第二話

結局家に帰ったのは22時過ぎ。

こういう時、マンションだったら周りに気をつかってたのかな?なんて思いながら家の扉をゆっくり開けると、おかえりと小さな声が聞こえてきた。


家にいる小学生の息子はすでに夢の中。最近平日一緒にご飯を食べれてない。学校の話もあまり聞けてないなぁって思いながら扉を開けると、テレビをつけてぼーっとしているカミサンがいたんだ。


「いつも遅くてごめん。これ」

「あっ、ありがとう。でもテレビ見てただけだしなんもしてないよ」


こんなに遅くなっても、なんだかんだ自分の事を待っていてくれるカミサンに感謝しつつ、差し入れと言ってミルクティーを差し出すと嬉しそうに温かい容器を頬に当ててるよ。そんな様子を見て、ちょっと笑っちゃったらさ、


「私、そ、そんなに安くないんだからね」

なんて頬を軽く膨らませ怒ったふりしてるんよ。かわいいなぁ本当に。


カミサンとは付き合って20年以上。

いろいろあったけど、なんだかんだ俺の事を一番わかってくれて、ずっと一緒にいてくれる事に感謝しながら、なんだかんだ用意してくれていたご飯を少しだけ頂く。


今日は、おにぎり食べてるから、おかずとお味噌汁だけ少しだけ。最近、野菜が多めの料理を用意してくれてる事が多いんだけど、自分の健康の事を考えてくれているのかな?本当に感謝感謝だよ!


そんなカミサンの顔を見ながらさ、もっといっぱい稼がなっきゃ!でも仕事だけじゃなくて、家の事もやらなっきゃ。息子にもいろいろ話したいこともあるし、カミサンにももっと気持ちを伝えていきたいなって思ってたら、玄関に置いてた荷物を持ってカミサンが不思議そうな顔をしているのよ。


「えっと玄関にこれ置いてあったんだけど、珍しいねこんなの買うって」

「だねぇ、なんで買ったかわからないけど、気が付いたらくじ引いてたんだよね」


フィギュアの箱を不思議そうに見ながら机に並べるカミサンの言葉に、あらためて思う。息子が小さい頃は、息子の笑顔が見たくておもちゃを買ってたんだけど、自分のためにおもちゃは買ったことがない。美少女系のフィギュアなんて眼中になかった俺がそんなフィギュアを持ってくるって不思議だよね?


まぁ隠すこともないから、コンビニアルテミスの事いろいろ話してたら『メイド服の店員さん』に食いつくカミサン。


「ずるい!メイドさんに私も会いたかったのに!」

「ごめんごめん。あ、そー言えば、一度メイド喫茶行ってみたいって言ってたもんね。ごめんよ。偶然だったけど先にそれ系のもの経験してね。ま、まぁ今度、行ってみようよ!」


そんなご機嫌斜め気味のカミサンに謝りながら、ご馳走様と手を合わせ食器を片付けながら逃げる俺。こりゃ早々に機会を作らないといけないよなぁって思いながら、改めて、机に並べられたフィギュアを見てみると、可愛らしいフィギュアがこっち見てる。


頭と胴体が同じくらいの大きさになっている、二頭身の女の子が、心なしか痛そうな表情を浮かべ箱に入ってる。なんで俺はこのキャラクターを手にとったんだろうか?って思いながら表情を見てたんだけど『><』ってなってたのが気になってたのかな?


片付け終わって、ご機嫌斜めのカミサンに手を合わせながらフィギュアの箱を手に取ると、箱の上には『イデア』と書いてある。きっとこの子の名前かな?髪の毛は白髪、いや、設定的には銀髪なのかな?猫耳っぽいのが頭から生えているような感じ、お尻からこれまた白髪?銀髪の狐っぽい尻尾が生えているよ。


二頭身だからわかりにくいけど、衣装は作務衣のような上着にホットパンツかな?それらは薄汚れた感じの茶色。もう少し可愛い衣装だったらよかったのになぁと思いながらパッケージの裏を見ていると、この子の設定が書いてあったよ。意外と凝ってるなぁ。


設定には

・剣と魔法が入り乱れた中世ヨーロッパのような異世界に生まれ、とある人間の貴族に奴隷として使われていた亜人の少女。

・何も力がないと思いながら奴隷として命令をこなしていた15歳の誕生日、突然腕に激痛が走り紋章が浮かぶも、それが何かわからないまま日々を過ごしていた。

・成長して美しくなったイデアだが、そんな彼女に興味を示した主人に襲われかけた時、恐怖から魔法が発動し今に至る。彼女の明日はどうなるのか?


