第六話
「おーい生きてるかぁ?」
「お姉さんどうしたの?」
「まぁくん!何か変な事したでしょ?!」
「なんもしてないよ!信じてよ!!!!!」
すっかり固まってしまった彼女を目の前にして、すっかり困ってしまった俺らがいます。さっきまで美味しそうにうどんを頬張っていた彼女の顔から笑顔が消えちゃって、今はとっても険しい表情しちゃってるんだよね。俺、何か悪いことをしたか?
そんな俺の表情を見て何か思ったのか?手に持ったフォークを丁寧に置いて、椅子の脇に正座してまた土下座しちゃった彼女。
「奴隷の私が立場をわきまえず、皆様と席を並べて食事をしてしまい申し訳ありません!奥様、ご子息様を差し置いて、同じ食べ物を礼儀を無視して頬張りましたこと、誠に申し訳ありません!申し訳ありません!!!!」
次の瞬間、テーブルにあったフォークをがっとつかんで危ない事しそうになってたから、慌ててとりあげたらその場に崩れ落ちて泣いてるの。
なんか時代劇で見たようなシチュエーション。
もしかして、これって自害しようとしたパターンか?!
なんか嫌な予感がして取り上げたんだけど、本当に良かった…
時代劇を想像した俺も俺だけど、もしあの勢いでフォークが刺さったら…
想像しただけで寒気がしてきたよ!!!!
「馬鹿野郎!!! 命を粗末にするな!!!!!!!!!」
泣き崩れる彼女を怒鳴りつけながらも背中から嫌な汗が止まらない。
もし推測が正しかったら今はとても目が離せない。
この子の身に沁みついてる何かがとっても危ない。
カミサンも息子も固まったままだし、ホント、この後俺らも彼女も大丈夫か?って思ってきたよ。
俺とカミサンは社会人経験とか、ファンタジー系の小説で多少耐性がる気がするんだけど、やっぱり現実は違うわ。強がってるけど、こんな事言ってる俺もあまりにいろいろありすぎて、この展開についていけてないから、そのうち大ポカするんだろうなぁ。まぁ命に関わらなっきゃなんでもいいけど。
こんな事を彼女の手を抑えながら考えていたら、ようやくカミサンが復活。
息子は・・・うん、駄目だろ?もうぽかーんとして何にも出来ない感じだわ。
目の前で起こったことについていけなくて完全に固まってるから、冬休みの宿題終わらせちゃえ!なんて言いながら一旦部屋に戻したよ。
あんなショッキングな事があった後だから勉強どころじゃないかも知れないけど、現実的なものが目の前にあったほうが冷静になれるだろうから、今は宿題に感謝だね。俺も時間差でドキドキしてきたからちょっと離れたいと思ったのはここだけの話にしておいてください。
で、部屋から戻って来たらカミサンが彼女を椅子に座らせてるの。
なんか空気が重い。
んで、カミサン滅茶苦茶怒ってる。
家族しかわからないカミサンの空気を感じながらそっと近くに座ろうとすると、いつの間にか持ってきたホワイトボードに何か書いてる。そういえば彼女、言葉は通じるけど読めるのか?日本語でOKか?英語圏ならもしかしたら何とかなるかもしれないけど、それ以外はアウトだぜ!
怒涛の展開ですっかり忘れちゃってたけど、俺ら彼女の事何も知らない。
彼女ってこの世界の事どれだけわかるんだろう?
話せるけど読めない事もあるだろうし、そもそも生きていた場所も全然違うだろうからここから出たらパニックおこしちゃいそうだな。
ただ今はこの状況に慣れてもらわないと困っちゃう。
俺らの着てるものから住まい、食事まで相いれないものもあるかもしれないけど、これから彼女と俺らが何処までそれをすり合わせて行けるのか?探っていかないといけないもんな。
そんな事をぼんやり思ってたら、カミサンが声をかけてくれた。
きっとカミサンも同じことを考えていたんだろうね。
何とか冷静に話をしたいって思ったんだなって言うのが、目の前のホワイトボードを見て感じたんで、余計な事を言わないで脇でどっしり構えることにしたんだ。
ホワイトボードには
<<やってはいけない事>>
・人や自分を傷つける事
・自分を駄目だと思わない事
・
って当たり前の事が書いてあるんだけど、カミサンはカミサンなりに冷静になろうとしていたことが伺える。なんとか彼女にわかってもらおうと必死にいろいろ話してるだけど、彼女の様子を見る限り彼女にはカミサン言葉が入って言ってない感じ。きっと緊張しすぎて座ってるのが精一杯なんだろうなって思ったよ。
「ホント駄目だなこりゃ。どうしたらいっかな?」
「うん、こりゃどうにもならないよね。いったんやめましょ!それよりもイデアちゃん、お風呂入って綺麗にしましょう!」
「お、おふろでございますか?」
「そうだな、風呂入ってすっきりすれば、少しは話しやすくなるかもな!」
煮詰まったら風呂!
