第五話

気が付いたら爆睡してた。

どんだけ寝てたんだろうか?

うーんって伸びをしたら、視線の先には昨日の女の子が寝ている。寝ぼけてて思わずドキッっとしたけど、やっぱり夢じゃないんだよな。


コンビニでくじ引いて、当たったフィギュアが生身の女の子に変わったんだもんな…


一瞬、なんてファンタジー!!って思っちゃったんだけど、傷だらけで苦しんでる女の子を目の前にしたら、そんな浮かれた気持ちなんて吹き飛んだよ。


俺も力尽きて寝ちゃったけど、若い女の子の隣におっさんとは言え男がひとり。一応声はかけたけど、緊張して寝れないって事がないといいなと思っていたから、今、目の前で優しい表情で寝ているのを見てほっとしたよ。


気が付けば俺にも毛布がかかってる。きっとカミサンがかけてくれたのかな?本当にありがたい。


リビングのほうからテレビの音が流れているのが聞こえて目が覚めたんだけど、時計を見ると7時。今日は土曜日だからまだ寝れるけど、昨日の事が頭をグルグル回ってて正直寝れない。諦めも肝心だな。


「おはよう・・・毛布ありがとうな。昨日は寝れた?」

「うんおかげさまで。まぁくんもありがとうね。大変だったでしょ?」

「まぁ、あの子も落ち着いて良く寝てるし、起きて来たらいろいろ聞いたらいいかな?」

「そうだね。お腹も空いてるだろうし、ご飯も必要かな?」


そんな事を言いながらテレビをつけると、年末年始のセールなどのCMが流れている。今年も忙しすぎてあっと言う間に年末まで来ちゃったけど、これからが忙しさのラストスパートだもんな、頑張らないとな。


巻き込まれたからって言っても、目の前が起こっちゃったもんはほっとけないよね。これからやらなければいけない山積みだよ。


これから彼女にいろいろ聞かないといけないのは当たり前だけど、彼女の事、警察とか市役所にも相談しなっきゃなんないかな?どう説明しようか?


『知らないコンビニで引いたくじの景品から、女の子が出てきたんですが、どうしましょう?』…


うん、間違いなくたちの悪いいたずらだと思われる。俺だったらそう思う…きっと。 まぁそこら辺は多少濁して話しするけど、 公共機関に相談したって実績を残しておいたほうが後々いいだろうからね。


今週終わったら俺も仕事が忙しくなるし、早く対応しないと行政も休みになって相談にものってもらえなくなる。でも、本人が元気にならないと移動も難しいだろうから、まずは彼女が元気にならないとどうにもならないよな、なんてカミサンと二人で話をしていたら、上からドッタンバッタンと音がしてきたので、慌てて階段に向かい息子を止める。


「とうさん、かあさんおはよ! ん?な、なになに?どうしたの?」

「今ちょっとな、静かにそこ見てみ」

「ホント静かにお願いね。勇気」


戸を開け中の様子を見てもらってから、念には念を押して唇に人差し指を立てながら、三人そろって抜き足差し足でリビングに戻ると、


「な、なんかすごく綺麗なおねぇさんがいるんだけど!!! なになに一体どうしたの?」

「ち、ちょっ!気持ちはわかるけど、ちょっと静かにな。彼女起きちゃうだろ?」


そんな興奮気味な息子に、昨日あった本当の事を言っても、なかなか信じてもらえないだろうから、おいおい話そう。


「道端で倒れているところを助けたんだけど、正直何がどうなっているかよくわかんねえ。今はゆっくり寝かせてやりたいんだ。彼女には起きたらゆっくり話を聞くつもりだけど、まだまだ時間かかりそうだな。」

「そっか、父さん達、昨日は大変だったんだね」

「それまで少し、勇気の部屋を貸してほしいんだけどいいかな?」

「うーん、仕方ないよね。人助けだもんね」


ちょっと不満な顔をしながらも、頷いてくれた息子に感謝してると、カミサンが台所に向かい始めたので、一緒に朝ご飯の準備をしはじめる。うちは”働かざる者食うべからず”なのです。働かないとご飯にありつけないのですよ。


「昨日バタバタしてたから、うどんくらいしかないよ。あとは適当にやるけどいい?」

「「はいっ!喜んで!!」」


そう言うカミサンに某居酒屋さんぱりに答えながら、息子と一緒にテーブルを拭いたり食器を並べたりしていると、離れた場所から扉が開いた音がした。


「勇気、悪い、ちょっと手が離せないから見てきてくんね」

「わかったー」


ゆうきも気が付いていたのか、俺の声に反応し、リビングのドア開けたところ、「うわっ!」って声をあげて戻ってきた。


「父ちゃんどうしよう」

「ん?何が? どったの?」


一瞬で戻ってきた息子が、微妙な顔をして戻ってきたので、 手を休めてリビングから出ようとすると



・・・


・・


彼女がね、


戸の前で土下座してるのよ!