って書いてあるよ。


こういうフィギュアって、そんな暗い設定とか書かないよね。勝手なイメージだけどさ。さらっと書いてあるけど、たぶんずっと奴隷として使われていたから綺麗な衣装じゃなかったって事だろうし、フィギュア良く見たらなんかところどころに切り傷みたいなのもあるよ。どんな層狙ったんだよこれ!


ま、まぁ、そんな事言ってもしゃーない。せめて自分の手元にあるうちは、綺麗な洋服着せて苦痛もないただの可愛いキャラクターとしていてもらいたいなって思いながら衣装っぽい5等の景品に手を伸ばす。


「えっと5等は『魔法のかばん』と『旅人のマント』か」


あの時慌てててキャラクターの輪郭しか見てなかったけど、こんな設定ってわかってたら絶対に可愛らしい洋服にしたのにな。我ながらチョイスの悪さに愕然としてしまったけど、仕方がない。


「魔法のかばん」は水色と白の二色の少し大き目な方掛けかばん。

自分の魔法力の大きさ次第でいろいろなものを収納できるかばん、最低でも一部屋くらいのスペースがあり、手で持てるものなら収納可能。取り出す時は出すものを頭に思い浮かべれば品物が目の前に出現するって書いてあるよ。


こんなんあったら便利でいいよなぁ~。

ま、現実世界で魔法も何もあったもんじゃないけど、某青色になっちゃった猫型ロボットのお腹のポケット見たいで夢があっていいよね。


「旅人のマント」は鮮やかな水色が目を惹いたから手にしたんだけど、何か効果があるものではなく、一般的な装備らしい。くじ引きとしてはハズレだろうけど、ま、いっか。そんな事をぶつぶつ言ってると、カミサンもフィギュアの箱を見始めてて顔をしかめてる。


「あまり気持ちの良いものじゃないね」

「だよなぁ」


設定を見てなんだか可哀そうになっちゃってさ、早くこのフィギュアを着替えさせたいなって思って、景品のパッケージを片っ端から開封しまくってたら、3等のフィギュアに手をかけた途端・・・


バチン!


って大きい音がして、辺りが真っ暗になったんよ。ブレーカーでも落ちたか?って思ったけど、カミサンも料理を終えキッチンの電気は消えてる。息子も夢の中。さっきまで晴れてたし、雷が鳴る時期でもない。おっかしいなぁ。


築十数年しか経ってないけど早くもボロが出たか?って思いながら、電気系統の様子を見に行こうとしたらさ、かすかに声が聞こえた気がしたんよ。


「ん?なんかいった?」

「えっ?なんも言ってないよ?それより早くどうにかしてよ!」


真っ暗な中、メガネっ子のカミサンにはきついものがあるのか?いつもよりキツイ口調で言われた事にちょっとショックを受けながら、椅子から立とうとした時、それは起こったんだ。



開封されたフィギュアの周辺から、


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


と低い音と振動が、そして強烈な光が出てきたんよ!



なになになに?って夫婦そろって慌ててると、気のせいかと思った声がはっきり聞こえてきたんだ。




『彼女の物語はある日を境に動きを止めた』


『しかし、今、封印は解かれ、時は動き出した』


『『『獣人イデアに幸おおからん事を!!!!』』』




最後の台詞が、複数人による絶叫に聞こえたかと思ったら、多くの光がフィギュアに集まってきて、気がついたらいたんだよ!それが!!



あんだって?じゃないよ!



猫耳ふさふさ尻尾の女の子が、生身の状態で机に転がってきたんよ!!!!


なにこれっ!


なんかのドッキリ????


ワケわからんよ本当に!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る