第33話 二つの選択肢
「誠に申し訳ありませんでした……」
目の前に現れた見目麗しい女神様は申し訳なさそうにそう述べた。
「うぅ……」
隣では異世界に送られる時に転生の間で会ったフォルトゥーナとかいう女神様が正座させられている。
――話は少し遡る。
俺はフェリルとの戦闘のあと、時計を抜き取ってから自分の「無」でそれを消した。フェリルの話では俺は存在できなくなって消えるとのことだったが……? 気が付くと俺は転生の間に戻ってきていたのだ。
「やっとここに引き寄せる事ができました……高橋蓮さんですね?」
「はい。そうですが……」
「転生規定に重大な違反があったのでここに魂を呼び戻させていただきました」
転生規定?? 重大な違反?? 俺が要領を得ない顔をしていると、
「……順を追って説明させていただきます。貴方が転生特典として持っていってしまったそのチケットは、フォルトゥーナが勝手に造ったものなのです……」
「チケットというと、この紙切れの事ですか……?」
俺はポケットから“運極ガチャチケット!”と書かれた紙を見た。
「紙切れとは何よ! めちゃめちゃ力入れてつくったんだからね! ……いたっ!」
俺の言い草に不満を漏らすフォルトゥーナ。それに無言で頭を叩く女神様。
「その力の入れ具合が問題なのです!」
そして女神様は、俺に向き直るとあらましを語り始めた。
「……本来転生特典とは、その世界で活躍できるのに充分な力を持ったものとされています。選ぶものによって多少の差はあれど、転生陣で転移する際にその世界に合わせてカスタマイズされ、その地で生きる者達に“大きな”影響を与えないようになっています」
「全く……ついこの間まではそんな制限無かったのに……評議会も余計な追加規定作ってる暇があったらもっと休み増やしなさいよね……ふぎゃっ!」
性懲りも無く、横で正座しながらぶつくさ不満を漏らすフォルトゥーナに再びげんこつを入れる女神様。フォルトゥーナが何故か俺に恨めしそうな視線を向けてくるが……気づかないフリをしておこう。
「……話を戻します。しかしながら、貴方が持っていったそのチケットは、フォルトゥーナが神の力を思いっきり込めて造った、“神器”に相当する効果を持ったものなのです」
そんなすごいものなのかこれ……? その割には恩恵を実感した事はないが……
「この子は性格に多少の難はあれど、力自体は抜きん出ています。だからこそこの若さで転生の間を任されていたんですが……まさかその力でヘルメスのゲームのチートアイテムを作ってしまうとは……」
「だってあいつが悪いのよ!? あんな渋い集金ゲーム作ってお金儲けしようとしてるんだから!!」
「黙りなさいフォルトゥーナ!! ズルしようとしたばかりかあまつさえそれを転生者の方に渡してしまうとは……!」
「だからあれは事故なんだってー……」
……なんだか神様の世界もやってる事はあんまり変わらないんだな……。俺は目の前の神々に妙な親近感を覚えた。
「……そんなフォルトゥーナが造ったこのチケットの力は、転生陣の力では抑えられずそのまま異世界入りし、使用者である貴方用にカスタマイズされてしまったのです」
なんと。無駄にハイスペックな機能が付いてるんだな。
「……でもこれあんまり活躍した覚えが無いぞ?」
「いいえ……その運極ガチャチケットは貴方が何かと巡りあう際に最高の出会いを引き寄せてくれていました。物であったり、人であったり……」
!! 俺は今までの冒険の事を思い返した。
「運よくとても強い能力を引き当てたり、運よく最高の仲間と巡り会ったり、それこそピンチの時は、運よく誰かが“時間”を越えてでも助けに来てくれたり……ね」
そうだ、フェリルは……!
「女神様! フェリルはどうなったんですか!?」
「……あの耳長族の子は、貴方の頑張りもあってループから
よかった……。俺は自分の決断が間違いではなかったと少し安心した。
「でもそれなら結局なんで俺はここへ……?」
「そう、それなのです。消え行く貴方をここへ呼び出したのは、貴方に選択してもらうためです」
選択……?
「……フォルトゥーナの造り出したチケットは、あの世界に住む者の因果律を変えてしまうほどの影響を及ぼしてしまいました。そしてその力は現在貴方用にカスタマイズされてしまっています」
「本来なら貴方が冒険の果てに消えてしまう事に関して、天界が干渉する事はありません。しかしこちらには間違った転生特典を渡してしまった落ち度もあります」
何気に怖い事言うなこの神様は。
「上の神々からは、それほどの力を持ってしまった転生者をこのまま消えさせるのは忍びないと考え、力を調整して世界に再構成させようという意見が出ました」
!! 世界に……!? またあの世界に帰れるのか俺は……?
「しかし、今回はこちらの不祥事なので貴方にはもう一つの選択肢が与えられました」
「そして、一旦本人を呼んで
……どちらの世界か、だって?
「全ての記憶を消去し、現代へよみがえるか。力を調節され、異世界に戻るか。選択してください」
なんだって……!?。
「普通はこんな事ないんだから! アンタがあの世界で魔王軍幹部を倒した事も少し評価されたようね!」
「あらフォルトゥーナ。あなた評議会に自分が責任を取るから何とか消さないでくれって頼んでいたではありませんか」
「っっ! 言わないでよそれは!!」
「……そういう所があるから、私も貴方を放って置けないんでしょうね」
しみじみという女神様にフォルトゥーナは照れ隠しのようにそっぽを向いてしまったが、俺の頭の中はそれどころではなかった。
「……現代を選んだ場合、貴方はトラックから女の子を助ける以前に戻り、平穏な日常が戻ってくるでしょう。もちろんまた繰り返しにならないように女の子も助けておきます。……異世界を選んだ場合はそのチケットは没収させていただきますが、その力をあの世界のシステムに調節した
目の前の女神様は動揺している俺に向かって優しい笑みを浮かべた。
「さぁ、どうなさいます?」
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