第40話 旧友の孤狼
「急になんなのよこれ~!」
俺達はオークの群れに囲まれながら乱戦をしのいでいた。
「お前らが寝てるからだろ!」
「なんか急にやる気が出なくなっちゃったんだからしょうがないじゃない!」
「文句を言う前にまずはこいつらを片付けまショウ!」
そう言いながら
馬車とおっちゃんを守りながらだからツラいな……。っ「
俺はオークの棍棒を盾で守りつつ愛刀に手をかけた。
「『
――バリバリッ!
雷光輝く俺の剣はオークの腹を焼き斬った。
しかし数が多いな……。俺達がしばらく戦っていると、
――ガルルルルルゥ!!
また一際大きな狼が乱入してきた。
「っちっ、新手か……!」
俺がぼやいていると……
「ガルちゃん!!」
レアが目を輝かせている。……ガルちゃん?
そんな気を取られているレアにオークの棍棒が迫る。――あぶねぇ! 俺は咄嗟に
「ガウゥ!!」
ガルちゃん(暫定)がレアを狙うオークに飛びついて肩を喰い千切った。おーうアグレッシブ。
俺が目の前のスプラッタ映像に唖然としていると……
「おらあああ!」
――ドゴォン!
その血に触発されてうちの眠れるスプラッタ担当が暴れだした。
それを機にオークの群れは瞬く間に殲滅されていった。
§
「でけぇ……」
戦闘を終えて一呼吸ついた俺の最初の感想はそれだった。
真っ白な体毛。鋭い牙と爪。馬ほどある巨体。
ガルちゃんと呼ばれたその狼は、名前と違って圧倒的な威圧感を放っていた。
その迫力からかフェリルとクレアも近づかない。行商人のおっちゃんは言わずもがな、馬車の馬にいたっては戦闘の混乱で逃げてしまっている。
「ガルちゃん久しぶり♪」
レアはそんな皆を他所に、ガルちゃんとやらに抱きついてその圧倒的モフモフ感を楽しんでいる。
「おい、レア……大丈夫なのか?」
そう言うとレアは我に返ったかのようにコホン、と咳をしてこちらに向き直った。
「この狼はガルちゃんよ! 私の友達だから大丈夫!」
「そうは言ってもなぁ……」
先程のスプラッタ映像を見た後じゃ抵抗あるぞ。……それにしてもフェリルとクレアは異常に怖がっているような……。
「何かものすごく危機感を感じまス……」
ん……? これって前にも……?
「そうよレン! あんたの『無』でガルちゃんの『孤』を消してあげて!」
あー! そういえば出会った頃「孤」を持つ狼の友達がいるって言ってたような……
「ほら! 早く!」
「お、おい。本人の確認無しにいいのかよ……」
「いいのよ! 『孤』のツラさは私が一番良く知ってるんだから!」
そう言うレアの手に引かれるがままに、俺はガルちゃんの腹に刻まれた
――パキィィン
「あれ……? なんだかさっきより怖くないような……」
「孤」が消えた影響か、クレア達は立ち上がりこちらに近づいてきた。
「わぁ……モフモフ」
「この綺麗な毛色は……私の耳には羨ましいですネ」
先程までのビビりようはどこへやら。積極的にモフり出している。
「よかったね! ガルちゃん!」
満面の笑みで抱きつくレア。
――あぁ、そこのにいちゃんもありがとうよ――
「えっ……?」
俺は頭の中に響いた声に驚いてあたりを見回した。
――あぁ? 聞こえてんのか? ――
……目の前の大きな狼と目が合う。
「どうしたの?」
「いや、お前は聞こえないのか……?」
「何が?」
首を傾げるレア。
――もしかしてにいちゃん、「伝」持ってるのか?――
「! あ、あぁ持ってる」
――そりゃ珍しいな。そいつのお陰だろう。ある程度の知能を持ってる生き物の言っていることが伝わるんだ――
「ちょっと、さっきから一人で何しゃべってるのよ」
「あぁ、コイツと喋ってたんだ。『伝』で意思疎通ができるみたいだ」
「そうなの!? ずるい!」
「ずるいってお前……というかお前はしゃべれないのによくそんなに親しくできるな」
ある意味こいつのコミュ力には驚かされる。
「同じ
その言葉に俺がガルちゃんの方を見ると、
――俺も自然と気が楽だったよ、ありがとう――
その言葉に俺は思わず顔が綻ぶ。
「ありがとう、だってさ」
「……! こっちこそありがとう! ガルちゃん!」
また飛びつくレア。
「ところで……ここからどうしまス?」
そうだ。馬が逃げちゃったんだったな……。行商人のおっちゃんも困り顔でこちらを見ているけど……
――……引いていってやろうか?――
「! ……いいのか?」
――あぁ、もののついでだ――
「コイツが引いていってくれるってさ」
「ほんと!? ガルちゃん大好き!!」
旅路再開の目処がたったので俺達は荷物を整えて出発した。
§
「いやー助かりました。その上これまで貰っちゃって……」
「いいんですよ。元はといえばこちらの責任でもありますし……」
俺達は、オークのクリスタルの一部をおっちゃんに渡した。それで新しい馬を借りないとまた次の街へ商売しに行けないもんな。
「……ところでお前の名前はなんて言うんだ?」
一応意思疎通が出来るという事で御者の席に座っている俺は、おっちゃんとの会話が詰まったのを誤魔化すかのように、道を疾走するガルちゃんに聞いてみた。
――……ガルムだ……――
「ガルム? それでガルちゃんか」
――いや……レアは「ガルルルって吠えるからガルちゃん」と言っていた……――
「……」
二人……いや一人と一匹に気まずい沈黙が流れる……。レアお前……ネーミングセンス無かったんだな……。それでもガルが一致しているのは凄いが。そうこうしている内に
――見えたぞ、アンクルだ――
その声に先を見やると、大きな火山を背後に据える街が姿を現した。
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