よろしくね。あなたはイデアさんだよね」
「は、はい!私、獣人のイデアと言います。領主メリアデスの奴隷として働いていました。」
「へっ?じゅうじん?どれい? ナニ?何それ?」
「きもちはわかるけど、今はちょっと黙ってようか、勇気」
「いろいろ大変だったと思うし、いろいろ戸惑って疲れてしまっていると思うけど、私も旦那も貴女の事どうにかしてあげたいと思ってるから、ちょっといろいろ聞かせてくれない?」
そう言うカミサンの言葉に、彼女(これからはイデアと言おう)は、少し落ち着いたのか?ぽつりぽつりと自分の事を話してくれたんだ。
物心つく前には人間の領主の奴隷として売られていて、父母の記憶はほとんどない事。小さい頃は、身体を生かされた狭い鉱山での過酷な作業に、同い年くらいの子供たちが倒れるのを何度も見たこと。
身体が大きくなると、貴族の狩猟遊びのために動く仕事をするため、貴族に接する為の礼節や狩りの仕方を強制的に学ばされ、領主の狩猟遊びの為に獲物を呼び込んだり、捕った獲物を運び解体する作業などをしていた。
ある日、そんな彼女の美しさに気が付いた領主が、暴行目的で無理やり襲おうとしたらしく、襲われそうになったところで時が止まり、次に目を覚ました時にはうちの布団で寝ていたという事。
イデアの最後に残った記憶は、
金髪の美しい女性の声で、
「貴女はこんなところで汚されてはならない人。いつか貴女を導いてくれる人に会えるまで、ゆっくりお休みなさい」
と言われた事。
その言葉だけは忘れず記憶していたので、俺やカミサンの存在を感じた時、この人達が私を導いてくれる人だ!と思ったらしいんだ。うん、残念。それ完全に人違いだよな。いやぁ、なんの力もない一般ピーポーなおっさんのところに来ちゃったんだね。なんかごめんよ。
カミサンはそんな身の上話を聞きながら、パッケージにあった説明書を確認し、再度熱のこもった口調で話だしたんだ。
「今までの貴女はたまたま巡り合わせが悪かっただけ。だけど、ここに来たのは何か意味があると思うの。今いろいろ見てみたんだけど、どうやら私達は貴女の役に立てることがある見たい!貴女が一人で生きていく為に最初に必要なものが用意出来るかも知れないのよ!」
「…奥様。それは一体なんなのでしょうか?」
なんか知らないけど妙にタメを使うカミサン。
俺の能天気な頭の中では妙に早いドラムの音が聞こえてる。
イデアの喉がごくりと鳴るのを見て、カミサンが次に発した言葉は…
「お、か、ね! マネーよマネー!!」
思わず驚く俺!
「なぬっ!俺の給与そんなに高くねぇぞ!」
「大丈夫!あなたの給料をあてにしてないから」
「…ぐふっ! どうせ俺はへっぽこ主任だし、これ以上働いても給与が劇的に増えるわけないもんね…ちぇーだ…」
「なにいじけてるのよ!たぶん悪くても小金持ちくらいにはなれるはずだから!へーきだよ!」
イジケテル俺をよそに、妙に自信たっぷりなカミサン。
一体その説明書に何が書いてあるんだろう?
そんな事思ってたら、俺の顔見たカミサンが手をひらひらさせながら大丈夫!なんた言うのよ。なんて頼もしい!改めて惚れたわ!!
ただ、なんの確信があるのかわからないけど、未だにカミサンの行動がいまいち理解できない俺と勇気。そしてイデア。
あまりに手持ち無沙汰だったから、なんとなく二人でお茶を入れに行こうとしたら、カミサンが説明書のページを開いて何かを書き込んでる。わかんないものは考えても仕方ない。飲み物何にしようか?って勇気と二人して選んだのはココア。
イデアの話を聞いている限り、あまり甘いものは口に出来てなかったらしいし、俺らも疲れちゃったから、何となく甘いものが飲みたくなったんで出して見たんだ。
もはや展開についていけないと割り切った息子は、現実逃避しながらおもいっきり口をつけて「熱い!」とぶーたれ、イデアは相変わらず緊張して固まってるので、ふーふーして飲んで見てよと言うと何度も何度も息を吹き掛けて、恐る恐るココアを口にしたんだ。
すると彼女の周りから、虹色の波形?オーラ見たいなものが出てきたんよ!
驚いて叫ぶようにカミサン呼んだら、同じくらい驚いてる!
「ナニコレ!何したの?まーくん!」
「いやいや、ただ疲れたかな?って思ってココア飲ませただけなんだけど」
「マジカ!もしかしてこれステータスアップしてるの?地球の食べ物飲んだり食べたりして能力が上がるって、異世界小説でよく出てくるパターンじゃん!もしかしてこれってチャンス?いや!チャンスよね!うんうん。もしかしたら、うどんとウインナー食べたから怪我の治りが良くなったのかな?食べ物が体力関係なら!!!うん、今しかない!チャンスは今よ!」
そう言うか言わないかのうちに、目を輝かせたカミサンがイデアの手を握って、ブンブン振り回したかと思ったら、
「今がチャンス!やりましょう!旦那!あれ用意して! 勇気、今は黙っててね!彼女には内緒だよ!」
って、いつの間にか出してあった懐かしい品々を指差したんだ。
息子に口止めしてるあたり、何か企んでるとは思うけど何なんだろうな?きっと何か考えがあるとは思うんだけど、どうもよくわからない。
説明書を読みこんでからのカミサンは何故かやたらハイテンションだし、何か確証があってやってるようだけど、俺にはさっぱりわからない。決して危険な事ではないって言ってるんだけど、正直何するのかわからないな。
ぽかーんとしている彼女に対して今は何も出来ないけど、きっとカミサンが楽しい事やるだろうから、何をやるかわかったら思いっきり楽しんでもらおう。今日しか出来ないことを思いっきり楽しむが我が家訓(って言っても俺が勝手につけているだけ)
何するかわからないけど、カミサンの言うとおりに動いてみようか。
息子や、もう少し付き合っておくれぃ。
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