第54話 体一つ、心二つ
「現在火山方向からモンスターの群れが接近中! 住民は早急に避難を! ギルドは緊急クエストを発令してくれ!!」
時計台からイグニスの声が、「音」で街中に拡散された。お祭りの準備で慌ただしい町に響き渡る突然の警告に、住民は一瞬何が何だか分からない様な状態だったが、何度も繰り返されるその声に、少しずつ事態を理解し始めた。
しかしモンスターの進行は速く、ギルドの冒険者も十分な数は間に合わない。イグニスは迫りくるモンスターの大群を黙ってみているわけにはいかず、時計塔を降り街の外門へとその足で急いだ……。
§
「『
「『
――ガキンッ!
俺の一閃は、ケロスの
「先程までの勢いはどうしたぁ? 口だけでは戦いには勝てんぞ?」
「くっ……」
火口付近での地上戦となった第二ラウンドは、俺達の防戦一方だった。
「飛べなくなったとて、『怒』の
その言葉をきっかけにケロスの角が妖しく光る。
「また“精神感応”かっ……!」
「……!」
周りから
俺の「無」での無効化を狙って接近戦に持ち込んでいるのだが、奴もそれを知ってか俺の行動にずっと焦点を当てている。
「斬る覚悟の無い刃ほど無様なものはない……」
ケロスの冷たい言葉と共に奴の手刀が俺の剣を押し返してくる。
「吹き飛べ……! 『
――ボンッ!
「ぐあっ……!」
空いていたもう片方の腕から繰り出される爆発に、俺は吹き飛ばされてしまった。零距離からの衝撃に地面を転がる。
「レンさん……!! やっぱり私……!」
翼を焼かれ、横たわるサラの傍らで治療を続けていたクレアが飛び出そうとしてくるが、
「待て!! ……抑えろ、クレア」
「……はい」
俺の叫びにクレアは、下唇を噛みながら踏みとどまった。
――ザシュッ!
その音にケロスの方を見やると、吹き飛ばされた俺の代わりに
「ぐ……」
奴の手刀を掻い潜り一太刀浴びせたはいいが“精神感応”によって傷が伝わってきたらしく、銃を持った左手がだらんと垂れ下がっている。
「フェリル! ……『
――ギィン!
俺はフェリルを庇う様に再び魔法剣で斬り込んだが、ケロスに難なく止められてしまった。
「『
が、その隙にレアの
「馬鹿な事を……いくら攻撃してもその傷はお前達の誰かに返ってくるのだぞ?」
ケロスは悪趣味な笑みを浮かべながら俺に警告した。
「……だがこっちには回復のエキスパートが居るんだ。俺達の傷はいくらでも治せる……。蓄積するのはお前のダメージだけだ……!」
俺は冷や汗を流しながら、精一杯の自信を込めて言い返した。
「ならばそこから潰していこう……! “精神感応”!」
――きた……!
「クレア!
俺はクレアに向かって合図を出す。合図と共にクレアはサラの背中に触れる。
「無駄だ! いくら注意した所で私の“精神感応”からは逃れられん!!」
依然、余裕を崩さないケロス。
「逃げないさ!
俺の
「ハッ……! 無駄な事を……! 私の“精神感応”は一度対象にすれば、どれだけ離れていようとも効果を発揮する! 回復役を逃がそうと意味は無い!」
しかしケロスのその言葉に、今度は俺が笑みを浮かべる。
「……言ったろ?
――ゾクリ。
俺に向かって手刀を振り下ろそうとしていたケロスは、謎の悪寒に襲われて後ろを振り向こうとしたのだが……
「待ちくたびれたぜぇ……ホーリーブロー!!」
――ボゴォォォン!!
「グオォォォ!?」
訳も分からないまま地面を転がるケロス。
「
「あぁ。クレアも問題ないって言ってるぜ」
俺の質問に、クラレは獲物を見つめたまま好戦的な笑みで応えた。やはり……! 精神感応は精神の入れ替わった肉体にまでは返ってこない……!!
「チャンスだ! 皆、総攻撃だ!」
「『
――ドドドドッ!
ケロスに
「グアッ……! 貴様なぜっ……!?」
急な規格外の威力を持つ拳にペースを崩されたのか、片膝を立てながら息を荒くするケロス。そこにクラレは戦闘を楽しむかの様に追撃を仕掛けていた。
「はっ! そんな事より遊んでくれよ……! セイントブロー!」
「グッ……」
赤黒いオーラを纏った両腕をクロスさせてクラレの攻撃を防御するケロス。しかしそれでも腕へのダメージは小さくないようだ。
「ほらほらどうしたぁ!?」
更にクラレの乱打は続く。……さっきまでダメージらしいダメージは通らなかったのに、やっぱあいつのフィジカルは異常だな……。
「グゥゥ……調子に乗るなっ……! 『
――ボンッ!
ケロスの放った爆発は、クラレの拳を弾いた。
「貴様そうか……! それなら貴様の“怒り”も奪うだけだ! 『
――ザシュッ!
拳を弾かれたクラレの一瞬の隙を突いて、ケロスの手刀が彼女の肩を切り裂いた。
「っ! クラレ!」
彼女の鮮血が飛び散るのを見て思わず叫ぶ俺。ケロスはニヤリと悪辣な笑みを浮かべる。
「これで貴様の“怒り”を……!?」
何故かうろたえるケロス。そんなケロスとは逆に今度はクラレが笑みを浮かべる。
「どうしたぁ? 欲しいものが見つからなかった様な顔して?」
「貴様……!? 何故怒りを覚えない!?」
訳が分からないといったような表情で叫ぶケロスに、クラレは馬鹿にしたような態度で応える。
「ハッ、こんな楽しい戦いのさなかになんで怒る必要がある?」
当たり前の事を言うように飄々と応えるクラレ。
「……まぁ、馬もどきのお前じゃ人間の感情を理解しきれねぇってこったな……!」
「な……!」
信じられない物を見るような目でクラレを見るケロス。そこへ……
「『
――ボコッ!
レアの
「!?」
突然の事に、上半身だけが地表に出ている状態のケロスは驚く。
「クラレ! 角よ! そいつが“精神感応”を使う時、必ず角が光ってる!!」
レアが糾弾するかの如く叫ぶ。
「……だとさ!」
レアの言葉にクラレは、眼下の敵を見ながら白い光を纏わせた右足を振りかぶる。
「待てっ! くっ……」
ケロスは赤黒いオーラを纏わせた両腕を構えて防御体勢に入るが……
「聖断脚!!」
――バシュッ!
クラレの鋭い蹴りから繰り出される光の斬撃は、ケロスの角を両断しつつその身も吹き飛ばしていった。
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