第60話 サラとクレア
揺れが収まり、噴火の脅威が去った火山……。その火口の上空、視認などできないはるか上空で、燃え盛る翼を持つ怪鳥イニクスが空中に佇んでいた。
「あーあ……ケロスの奴失敗してやんの……。折角
眼下の状況を、気だるげに見据えながら興味なさげに呟くイニクス。
「……まぁいっか。俺的にはどっちでも良かったし……。それより珍しいモン見つけたしな」
イニクスは、地上にいる少女レアを一瞬鋭い目で見つめていたが、それも束の間。すぐにいつものやる気の無い目に戻ったかと思うと、燃え盛る翼を翻して何処かに飛んでいった……。
§
俺達一行は、サラの後ろについていくがままに山道を歩いていた。
「おい、サラ。一体どうしたっていうんだよ。噴火はもう大丈夫なのか?」
「ええ……アグニ様の怒りが静まっている……。念のため皆が確認しているけどおそらく大丈夫だと思うわ」
サラは先頭を歩きながらあっけらかんと答える。確かに火口には、サラパパ以外の黒竜が残り何かをやっていたのだが……それが何なのか、そしてあの驚いたような態度は何だったのか……それを聞く事さえ出来ずに、俺達は誘導されるがままに山道を歩いていた。
「ちょっと……、さっきの私への注目は何だったのよ?」
しかしそのまま黙っているレアではない。先程の説明をサラに求めるが……
「ん~……。その前にまず質問させてくれるかしら?」
サラは逆に質問し返してきた。
「……いいわよ。でも私がちゃんと答えたら貴方も答えなさいよ?」
「わかったわ」
俺は二人のやり取りを黙って聞いていた。
「貴方のメインスペルは何?」
「……今は無いわ。『孤』っていうスペルを持ってたけど、レンに消してもらったの」
若干不機嫌そうに答えるレア。……あれは一応俺が半ば無理やり消したんだけどな。
「ふ~ん……。……両親はご健在?」
「何よその質問。……元気でやってるわ、『孤』があったせいでしばらく会ってないけど」
……何かを連想したのか、少し気まずそうにするフェリルとクレア。更にサラの質問は続く。
「兄弟はいる?」
「私は一人っ子よ!」
ぶっきらぼうに答えるレア。
「そっか……」
呟くように零すサラ。……なぜ今更そんな事を……?
「もういいでしょ! 今度はこっちの質問に答えてもらうわよ!」
一転、得意気になったレアは捲くし立てるかの様に疑問をぶつけた。
「さっきのは何!? なんで噴火が止まったの!?」
それだ……。あの時確かにレアの声で噴火が収まったように見えた。レアの怒りで揺れが強まった様な気もしたが……。
「あー……あれはね……」
「あれは!?」
グイッとサラに顔を近づけるレア。
「あれは……」
見つめられたサラは急にシリアスな表情を作る。
「……」
急に醸し出されるその雰囲気に、俺達にも緊張が走ったのだが……
「わかんない!」
とびっきりの笑顔で、サラはそう言い放った。
「わかんないじゃないでしょー!!」
レアはサラの肩を掴んでグワングワン揺さぶる。
「あぁぁぁ~……うぅぅぅ~……ぼーりょくはんたいぃぃぃ~……」
急にシェイクされる頭に、サラは目を回しながら平和主義の言葉を搾り出す。……しかしあんな火力のブレスを放つドラゴンが暴力反対を訴えるとは……。俺は可笑しな光景に苦笑いしてしまう。
「どういうことよ!!」
ヘッドシェイクを止めて詰め寄るレアの形相に押され、サラは急回転する世界から帰ってきた。
「“正確には”わからないってのはホントだよー……。たぶんだけど……アグニ様は人の感情を読み取りやすい……。だからとびっきり感情の起伏が激しい貴方の想いに影響されたんじゃないの?」
サラは自分の推測を話す。
「そんなの……! でも、他の竜達も驚いてたじゃない!」
「そりゃあ、たった一人の人間の感情にアグニ様が影響されたんだからビックリもするよー」
「むぅぅ……本当でしょうね……?」
鋭い眼光でサラに顔を近づけるレア。
「コクリュウウソツカナイネー」
「あんたそんな口調じゃなかったでしょー!!」
再びシェイク作業に入るレア。……たしかに感情の起伏が激しいなコイツ……。
「……」
そんな二人の様子を黙って見つめるフェリル。……それを見ていた俺の視線に気づいたのか、フェリルは笑顔で返した。
「イエ……何でも無いですヨ。私も本当かどうか気になっただけでス」
「そうか……本当だと思うか……?」
俺は何の気無しにフェリルに聞いてみた。
「……エエ、本当だとは思いますヨ? ……でも真実を全て言っているわけでは無いと思いまス」
「ふむ……」
フェリルの言葉に俺は思案顔になる。
「……まぁ何はともあれ、そろそろ止めてあげた方がいいと思いまス」
その言葉に二人の方を見ると、レアのシェイク地獄に振り回されたサラがヘロヘロになっていた。……あいつの何処にそんな力が。ってそんな事言ってる場合じゃねぇ!
