火の街“アンクル”編

第38話 いざアンクルへ!

「それで、これ貰ってたんだけど……どうする?」


「それよりその頬の痕の方が気になりますけどネ……」


 右頬に大きな紅葉を作った俺は、その事には触れずに机に置いてあった券を渡す。


「も、もう、どうでもいいでしょそんな事は! それよりこれよこれ!」


 少し顔を赤くしながらごまかすレア。


「えーっとどれどれ……“アンクルホテル宿泊券4名様”?」


「そうよ! この間皆で露店回ったときレンが福引で当ててたでしょ!」


「あぁ……そういえばそんな事モ……」


 本気で忘れていたのだろう。初見のようなリアクションをするフェリル。……まぁこいつはこの券を使う前にまた遡るつもりだったんだろうからな……。


「まぁ、“火の街”アンクルですか!」


 クレアがテンション高く身を乗り出す。


「なぁ、そのアンクルってどんな所なんだ?」


「あんた何にも知らないのね。いいわ教えてあげる」


 いつもの調子で1ディスりを入れたレアが得意気に話す。


「アンクルは火の街と呼ばれる通り、火山に面した街なの。その地熱を利用した温泉が人気で、いろんな所から観光客が訪れる有名なスポットなのよ」


 温泉か……。


「……言っとくけど混浴じゃないからね」


 ジト目で見つめてくるレア。


「あ、当たり前だろ! 分かってるよ。それでどうする?」


「私は行きたいでス!」


「私も……!」


「決まりね」


 女性陣の満場一致で俺達のアンクル行きは決定したのであった。



――翌朝


「……旅行だろ? なんでこんなフル装備なんだ?」


 俺達はいつもクエストに行く時のスタイルで馬車乗り場に来ていた。


「なんでっテ……私達は冒険者ですからネ……。まさか四人分のテレポーターを使うお金も無いですシ」


 ……テレポーターってそんなにお金かかるのか? ドーターに送ってもらった時は軽く呼んでたから知らなかった……。


「だから普通は行商人の護衛として一緒に着いて行くんですヨ」


 なるほど……。あれは専属の人達を雇っているもんだと思っていたが、移動もかねてこういう使い方も出来るんだな。


「OK! 乗せてってくれるって~!」


 話をつけてきたらしいレアが手を振っている。


「私達がキルケを倒したパーティーだと分かったら快く乗せてくれたわ!」


 そりゃありがたい、恩は売っとくもんだな。俺達はそのままアンクル行きの馬車に乗り込んだ。




        §




「……なんというか、のんびりだな」


 俺達の護衛兼アンクルへの旅路は平穏を極めた。


「無事に越したことはないじゃない……」


 すっかりだらけ切っているレア。


「まぁそうなんだが……」


 護衛というからもっとモンスターと連戦でもするのかと思っていた。


「ここら辺はモンスター同士の縄張り争いも激しい場所ですからネ……お互い食い合って私達にかまってる暇はないんじゃないんですか?」


 だらしない顔でゆったり寛いでいるフェリル。……こんな奴だったかコイツ?


「そうですよ~……たまにはのんびり行きましょうよ~……」


 そう言いながらクレアはこちらに寄りかかってきた。


「お、おい……」


 そんな事したらまたレアのやつが……


「ふにゃ~……」


 俺の心配なんぞつゆ知らず、レアの方を見るとだらけ切っている……を通り越してもはやふやけている。……いくらなんでもおかしいぞ……?



――ガタンっ!


「うわっ!?」


 急に馬車が止まった。……見ると行商人のおっちゃんばかりか荷台を引いてる馬まで立ち止まってしまっている……。


「一体どうなって……」


 俺は完全に機能しなくなってしまった馬車を降りて辺りを見回す。モンスターもいないし特に不思議な事は……


「あ~……? 動けるってことはお前が『無』か~……?」


 突然けだるそうな声が聞こえた。いやそれより……


「!? 誰だっ!」


「無」を知っている……!? 辺りを見回す俺。しかし特に人影は見当たらない。


「おーい……こっちだこっち」


 ?? 声のする方を見上げてみると、うず高い木の頂上に大きな鳥が寝転ぶように佇んでいた。……いやあれは鳥なのか……? そう思ってしまうほど普通の鳥とは決定的に違う部分があった。


「よぉ~……どんな奴かと思えばまだ子供じゃねぇか~……」


 そう、こちらを見下ろすその鳥は


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