第八話

「「なんか久しぶりだねぇ」」


俺とカミサンが机の上に並べているのは、一昔から最近までのゲーム機だったりパソコン。ソフトも山積みにしていつでも起動できるように電源を繋げていってるんだ。


勇気が生まれる前まで、お互いの趣味がゲーム。特にロールプレイングゲームが好きって事もあって、お互いいろいろなゲームを買ってはお互い貸し借りしてたから、自慢じゃないけどかなりある。


オンラインゲームも二人してやってたんだけど、子供が生まれてからはゲームを楽しむ余裕がなくなっちゃったからそのまま引退。でも、もしこの時が来るのを知ってたら引退しないでやってたのになぁ~なんて言いながら、お互い笑っちゃったよ。


「何ですか?この四角いのは?」

「四角いのから光が出てきますけど?何でしょうか?」

なんて興味津々に見ているイデアの様子が面白い。


これからやることを内緒にしながら、どんどんゲーム機などを設置していくと、気が付けばリビングいっぱいにゲーム機が置かれていた。


リビングの両サイドにはうちの予算の都合で二台のテレビ。

次から次にゲーム機本体を起動させて行き、画面にはどんどん各ゲームの主人公たちが映って来て、思わず続きをしたくなるんだけどそこは我慢。

きっとカミサンにも考えがあるんだろうし、ここで手を出したらあとで大変なことが起こるって事は二十年近くの付き合いでよくわかってる。


カミサンと無駄に競い合ってやり込んできたゲーム達が、今、一列に並んでる姿を見てると、やりたくてうずうずするし、懐かしくてひとつひとつ手に取って触りたくもなる。懐かしすぎてじーんとしちゃうあたり、年をとってもまだまだゲーム好きなんだって感じるよ。


ふと脇でイデアを見てたら、見慣れない風景が並んでいるのが不思議なのか?興味津々な様子で四角い画面を見続けてるんだ。勇気も俺らがやり込んでいたゲームに興味があるのか?いろいろなゲーム画面を見てはやりたそうな表情を浮かべてる。


「父さん!このゲームやってもいい?」

「いや・・・どう考えても駄目でしょ!母さん次第だからもう少し待ってちょ」

「ご主人様。これは何でしょうか?この四角の先にはいろいろな世界があるのでしょうか?これは凄い魔法ですね!」

「うん、そうなのよー、で、今からね、イデアはこの世界に飛び込んでもらうおうと思ってるから、もうちょっと待っててね。」

「はいっ?へっ?」


目の前のゲーム機に向かって飛び込めって言うカミサンに戸惑うイデア。

イデアはこのゲーム機が何なのかわからないと思うけど、目の前の画面に向かって飛び込めなんて言われて驚かないわけないよね。俺も準備中カミサンに言われなかったら何言ってるの?って言っちゃったって思うから気持ちはわかるよ。

そんな驚くイデアを尻目にどんどん話をしていくカミサンが本当に頼もしい。


「イデアちゃん、さっそくだけど、貴方には”移転”の魔法を使ってもらうよ」

「えっ?私、魔法なんて使えません!魔法なんてどこかにいる偉い人しか使えないんじゃないですか?」


そう言いながら慌てるイデアを落ち着かせながら、カミサンはイデアの目をしっかり見て手を握る。


「私はさっき、貴女が魔法を使える可能性があることを知ったの。イデアちゃんが知らないのはイデアちゃんがまだ自分の意思で使ってないから、ただそれだけなのよ」

「イデアちゃんには、この魔法のかばんを持ってもらって、今から私が言う言葉をそのまま言ってもらうだけでいいんだから、そんなに緊張しなくても大丈夫よ!失敗しても何が起こるって訳でもないだろうし、気楽に気楽に行きましょうよ~ では行きますよー♪」


相変わらず戸惑うイデアの様子をあえて無視して、カミサンは摩訶不思議な呪文のような言葉を発していく。イデアの手を握って一小節一小節、意味のわからない言葉の列を紡いでいく。いつの間にか大きくなった魔法の鞄を胸に抱きながら、イデアもカミサンに続き間違えないように必死に言葉を紡いでいく。


そして、最後の言葉が終わったかと思った瞬間。


二人は光の玉になり、携帯ゲーム機に吸い込まれていったんだ。


「はっ?」

「へっ?」


正直目の前で起こった事が信じられない。

人生の中で二度目かも知れない。


移転の魔法を唱えるなんてカミサンは言ってたけど、本当にそんなものがあるって思わなかった。もしそんな魔法があったらそれはそれで面白いかな?って思いながらも、むしろ魔法が失敗したらカミサンをからかってやろうかな?なんて思ってた俺。ホントすまんカミサン!勇気は絶句してるよ。


で、しばらく固まってたんだけど…


「なななななな何あれ!母さんとイデアさんが消えちゃったよ!」

「おおおおおおちつけ!とにかく今は余計な事しないで母さんが帰ってくるのを待つんだ!」


いやぁこりゃ落ち着けって方が無理だわ!