DO GE ZA!


「な、なっ!なにしとんよ!」


思わず彼女を抱え上げようとするんだけど、頑なにその姿勢を崩さないんだ。

あんなに疲れてていっぱい傷ついて、少しは気持ち良く寝れてるかな?って思って寝かしてたのに、起きたら土下座ったどういう事よ!もっとゆっくり休んで体を休めてから話を聞きたいって思ったのに、彼女は姿勢を崩さないでそのまま話すんよ。


「この度はわたくしの様な奴隷に対し、上等な寝具や衣類を与えて下さり、尚且つ、治療まで施して頂き申し訳ありません。感謝してもしきれませんが、私には払えるものが何一つありません。もし獣人の私で宜しければ、経験はございませんがご主人様の夜伽の相手「馬鹿ッ!!!!」」


危ねぇ・・・ったく、まだ小学生の息子の前でなんて事言うんだ!って思わず怒鳴っちゃったよ!いきなり大声出したから一緒にいた息子がびくっとしちゃったけど、彼女の顔を見て泣きそうな顔になっちゃったんだよ。


だよな。


彼女の顔、緊張でひきつっててガクガク震えてる。

本人も気が付いてないかも知れないけど、目からは涙が出てる。

土下座している彼女の体も弱弱しくて、とても見てらんないんだよ。

そんな彼女が起こられるのが怖い小さな子に見えて、つい同じ目線で話をする。


「あのさ、君が誰なのか?どこから来て何をしてたのか?さっぱりわからないけど、ここは日本。そこらへんで突発的に争いが起こるような場所じゃないんだよ。奴隷なんてものもない。だから俺らにへりくだる事なんてないんだよ」

「ですが…」

「俺もカミサンも疲れ切って倒れてた君をほっとけなかったけなんだよね。だからこうやって君が起きてきてくれて、話が出来るってだけでもほっとしてる」


そんな事を言ってたら、後ろからカミサンが顔を覗かせてきて


「だからね、もっと元気になるためにね、ご飯も一緒に食べて欲しいんだけど、どう?簡単なものしかできないけど、いっぱい作ったから食べてね。そんな冷たいところで座ってると体冷えちゃうよ。さあおいで」


なんて言うんだよ。


良いタイミングで出汁の良い香りがしてさ、

相変わらず何かにおびえている彼女の表情とは裏腹に、お腹からは可愛らしい音がしてたから、まぁまぁとかさぁさぁなんて言いながら彼女を立たせて椅子に座らせる。


机の上には鮭とウインナーを焼いたものを大皿にでーんと置いちゃう。

取り合わせなんて知ったこっちゃねぇ!とにかくいっぱい置いてみたんだけど、彼女は緊張してるのか?フォークにも箸にも手をつけないのよ。


「ささっ、温かいうちに召し上がれ☆」

「い、いいえ、私などに気をつかってもらっては…」

「ここまで用意したんだもの、かえって食べてもらわないと困っちゃうわ」

「なんか知んないけどお腹空いた!お姉さんも一緒に食べよ!」


緊張してか椅子に座ったまま固まってる彼女に、とにかく何か食べてもらいたくて、目の前の料理を食べながら勧めていると、おそるおそる手にしたフォークでウインナーを一口入れてくれたんだ。






「お、おいひい・・・」


目を見開いてびっくりしてる彼女を見て、家族みんなほっと一息。

無我夢中でウインナーを食べてる彼女にうどんを勧めて見ると、俺らを真似して啜り始める。ちょっと熱いけど、噛み応えのある麺に戸惑いながら、ほふほふ言いながら麺を食べている。


「おいひぃです…おぃひぃです…」


泣き笑いでうどんを啜る彼女を見てたら、どんどん食べさせてあげたくなってさ。

席を離れてうどんを茹で始める俺だったり、それと入れ替えで適当な料理をしだすカミサンだったり、さりげなく取り皿を彼女に用意してる息子がいて。思いやりがある家庭の中に自分がいるって事が本当に嬉しくなってかなり嬉しい。


そんなみんなを見ながら自分の分のうどんを啜っていたら、ふと彼女と目が合ってさ、顔一面についてる食べ物の破片に思わず笑顔になってたら、彼女固まっちゃったんよ。


うどんを頬張りながら固まるってどんだけ・・・


おーいって言っても駄目。


カミサンと息子に言って貰っても駄目。


う~ん・・・どないしよ?

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