「お、おい! レア、その辺にしとけって!」
俺はレアからサラを奪い取って、クレアに寄越した。目を回しているサラを膝枕に寝かせるクレア。
「むー……」
レアは、この期に及んでまだ納得のいっていないご様子だ。
「……しかしすごいなお前。神様に物申せる人間なんて聞いた事ないぞ? こんなちっこいのに」
そう言って俺はレアの頭を押さえる。
「なんですってぇ!! 元はといえばあんたが……!!」
と、レアは予想通りの反応をしてくる。……やっぱりコイツはこうでなくちゃな。
レンとサラがいつもの掛け合いをしているのを横目に、クレアは膝枕しているサラの頭を撫でていた。
「もう……、無理しちゃダメでしょう? 翼もまだ治りきっていないんだから」
膝枕をされながら、サラは金髪を揺らす頭上の声の主を見上げた。
「……クレアさんは聞かないの? 色々……」
サラは真剣なトーンで聞く。
「……サラちゃんは強くていい子ですもの。自分を犠牲にして他者を想える強い子だわ。……だからサラちゃんが言わなくてもいいと思うのなら言わなくてもいいと思うの」
聖母のような優しい笑みを向けるクレア。その微笑みに、サラは一瞬目を見開いたかと思うと、彼女につられるように笑った。
「ハハハ……クレアさんには敵わないなぁ、もう。本当は私の方が年上なのに」
「あら、そうなの?」
同じ体勢のまま言葉を紡ぐ二人。
「竜族は寿命が長い分、成長も遅いの。これでもクレアさんの十倍は生きてるのよ?」
「まぁ、じゃあお姉ちゃんね」
「フフッ、そうね」
そんな取り留めの無い会話を続けていた二人だったが、サラはまた急にシリアスな表情をして口を開いた。
「これは……彼女のためにも、彼女自身が自分で知らなくてはいけない事だわ」
ポツリと呟くように零すサラ。
「……レアの体が危険に晒される様な事じゃないのよね?」
「ええ……」
「……ならいいわ。何があろうと、私達が支えます。だって“仲間”ですもの」
再び、太陽のような笑みを浮かべるクレア。
「フフッ、なら大丈夫ね!」
サラも笑顔で返すと、ガバッと起き上がった。
――
「おお、サラ。もう大丈夫なのか?」
レアをあしらっていた俺は、起き上がってきたサラに声をかける。
「ええ! クレアさんに治してもらったし、すぐそこだから早くいきましょ!」
そう行ってまた歩き出すサラ。
「お、おい。サラ、すぐそこって言うけど一体何処に向かってるんだよ? 俺達街に帰るつもりなんだが……さっきから反対方向に向かってないか?」
その言葉にサラは足を止める。
「そりゃそうよ、そっちに向かってるんだから」
「??」
サラの言葉にハテナマークが浮かぶ俺達。
「貴方達はこの山と街を救ってくれた……。この地に住む者としてとても感謝しているわ。……でもケロスは自分で火口に飛び込んじゃったからクリスタルもマグマに沈んじゃっただろうし、貴方達が
う……。確かに考えてみれば……火山の噴火を止めるという大きな事のために自然と必死になってやっていたが、今回の事って良く考えればタダ働きか!?
俺の脳裏に嫌な予感がよぎる。が……
「でも、私達竜族はそんなに恩知らずじゃないわ。受けた恩には報いるモノがないと! ……それに言ったでしょ? 街を救ってくれたら里のお宝何でも持って行っていいって!」
そう言ってサラは小走りで走って行くと、辺りを見回して叫んだ。
「あった! ここよここ! みんな早く!」
サラの呼ぶ声に俺達は顔を見合わせたが、ともかく声のする方に駆け寄っていった。すると、サラが立っている場所は何の変哲もない岩肌だった。
「何よ、何も無いじゃない」
レアの声にサラは、フフンと胸を張った。
「そう見える様に作っているのよ、見てなさい」
そう言うとサラは、右手を岩肌にかざした。淡い光がサラの右手から放たれると……何も無かった岩肌はグニャリと歪み、瞬く間に大きな洞窟の入り口へと変化した。
「里の宝物庫よ! ついてきて!」
得意気に言い放つサラは、そのまま洞窟の奥へと進んでいった……。
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