第39話 死なねぇよ!

「あー……俺はイニクスってんだ~……よろしくな~……」


 その燃え盛る鳥はダルそうにそう答えた。しかしその態度とは対照的に俺は警戒を緩めない。


「……お前、なんで『無』の事を知ってるんだ?」


「そりゃあ、お前……なんだっけな……まぁどうでもいいじゃねぇか……」


「よくねぇよ!」


 とことんマイペースなコイツに調子を狂わせられる俺。


「も~……うるせぇやつだな~……そんな短気だと寿命縮むぜ……? まぁ死なねぇ俺が言うのもなんだが……」


 死なない……? 


「ケロスの奴が、『無』がここを通るからお前も幹部なら一応顔見とけって言うからここで寝てたんだよ……」


 !! 幹部……!?


「お前……魔王軍幹部か……!!」


「あぁ~……一応な~……。魔王様が年功序列っつーから全くめんどくせぇよ……」


 くそっ、やべぇ……。仲間がこんな状態で幹部と出会っちまうとは……! 俺は付加剣エンチャント・ソードを抜いて戦闘態勢に入る。


「あぁ……? あ~……いいよいいよそんなにしなくても。別に戦いに来たんじゃねぇから」


「信じられるわけねぇだろ! 『矢』!」


 俺は文字スペルを発動して魔力の矢を放った。


「あ~……最近のガキはキレやすいねぇ……」


――ザンッ!


 イニクスは俺の矢を避けることなく“顔”で受け止めた。その矢は顔の右半分に風穴を開ける事に成功したのだが……


「無駄だよ~……俺でさえどうしようもねぇんだから……」


 俺の矢を受けたイニクスは平然と左目でこちらを見据えていた……。すると瞬く間に風穴は炎を纏いながら塞がってゆき、元通りとなる。


「っ……!」


「だから言っただろ~……死なねぇって……」


 まずい……相手は飛んでいるし攻撃手段が……。俺はチラッと馬車の方を見るが依然として仲間達はだらけきったままだ。


「……? あ~……あいつらが気になるか? 大丈夫だよ~……特に害はない……」


 そう言うとイニクスはバサッと片翼を広げる。その内側には「怠」のルーンが刻まれてあった。


「一応自己紹介しとくか……魔王軍幹部、“怠”のイニクスだ。……よし、これで大義名分は終わったな……」


 そう言うとイニクスは起き上がり翼を広げる。


「お、おい! 何処に行く気だ!」


「何処って……帰るんだよ。顔見に来ただけって言ったろ~……俺の『怠』が効かないって事で『無』も確かめられたしな~……」


 ……なぜこいつら魔王軍は「無」の詳細を知っているんだ……? 俺が答えの出ない謎を考えていると、


「あ~……俺の効果範囲から出ればそいつら元に戻るから……じゃ~な~……」


 そう言ってイニクスは飛び去って行った……いや、しようとしたのだが……


「……それと、俺が居なくなったら怠けてたここいらのモンスターも起きてくるから気をつけろよ~……じゃ~な~……」


「……」


 そう言うと今度こそ彼方へと飛び去って行った……。俺がフリーズしていると辺りからモンスターのうめき声が聞こえてくる。


「あの野郎!!」


 俺は急いでふやけている仲間をたたき起こすのであった。

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