第30話 “初めて”の邂逅
「……フェリル、お前
そう聞いてくるレンに、私は今回も気づいてくれたんだと少し嬉しさを感じながら言葉を返した。
「さァ……覚えていませんネ。……回数など重要ではないのでス」
§
――最初はただの偶然だった。
その小さな時計は、姉が何処かの古物商の露店から仕入れてきたものらしい。「改」で何かと混ぜ合わせるつもりだったのだろう。
何の気無しに裏蓋を開いた瞬間、私の意識は真っ白な光に包まれるような感覚に陥った。上も下も分からない、自分の体が宙に投げ出されたような感覚。そんな気持ち悪い浮遊感が収まったと思ったら、私は何故か見覚えの無い城壁の上に立っていた。
!? ここは一体……。私がわけも分からず現状を把握しきれないでいると、近くからレンの声が聞こえた。建物の中を覗くと、誰かにレンが襲われている。武器も無く、女騎士に斬られそうになっているレンを見て私は慌てて腰の銃に手をかけた。
――キィン!
間一髪、レンを助けたと思い彼の側に駆け寄ると、今度はその女騎士と斬り合いになった。中々の使い手だったが何とか捌いて、魔法で土煙を起こし離脱の隙を作った。そこでレンと共に脱出しようと話しかけたのだが……、
「助かりました……。ありがとうございます、ウサ耳さん」
……ウサ耳さん? 何故そんな呼び方をするのでしょう?
「何を言ってるのですカ! そんな事よりレン、早くここから脱出しましょウ!」
「あれ……? 何で俺の名前……?」
?? 会話が噛み合わない……。人違い……? いやそんな事あるはずが……。
――!
そこでふと思いついた私はレンの袖を右肩までめくり上げた。……!! 「無」の
いよいよわけが分からなくなっていると、遠くの方から大人数が近づいてくる足音が聞こえた。……人が来る! とりあえず私はその場を離れ、外から様子を見る事にした。
窓から様子を伺っていると、小さな女の子が大勢を引き連れてレンの所にやってきた。……どうやら知り合いらしい。何やら少しやり取りをすると、そのままレンを引き連れて奥に引っ込んでいった。
……一体どういうことだろう?
§
……あれから現状を把握しようとした私は城下町へと降りた。城下町……そう。どうやらここは王都らしい。
何故ドーターからいきなり王都へ……? もしかするとあの時計は「移」の魔道具だったのだろうか……? そんな私の予想は、情報収集に入った酒場で脆くも崩れ去った。
クエストボードに書かれている日付が“過去のもの”だったのだ。 !? 動揺する私は近くの冒険者に今日の日付を尋ねたが、返ってきた答えは同じ。
……まさか……過去に遡っている……!? その考えにたどり着いた時、私はパーティーを組み立ての頃、レンから聞いた話を思い出した。
――「俺、前に少しだけ王城に居たんだ。その時フェリルと同じ耳長族に助けてもらった事があるんだよ!」――
その時の強さを見た事があったから、同じ耳長族の私を仲間に誘ったのだという。……荒れていた目つきの悪いあの頃の私をわざわざ。
……その助けた耳長族というのは私だったのだ。
全てに気づいた後、私の行動はもはや一択だった。テレポート屋でドーターに戻り、当時泊まっていた宿屋に帰る。掃除用の装いを脱ぎ捨てていつもの服に着替え、ドーターにレンが来るのを待った。
――またパーティーに誘って貰うために……。そしてまた助けに行くために……。
§
「……じゃあお前はずっと同じ時間を繰り返してきたってのか!」
「……同じではありませン。毎回微妙に変わっていまス」
淡々と答えるフェリル。
「今回で言うと、本来はメタルドロルを倒した後に登場してクリスタルだけ拝借する予定でしタ」
「……なんでクリスタルを奪う必要があったんだ」
「あの様子だとレア殿、すぐに二人用の小さな家を買ってしまいそうでしたからネ。クレア殿が加入してからの家選びの方がいいと思ったのでス」
「……その家はお前も帰るべき場所じゃないのか?」
「……っ!」
俺の言葉にフェリルは苦々しい顔をする。
「フェリル、帰ろうぜ。クレアが風呂沸かしてくれて待ってる」
「……なりませン」
「フェリル、それをこっちへ渡してくれ」
「……できませン」
「フェリル!!」
「できないっていってるでしょ!! 『
――ドゴォォン!
フェリルの銃から放たれた
「いつもレンは本気で止めにきてくれますネ……。だからこそ私も本気デス……!」
フェリルの目が力強く俺を見据える。
「最後の稽古をつけてあげまス!!『
――ダッ!
――キィィィン!
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