第42話 怒れる火山
「この街が消える?」
「そう! 早く、早くしない……と……」
――ボフッ
そう言って言葉尻をかすませる少女が前に倒れこもうとする所を俺は抱きとめた。
「おい!? どうした!?」
俺は少女に声をかける。……おや? この子……
――グウゥゥ
「おなかすいた……」
その響き渡る爆音は、俺ばかりか言葉が伝わらない筈の周りの冒険者にまではっきりと聞こえたのであった……。
§
――ガツガツムシャムシャ……
俺は目の前にうず高く積まれてゆく皿の山を唖然としながら見ていた。
「ぷはぁー! おいしかった! おなかいっぱいだよ!」
「そりゃそうだろう。これだけ食えばな……」
俺達は向かいの食堂に来ていた。目の前の少女がおなかが空いたと言うもんだからとりあえず飯処につれてきたのだが……この圧倒的食欲。一体この小さな体の何処に入るんだろう……。
「ありがとう。私の声も聞けるし、お兄さんいい人だね!」
「ああ、どうも……それで……?」
俺は財布の中身を心配しながら少女に話を聞くことにした。
「えーっと……私、サラって言うの」
何か言葉を選ぶように、その少女サラは語り始めた。
「サラちゃんね……それで何でこの街が消えるの?」
「!! そうだ、火山が噴火するの!!」
「噴火……? あの山が……?」
俺は窓の外に見える火山を指差した。
「そうよ! このままじゃ噴火しちゃうの!」
うーん……そんな風には見えないが……。そもそもこんな麓に街が栄えているのだ、そんな頻繁に噴火するものなのか……?
俺が疑問の表情を浮かべていると……
「ホントよ! このままだとこの街が溶岩に沈んでしまうの!」
「……それが本当だとして、何でサラはその事を知っているんだ?」
「う……それは……」
俯いてしまうサラ。
「わかったわ……。話す。私の一族は代々あの火山を守っているの」
決心したようにサラを言葉を重ねた。
「あの火山には火の神アグニ様が眠っているの」
「アグニ様……?」
「そう、地中の奥深くでね。アグニ様の力はとてつもなくて、そんな奥に眠っているのにそこには火山ができ、凄い熱を発している。その熱に引き寄せられるかのように人間は寄り添い街を作る……昔からそうやって続いてきたの……」
眠ってるだけなのに地表までその熱が届くのか。
「その熱は人間たちの間でとても重宝され、この場所は長年神聖な場所とされてきた……でもそんな特異点だからこそ、その場所を奪おうとして人間同士の争いが起きるようになった……」
「そしてその争いによって巻き起こる人間同士の憎しみ、怒り……そういったものをアグニ様は感じ取っておられるの。この一帯の人々の怒りがたまりにたまった時、火山は神の怒りと呼応するかのように爆発する……そして辺り一帯は更地となり、また新たな人々が集まり、争い……そうやって歴史は繰り返されてきたの」
「……」
急なシリアスモードに黙りこくってしまう俺。
「私達の一族はそんな神の怒りを静めるために、火山を守ってきた……人々の怒りが神に届かぬように、また小規模の噴火でガス抜きをさせて、街に被害が及ばないように……」
「じゃあ何が問題なんだ? 正直この街は戦争が起こる気配なんか微塵もないぜ?」
争いどころかこの街に来てから怒っている人さえ見ていない。
「これまで通りなら大丈夫だわ……。私達一族が神の怒りを抑えているから……。でも、私達の里にモンスターが攻めてきたの! それも魔王軍幹部を名乗る奴が……!」
「! 魔王軍幹部だって……? まさか燃えてる鳥みたいな奴か?」
俺はこの街に来る途中に出会ったイニクスを思い出す。
「ううん……額に一本角の生えた馬の獣人みたいなやつだったわ……」
あいつじゃなかったか……。
「そいつは圧倒的な力で私達一族をねじ伏せた……そして、“怒り”を奪ったの……」
「怒りを奪った……?」
「そう、奴は怒りを集めているの! この街の人々からも! だから怒ってる人がいないのよ!」
確かに怒っている人が一人も見当たらないが……
「たぶん、奴の
「サラは大丈夫だったのか?」
「……私は一族で一番小さかったから一人残されて、その私をいたぶる事で大人達の怒りを誘って奪い取ったの……隙を見て皆が私だけ逃がしてくれたけど……」
下唇を噛むサラ。
「だから私には皆を助けなきゃいけない責任があるの! お願い力を貸して! あいつは奪った怒りの力で火山を大噴火させようとしている! このままじゃこの街が無くなっちゃう! お礼はするから! 救ってくれたら里のお宝何でも持っていっていいから!」
「……そうして欲しいもんだ。何しろこんなに食ったんだからな。しかし……」
彼女の並々ならぬ剣幕に、俺は不思議と彼女の言う事をすんなり受け入れられた。……とりあえずは、
「事情はわかった……しかし俺一人じゃどうしようもならないよ、とにかく皆の助けを借りないと」
「皆……?」
「まずは……俺の“仲間”に会ってくれ」
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