第43話 女同士の話し合い
レア、フェリル、クレアの三人は荷物を解いた部屋の中で向かい合っていた。
「さテ、何から話しましょうカ……」
「今日誰がレンと同部屋で寝なきゃいけないかでしょ?」
腕を組んだレアが答える。
「えぇ……正確には誰がレン殿と同部屋で寝る権利を得るか、でしょうガ……」
フェリルの言葉に目線を通わせる三人。
「な、何よそれ。まるで三人ともレンと同じ部屋で寝たいみたいじゃない」
「違うのですカ?」
「……」
その言葉に黙ってしまうレア。
「み、皆さんはレンさんの事……好きなのですか?」
恐る恐る聞くクレア。
「そ、そんなわけ……!」
「私は好ましく思っていますヨ」
「なっ……」
レアの言葉を遮る様に淡々と答えるフェリル。
「……レン殿は絶望にまみれ空っぽだった私に生きる意味と光をくれましタ。そんな男性に好意を抱かずにいられるでしょうカ?」
直球で答えるフェリルに二の句を告げなくなるレア。
(但し、そういった意味で好ましく思っているのはパーティメンバー全員ですガ……)
「……お二人はどうですカ?」
「私は……良く分かりません」
零すように言葉を吐き出すクレア。
「もちろん信頼していますし感謝もしています。初めて正式にパーティーを組んでくれた人ですから……それに男性としても一番近い人だと思います。……ただ、そういった経験は今までなかったものですから……好きなのかどうかは分かりません……」
「……レア殿はどうなんですカ?」
今度はレアに振るフェリル。
「わ、私だって感謝してるわ! 初めてパーティー組んでくれたし……」
「好きかどうカ、でス」
「……」
顔を真っ赤にして黙ってしまうレア。
「まぁ、好きでもない男の風呂場に突撃しようとは思いませんよネ……」
「そ、それは……!」
「まぁ……!」
話を聞いているだけで顔が赤くなってしまうクレア。
「とにかく三人ともレン殿に少なからず好意があるト……」
少し考え込むフェリル。
「じゃあこの際、レン殿に選んでもらいまス?」
「何をよ?」
「今日
「なっ……」
「だって三人とも別にかまわないんでショ? それならレン殿に選んでもらえれば不公平では無いはずでス」
「だけど……」
「おやぁ? 選んでもらう自信が無いのですカ?」
「そんなことないわ……! ……ないけどでも……」
「ならそれで文句いいっこ無しってことデ……」
フェリルは強引に話を纏めるであった。
§
「ここだ」
「はえー……でっかいね」
俺はサラを連れて泊まっているホテルの前まで来ていた。来ていたのだが……
「そういえば……宿泊客じゃない人勝手に入れていいのかな……」
「? 私は入っちゃダメなの?」
「たぶんいいとは思うんだけど……そういえばサラは何処か泊まってるのか?」
「?? どこも? 今日山の里から降りてきたんだもん」
当然のように答えるサラ。
「そうか……それならとりあえず俺の部屋でいいか。ダブルベッドだし、あいつ等も男と寝るのはイヤだろうからな」
「! ここ泊まっていいの!?」
「あぁ、しかし金が足りるかな……お前さっき食いすぎたからな……」
「もう! 見つからなければいいんでしょ? なら、こうすればいいわ!」
そう言うサラが手を合わせて何かを念じると、何とサラの体が
「!? サラ?」
「ふふ、ここにいるよ」
俺は裾を引っ張られる感覚を感じた。見ると何もいない。
「こっちこっち!」
その言葉に振り向くと、何も無いところからサラが現れた。
「……すごいな。それ、
「まぁ……そんな感じよ。これで逃げてきたの」
歯切れ悪く答えるサラ。俺が疑問に思っていると、
「とにかくこれで大丈夫でしょ? いこ?」
「あ、あぁ……じゃあ着いてきてくれ」
そういって歩き出す俺に、手を握られる感覚だけが襲った。
「こうすればはぐれないでしょ?」
その声だけ聞こえる現象に少し違和感を感じながらも、俺はホテルへと入っていった。
§
――コンコン
三人の部屋の前まで来た俺は、恐る恐るノックをする。ここまで、サラがいる事に誰にも気づかれなかったな。
「おーい、話終わったか~?」
部屋の外から声をかけると、
――ほら、レン殿が来ましたヨ。
部屋の内側からそんな声が聞こえたかと思うと、すぐに扉が開きフェリルが顔を見せる。
「レン殿ちょうどよかったでス! 話があるんでス」
「奇遇だな、俺もだ」
そう言って俺は部屋に入れてもらう。中では三人が神妙な面持ちで佇んでいた。
「? どうしたんだお前ら?」
「……あのね、レン。皆で話し合ったの」
決心したかのようにレアが口を開く。
「ダブルベッドが二部屋じゃない? だから誰がレンと寝るのか……」
「あぁ、その話もしたかったんだ」
――ビクン!
俺の言葉に、心臓が跳ねたかのようにレアが急に背筋を伸ばした。
「そ、それでね……誰と寝るか、レンに決めて欲しいの……」
「? 俺が決めていいのか?」
「うん……皆それでいいって」
やけに畏まった態度で言葉を紡ぐレア。俺はその様子を訝しげに見つつも、これ幸いと先ほどから俺の左裾をつかんで離さない存在を紹介する。
「じゃあ……俺はサラと寝るよ」
「……サラ?」
疑問符と共にその名をオウム返しする三人の目の前に、透明化を解いた黒髪黒ローブの小さな女の子が現れた。
「どーもー! サラです! って伝わらないか」
ペコリと一礼する少女。……フェリルもクレアも目をまん丸にしている。
「だ……」
「だ?」
「誰よそれー!!!!」
レアの大音量の叫び声が部屋に響き渡った。
「何よあんた!! そんな小さい子にまで手をだしたの!? そりゃ大きいよりは小さい方が好みの方がいいけど……小さすぎよ!! アンタ何考えてんのよ!!」
「どういうことですかレン殿? このパーティーで旅行に来ておいてナンパですカ?」
急にまくし立てるレアとフェリル。
「ま、待てお前ら何か勘違いをしている! この子はだな……」
「言い訳なんか聞きたくないわ!」
「ま、まぁまぁ皆さん落ち着いて……」
何とか仲間をなだめようとするクレア。……とそこで、
――ゴーン……ゴーン。
何処からか鐘の音が響き渡った。 なんだ?
――ゴーン……ゴーン。
「これは……マズい……!」
サラの緊迫した声。
――ゴーン……ゴーン。
響く鐘の音。あんなに混乱を極めた部屋が静寂に包まれている。
「……」
鐘の音が響き終わると共に、部屋も静まり返っていた。
「これは……?」
何が起こったか分からない俺は、思わず部屋を見渡す。あんなに騒ぎ立てていたのが嘘のように、レアとフェリルは落ち着き払っていた。
「まぁ、仕方ないわね。レンがそうしたいって言ってるんだから」
「……そうですネ。ここはそうするべきでショウ」
人が変わったような二人の態度に俺は面食らっていると、サラは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「そうか……こうやっていたんだ……!」
「どうしたんだ? サラ?」
わけが分からない俺は何かを知っている風なサラに声をかける。と……
「“怒り”を……盗られた!!」
悔しそうにサラはそう告げたのであった。
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