第57話 怒りの果てに……
――ザッ
火口の淵に立ち、振り返るケロス。空にはブレスを今か今かと吐き出さんとする黒竜が佇んでいた。
「鬼ごっこは終わりか……?」
「ああ、
冷淡な黒竜の言葉に、あくどい笑みで返すケロス。
「一族の痛み、返させて貰うぞ……!!」
黒竜がブレスを放つ瞬間、街から飛んでくる赤黒いオーラがケロスの元にどんどん集まっていった。
――ヒュンヒュン……!
「ハハハハ……!
飛んできたオーラと共に、どんどん得意気になっていくケロス。しかし黒竜は一族の恨みを晴らすこのブレスだけに力を入れていた。
「いまさら強化したところで防ぐ事は出来ん……! 跡形も無く消し炭にしてくれる!!」
――ボウゥゥン!!
黒竜は渾身の力を込めたブレスをケロスに放った。……しかし奴を葬ったと思った黒竜が最後に見たのは、勝ち誇ったケロスの禍々しい笑みだった。
――ボゴォォォン!!
圧倒的な破壊力に、辺りに轟音が響いた。その中で、まだ五体満足のケロスの叫びが響き渡った。
「最後に形にこだわるのが竜族の甘さだ……!! その甘さが全てを滅ぼす事を……身を持って知るがいい!!」
ケロスは、マグマが噴き出す火口に落ちてゆきながら叫んだ。大量の赤黒いオーラを纏いながら……。
「計画完了……神の怒りを知るがいい……!!『
――バァァァァ!!
最後の
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ――
「な、なんだっ!?」
山頂付近までたどり着いた俺達パーティーは、激しい揺れに襲われた。
「きゃあ!?」
「っと!」
――ガシッ
揺れにバランスを崩したレアを俺は受け止めた。……一瞬よからぬ所に触れた気がしたが気のせいだろう。気のせいだ。……ん? 今思えば怒りを奪われている内は怒られないんじゃないか……? 俺がふとそんなのんきな事を考えていると、
――シュン!
レアに、いやレアだけでなくフェリルにもクレアにもサラにも、火口から飛んできた赤いオーラが体の中に入った。
「!? 大丈夫か皆!?」
奴の攻撃を受けたのか!? 俺は心配して皆を見回す。変わった様子は見受けられない。
「大丈夫よ……
支えているレアの無事を伝える声に一安心する俺。よかった……しかし何だかレアの声が少し冷たいような気がした。不審に思った俺が顔を覗こうとすると……
「いつまで触ってんのよアンタはあああ!!」
――ゴスッ
懐かしさもあるようなレアの拳が、俺のこめかみにヒットした。
「っってえ! 何しやがる! 折角支えてやった仲間に対して!」
「その支える場所が問題なのよ!!」
レアとそんなやり取りをしていると、
「レア殿、怒りが……!」
「!!」
フェリルの言葉に驚いた顔をするレア。確かに今、レアは
「ケロスが倒されたんだ! やったぞ! サラ!」
仇敵が倒されたことを知った俺はサラに呼びかけたのだが……
「……」
サラは顔を青くして震えていた。
「……サラ?」
その尋常ならざる様子に他の皆も心配そうにサラを覗き込む。
「どうしたんだよ? 怒りが帰ってきたんだぞ?」
――バッ!
俺の言葉にサラは、ハッっとした表情で顔を上げて山頂を見た。
「アグニ様が……怒っている……!」
そう呟いたサラは、俺達に見向きもせず急いで火口へと走っていった……。
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