気持ちよくなれば少しは話も弾むだろうって思ってさ、カミサンの言葉に同意して風呂の準備をする俺。
やっぱりまた俺のパンツ出さないと駄目だよね。
俺のお気に入りのニューパンツがどんどん無くなって行くよ。
仕方ないのはわかってるけど、そう簡単になかなか気に入るパンツ見つけられないから、割り切るのに時間がかかるんだよ!
そんな事をブツブツ言いながら着替えを用意すると、風呂の前からとっとと追い出される。理不尽さを感じるけど仕方がない。だって俺オトコノコダモンorz
着替えを用意している間、カミサンが彼女にお風呂の入り方を教えてたんだけど、どうやら風呂自体よくわかってなかったみたい。シャワーの使い方シャンプートリートメント、石鹸もよくわかってなかったっぽい。暖かいお湯に入ってゆっくりするって事も下手したらわかってないかもしれない。
結局、カミサンが一緒に入ることになったんだけど、最悪の事を考えて脱衣所の近くでスタンバってるんだけど、オトコノコの俺にはかなりキツイ。悶々としちゃうじゃないか!カミサンと二人だったら一緒に入ろ!なんて冗談の一つも言えるけど、知らない女性と一緒に入るなんてとんでもない!冗談一つでヘンタイの称号は得たくないのよ!
そんな事を悶々と考えていたら、いつの間にか二人は風呂に入ってたらしい。反響してくる音でなんとなく入ったって事がわかるんだけど、ここからカミサンの大変な様子が聞こえてきてげんなり。
「イデアちゃん。傷痛まない?痛いなら言ってね」
「いえ、奥様。私の体など気遣わず。奥様が暖かい湯にお入りください」
「いやね、イデアちゃんを綺麗にするために入ってるんだから」
「私など川の水で十分でございます!」
「川の水なんて汚いし冷たいから!いいから一緒に湯船に入るの!ですがもデガワもないの!ほらっ!入った入った!」
・・・
・・
「お、お湯がいっぱいです!貴重な水を私ごときに使ってもよろしいのでしょうか?」「お、お花の匂いがします!こんな高価なものを私がつかっても・・・」「お湯の滝が・・・」「柔らかい布で拭いても・・・」
・・・・・
・・・
・・
ごめん、もうお腹いっぱいです。
もう風呂に入ってから20分もしないうちに何回「私ごときに」なんて聞いたことか、俺は風呂から聞こえて来る声だけだけど、一緒に入ってるカミサンは本当にうんざりしてるんだろうなぁ。
なんだか押し付けちゃったみたいで申し訳ないって思いながら、鉢合わせしないようにその場を離れ、リビングでいろいろ片付けてたりお茶を入れてたら、やっと二人が戻ってきたんで何気なくそちらの方向を見たらさ。
光輝く美少女がそこにいたんよ!!!
元から綺麗な女の子だって思ってたんだけど、それよりもところどころにある傷や、苦痛にゆがむ顔をどうにかしたいと思ったのが先に来てたから、容姿についてはあまり考える余裕もなかったからね。
改めて見たら滅茶苦茶すごい美人さんなんよ!
こりゃ、街中に行ったら大変なことになるな!
ただな、なんだかわからないけど、なんか不自然な感じがするんだ。
ただ体を洗っただけじゃここまで綺麗にならないだろうし、布団で寝ていた彼女より1.5倍くらい綺麗さが増してる気がするんだけど、なんだろうなぁ?って思ってたらさ、後ろから来たカミサンもかなり驚いてる。
「信じらんないんだけど、身体洗ってるそばからどんどん傷が治っていってね、シャンプーしてたらどんどん髪の毛に艶が出てきてどんどん美人さんになっていったのよ!入浴剤入りのお風呂に浸かってもらったらお肌もどんどんピカピカになって…もう!本当に羨ましい!!!私もご利益にあやかりたかったよ!!!よよよよよ」
興奮して滅茶苦茶早口になっちゃってるんだけど、泣き真似込みで話すあたり本当に頭の回転が速いんだなぁって妙に感心。俺も最近肌のシミが…じゃなくて!とりあえず彼女と話をしたいなと思ったらね、
「私・・・どうしたら良いのでしょうか?」
なんて ボロボロ涙を流しながら、絶望に近い表情でこちらを向いていたんだ。
「私のようなものに、このような強力な薬や魔法を使っていただき、傷を直していただいたことに対して私は何もできません。私が今持っているものはこの体だけ。でも、この体でも払いきれないです…私、どうしたら…」
それ見てたらさ、彼女がただただ不安だったんだなって気がついて、気がついたら俺ら、彼女を抱き締めてたんだ。
「大丈夫、大丈夫。大した事してないから!」
「大丈夫、大丈夫!イデアちゃんが元気になれたならそれでいいの!」
そう言ってる俺らの声に、まだまだ戸惑いを隠せない彼女だったんだけど、最初に比べて少しだけ表情が柔らかくなったから、思わず冗談で
「だったら、とびっきりの笑顔を頂戴!」
って言ったらさ、ぎこちないけど笑顔を作ってくれたんだ。
まだまだ時間がかかりそうかな?とは思ったんだけど、先にはすすめそうかな?と思った今日この頃。さて、これから何処までお話出来るかな?
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