第三話
・・・・・・
・・・・
・・
はっ!
あまりに突拍子もない出来事に夫婦そろって顔を見合わせる俺ら。思わずほっぺたつねりあい…
「痛い!」
「痛い・・・よなぁ・・・ごめんよ。やっぱり夢じゃないみたいだ」
「生きてるよね?」
「だよなぁ・・・どうするよ」
「とりあえずテーブルはなくない?布団ひくから持ってきて」
「りょーかい!」
非現実的な出来事を目の前にしながらも、このままでほっておけないなと言いながらテキパキと行動する俺ら夫婦。
カミサンが彼女?の布団を用意しているのを確認し、彼女をそっと抱くと、見た目の身長に比べ、かなり軽くて驚いてしまった。
リビングから子供部屋まで、カミサンについてもらいながら移動してる間、彼女の息づかいや体温、そしてそれらが体を動いている事実を感じ、改めて彼女が生きてるって感じたんだ。
布団に寝かせた彼女を見ると、完全に気を失っていて顔色もかなり悪い。
よくよく見ると身体中に大小様々な傷もあるんだ。服装もボロ切れか?って思うくらいボロボロで正直見てらんない。こりゃほっとけないなってカミサンと話したんだ。
その後、カミサンがぬるま湯に浸けたタオルで身体をふいたり、簡単な傷の手当てをしたりといろいろしてくれてる間、俺はさっきのわけのわからない現象でぐっちゃぐちゃになってしまったリビングを片付けたりしてた。
あの訳の分からない大きな声と一緒にあたり一面突風が吹き荒れ、洗濯物や新聞、そこら辺にあるあらゆる物が吹き飛んじゃったからね。まったく、迷惑ったらありゃしない。
そんな事を思いながら片付けをしてると、子供部屋からカミサンの声が聞こえる。
「まーくん(俺)より少し小さいかな?」
「スタイルが良すぎるから私の服じゃ入らないじゃないの!」
思わず聞き耳立ててたら、そんな悲しい声が聞こえてきたんで、ノックしてから俺の新品の下着やら、スウェットを差し出したらさ、その場で開けてお尻の部分に切れ目入れてるのよ!
「何すんの!」
「彼女の尻尾!通らないから仕方ないじゃん!」
「すいません」
俺のおニューのパンツが…誰か同情してくれるかい?
しばらくして着替えが終わったのか?カミサンが手招きしたんで部屋に入ると、険しかった彼女の顔が若干穏やかになっていてほっとしたよ。
彼女が寝てる間にやれることはやっておこうって思ってね、とりあえず彼女の服を持って風呂でジャバジャバ洗ったんだけど、あっという間に泥だらけになっちゃって、何度も手洗いしたけどどうにもならなそう。
5回すすいで諦めた俺は、そのまま服を桶につけたまま、彼女の様子を見に部屋に戻ったんだ。
戻ってみると、カミサンが彼女の頭に冷たいタオルを乗せてる。そんな様子を見てたら、小さかった頃の息子の看病を思い出して、つい二人で小声でいろいろな話をしてたんだけど、気が付いたらもういい時間。
カミサンも俺もあくびがとまらなくなっちゃったから、カミサンには早く寝てもらい、俺だけ残って彼女の面倒を見ることにしたんだ。
正直、俺もかなり眠い。
だけど、彼女が何者かわからないまま目を離したくない。それに、彼女が寝ている時に何かあったら対処しないといけないよなとも思ってさ、なんとなくだけど、寝ずに見ていてあげようかな?って思ったんだ。
そんな事を思っていたら、昔、息子が小さい時、高熱でけいれんを起こして、夜中、緊急の病院に行ったときの事を思い出してね。なんとなく不安になって息子の顔を見に行くと、息子が俺の布団にまで足を伸ばして豪快な寝相で寝ているのを見て一安心したよ。
最近は息子も体が丈夫になり、夜間救急のお世話になることがなくなってきたけど、今もそんな経験が生きてるんだなぁって思いながら、眠気覚ましにスマートフォンを片手に小説を読み始める。
うん。やっぱり小説は面白い!
最近、スマートフォンで見れる異世界モノの小説を読むようになったんだけど、世の中には才能のある方が沢山いるんだなぁって感心しながら読んでるんだよ。ファンタジーって言っても人それぞれの想像力があって視点も様々。素直に楽しませてもらってるよ。
でもね、そんないろいろな人が想像していた異世界の出来事が、まさか自分の身におこるなんて、人生何が起こるかわからないよな。
そんな事を思いながら、ぼんやり思いながら目の前の彼女を見たらね、本当に生きている人間っぽい感じなんだよ。息をしてる。それに合わせて体も上下してるし、ぐったりはしてるけどたまに寝返りもしてる。こういうの見てると、とてもじゃないけど、さっきまでフィギュアだったとは思えないよ。さっきから何度かほっぺたつねってるんだけど・・・やっぱり痛いんだよ。夢じゃないんだよな。これ。
カミサンに休んでと声をかけてから約2時間。
もう朝方に近くなってきたんだけど、何か良くない夢を見ているのか?うなされて険しい表情をしてる。それに合わせてびっしょり汗をかいてるもんだから、顔や首なんかをタオルで拭いてるんだけど・・・大丈夫かな?
流れるようにさらさらな銀色の頭髪や尻尾。欧米人っぽいはっきりした目や鼻筋。だけどなんとなく和を感じる顔立ちの彼女。
よくよく見るとまだ子供の様にも思える彼女の表情が、まだ何か恐ろしいものにうなされ、険しくなっているのを見ているのは辛いが、俺に出来ることは額のタオルを冷たいものに変えるくらい。
起きて元気になったら、いろいろやらないと行けないかも知れないけど、どっか楽しい場所にでも連れていってやろうかな?ただ、これだけの美人さんだから、ニコニコしながら街中でも歩いたら、十中八九の野郎が振り向くかもな!なんていらん妄想なんかもはじめちゃう俺。
結構疲れちゃったから、ちょっと冷たい空気に触れてこようかな?って彼女のそばを離れようとしたらさ
彼女の手が俺の上着を掴んで離さないんだ
何となく昔の息子を思い出して、
「大丈夫。とうちゃん一緒にいるよ」
と声をかけながら頭を撫でると、彼女から険しい表情が消えて、俺の上着を掴んでいた手も布団にぽすんと落ち、しばらくすると、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえて来たんだ。
そんな彼女を見てたら俺もほっとしちゃってさ、気が付いたら夢の中へ・・・
・・・彼女の具合良くなるといいなぁ・・・
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