第59話 誰が為に鳴るは鐘の音
「街を守ってくださった黒竜様達に感謝を!! 祈りを!!」
時計塔から、「音」の
「この街は古くから黒竜が守り神となっているのです! そして今日、まさにこの街が窮地に陥った時! 黒竜様は現れて街を救ってくださいました! どうか皆様、この鐘の音と共に感謝を!!」
イグニスの熱い気持ちと共に、呼びかけの声が伝わる。住人も、観光客も、一人、また一人と胸の前で手を組み感謝の意を捧げていった……。
「イグニスさん嬉しそうだよ……」
「そりゃそうさ、アレは黒竜に魅せられて町長になったんだからな……」
時計塔の下で、戦闘を終えた警備兵達が口々に話している。
「あれ? お前信じてなかったんじゃねぇのかい?」
警備兵の一人が茶化すように笑みを零す。
「まぁな……。だが……」
空を見上げる警備兵の一人。
「さっきのあれを見ちゃあ信じる他ねぇだろ?」
男はすがすがしい程に、参ったと言わんばかりの顔で天を仰ぐ。まるで長年の疑問が晴れたように。
(まさかウン十年も信じ続けるたぁな……随分高い所に行っちまったもんだぜ……なぁ、イグニスよ)
「じゃあ俺らも黒竜サマに感謝の祈りを捧げるとするか……!」
「あぁ、あの人があんなに叫んでるんだからな」
そう言って、時計塔の下でも祈りを捧げる影は増えていった……。
§
――カーン……カーン。
かすかに、しかしはっきりと聞こえてくる鐘の音に呼応するかの様に、黒竜達の白いオーラは力強さを増していった。
「人間達の感謝が流れ込んでくる……!」
黒竜達は翼を大きく広げ、より一層力を込めてゆく。
その光景を見ながら、サラは涙を流していた。ゆっくりと近づいて肩を抱くクレア。
「やっぱり……人間達は忘れていなかった……!」
涙が落ちた地面の一部が、赤いルビーの様に変化する。
「これだけあれば……! はあぁ!!」
黒竜達の力は、あれだけ荒れ狂っていたマグマと揺れをゆっくりと落ち着かせてゆく。
響き渡る鐘の音。取り囲む黒竜の群れ。幻想的な光景に、俺達は少し見とれていた。
「人と竜……。異種族の繋がりというのハ、神々しさすら感じさせますネ……」
目の前の光景を見つめながらしみじみと呟くフェリル。
「そうね……」
レアも先程までとはうって変わって、穏やかにその光景を見つめている。
「……何にしても、なんとかなりそうで良かったよ。俺達のせいで街一つ壊滅となっちゃあ笑えないもんな」
「アンタが紛らわしいこと言うからでしょ!」
と言いつつすぐさまいつもの感じに戻ってしまう俺達。すると……
――ゴゴゴゴ……
……少し揺れが戻ってきている様な気が。だ、大丈夫だよな?
――ゴゴゴゴゴゴ……
こ、これは!?
「レア! お前また……!?」
「私は何もしてないわよ!?」
そうは言ってもこの揺れは……。俺はこれ以上問題を起こさないようにどう立ち回ろうか冷や汗を流しながら考えていると……。
――ダンッ!
レアが片足を一歩踏み出して、火口を睨みつけていた。こいつまさか……
「黙って見てればさっきから……もう少しでハッピーエンドで終わりそうなのよ! アグニかアガニか知らないけど、お願いだから静まりなさぁぁぁい!!」
レアは怒りを含んだ声で思いっきり叫んだ。叫びやがった……。何か、ただの声なのに魔力を帯びたような迫力があったぞ……?
あまりの出来事にサラをはじめ、黒竜の皆様がこっちを向いている。おい、どうすんだこれ……。これだけの数のドラゴンを敵に回したとしたら生きて帰れないぞ……? 俺が火山とは別口で命の危機を感じていると……
――キィィン!
一歩出したレアの右足の一部分が、一瞬光ったような気がした。あそこは確か……
――ゴゴゴ……
俺がそんな事を考えていると、荒れ狂うと思っていたマグマと火山は何故か、ゆっくりと鳴りを潜めていった。え……? 黒竜達も力を込めている様子ではない。これは一体……?
俺が茫然としていると、サラをはじめ黒竜達は驚いた様にレアを見つめていた。
「……え?」
レアがその場の空気に首を傾げていると、サラがゆっくりと近づいてきた。
「レア、貴方……」
驚きと疑問、それぞれが混ざったような顔でサラはレアを見つめていた。
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