むしろこれで下手に変な事してカミサンとイデアが戻らない方が怖いから黙って見てる事しか出来ないって思ったんだ。何も出来ない以上、見てる事しか出来ないからしっかり見ておこう!って勇気を二人でゲーム画面を見ていると、吸い込まれた先のゲーム機の画面の先に、あらかじめ用意していた主人公キャラクターとは別に見慣れないキャラクターが二人立ってるんだ。


「あっ!これかあさんとイデアさんだよね?」

「かもかも!ドット絵でもわかるもんだなぁ…すげぇなぁ…」

「驚くところそこ?!」


そんな見慣れないキャラクターが主人公キャラクターに近づくと、勝手にアイテム欄やステータス欄が開いて、ゲームのコマンド欄にどんどん表示が出てくる。


「????に9999999Gを渡した」

「????に薬草を渡した」

「????に回復薬を渡した」

「????にすばやさの種を渡した」

・・・・

・・・

・・


そして、アイテム欄にあった品物がなくなると同時に、画面から光の玉が二つ出てきて、パッと弾けたかと思うと、カミサンとイデアの二人が目の前に立っていたんだ。良かった。五体満足元気そうだなって思ったら…


「次はあそこね!」

「はい!」


次の瞬間、二人が同じように呪文を唱えたかと思ったら、今度はさっき入ったゲーム機の隣にあるゲーム機に二つの光が吸い込まれて行ったんだ。

それを見て、なんとなくカミサンがやりたいことが分かった俺は、出てきたゲーム機に間違えて入らないように、ゲーム機の電源を切り、蓋を閉める。


「父さん!なんでそんなに冷静なの?俺わけわからないよ!」

「すまん勇気!俺もわからん! 考えるな!感じろ!!」


そりゃパニック起こすよなぁって思いながら、俺も半分やけになってやってる。

ゲーム画面でアイテムが出される様子を見て、二人が出てくると同時に画面を閉める。様子を見て別のセーブデータを起動させてみたりもしてるのは、きっとカミサンがそれを求めてるのかも?って言う勘からなんだけど…きっとあってるよな?カミサン。


そんな事をしていって、ガクガクブルブルしながら待つこと2時間。


息が上がって倒れんでしまった二人を見て、全てのゲーム機を閉じてる俺。

勇気にはゲーム機を全て閉じて電源を切ってもらってるんだけど、二人とも肩で息をするくらい疲れてるんだけど、顔はとっても生き生きしてるよ。


「なかなか面白い体験が出来たよ!!!」

と興奮冷めやらぬカミサンに対して、

「も、もうダメです!!一歩も動けません!!!」

と倒れ込んでぴくぴくしてるイデア。


正直、二人がうらやましい。

ゲームの中に入れるって全だんすぃの夢じゃん!って思ったんだけど、入っては出て入っては出ての繰り返しがハードだったかな?


目の前で見ていても、正直、何がなんだかわからないけど、興奮してるカミサンからは楽しいって気持ちが伝わってくるよ。自分達が楽しんだゲームの世界に入って、自分たちが育てて楽しんだ主人公が持っている所持品、所持金を頂いて、魔法のかばんに入れ元の世界に戻り、続けざまに別のゲームに入り、また主人公の持っている所持品などを頂いて次へ次へと繰り返す。いろいろな世界の中で同じ事したんだけど、ゲームの中の世界はどれも違ってどれも新鮮で楽しかったって、キラキラした目で楽しそうに話してくれるんだよ。


カミサンと二人で無駄に競ってた事もあったから、アイテムや所持金はMAX。貴重なアイテムも一杯入ってるデータも多いと思うから、集めたものがどれくらいになってるのか楽しみだよ。


まだカバンの中に入ってるものは見てないけど、カミサンがいろいろ受け取ったんだから大丈夫でしょ?このアイテムが無駄になっても、移転の魔法が成功したってだけで大きな進歩になったはずだからやって良かったんじゃないかな?


有料くじから女の子が出て来た。

風呂に入れたら綺麗になったり、飲み物飲んだら光輝いたり。

呪文を唱えたらゲームの中に入っちゃった。

こんな事が続いてるから自分の常識が麻痺しちゃってる気もする。

勇気なんか完全に混乱してるけど、まだまだいろいろありそうだから、いちいち混乱してたらキリないなぁって思う。難しいけどそのうち慣れかなぁ?

慣れないとイデアと生活なんて出来ないだろうからね。流れに任せながらも慣れていこう。うん。


さて、気持ちの整理はついた。

かばんの中身はどうなってるかな?

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