第29話 フェリルの秘密

「もうっ! ホントにフェリルったら……」


 屋敷に帰ってきた俺達はリビングでくつろいでいた。……レアのボヤきを聞きながら。……肝心のフェリルはサイルさんの所に寄ってから帰ると言い残してそそくさと消えてしまった。


「まぁまぁ、今日は沢山歩きましたしお風呂入りましょう! 私お湯沸かしてきますね!」


 そう言いながら風呂場へと向かっていくクレア。


 そんな中俺は、今までのフェリルの事を思い返していた。今日の、いや最近のフェリルは何処と無くおかしかった。


 王城の乱入。出会いのセリフ。クリスタルの保管。食料の買い込み。姉の店での視線。そして今日の態度……。


「……」


「どうしたの? 難しい顔をして」


 俺が言いようも無い胸騒ぎとともに頭の中の違和感を整理していると、怪訝に思ったレアが聞いてきた。


「いや……何でも……。なぁ、レアは今日のフェリルの事どう思った?」


「……とっても楽しそうだったわ。でも同時に少しだけ寂しそうでもあった気がする」


「……俺もそう感じた、何でだろうな?」


「さぁ……? あまりに楽しくて何時もの日常に戻りたくないんじゃないの?」


「そんなバカな……。 !!」


――バッ!


「キャッ! ……どうしたの?」


 急に立ち上がった俺に驚くレア。しかし俺の頭は別の事でいっぱいだった。


 


 頭の中の違和感が一つに繋がる感覚を覚えた俺は、急いで走り出した。


「ちょっと行ってくる! レア達は先に風呂に入っててくれ!」


「ちょっと! ……何なのよ一体?」


 そんなレアの呟きに答える暇もなく、俺は自分の部屋に付加剣エンチャント・ソードを取りに行ってから、サイルさんの店へと走っていった。



        §



――はぁ、はぁ、


 俺は一心不乱に店への道のりを急いでいた。今までのフェリルの行動を思い返しながら。


 間に合えっ……!


――バタン!


「……どうしたのですカ? そんなに急いデ」


 俺が店の扉を開けると、そこには一切表情を変えずにこちらに振り向くフェリルがいた。


「……フェリル、その手に持っている物は何だ?」


「この店の商品ですヨ。ちょっと気になったのデ……」


「……最初に来たときからそれが置いてある方向をちらちら見てたもんな」


 俺はレブナント退治を依頼された日の事を思い出す。


「……時計を見るなんて不思議な事じゃないでショウ?」


 そう。フェリルの手には小さな置時計があった。


「それがただの置時計ならな……」


 俺の予想が正しければ……、


「……その顔はもう気づいているようですネ」


 その言葉に俺は自分の鼓動が早くなるのを感じた。


「……お前との事を思い出していたんだ」


「……聞きまショウ」


「まず最初にフェリルと出会った時、俺が名乗る前にお前は俺達の名前を知っていたよな?」


「……冒険者同士ですからネ。ギルド内で名前を聞くこともあるでショウ」


「あの時俺は冒険者を始めて二日目だぞ? それにメタルドロルの耐性が『無』で消せる事を知っているような口ぶりだった」


「王城に入った時『無』を見たのかもしれませン」


 悟ったような顔で返答を続けるフェリル。


「お前が城に侵入してきた時、俺はまだ『無』を手に入れてなかった。そもそも何故お前はわざわざ俺を助けに王城へ侵入した?」


「……」


 フェリルは答えない。


「まだある。お前はキルケによる食糧危機が起きる前に食料を買い込んでこの店へ置いていた」


「研究ばかりしている姉を心配するのは家族として当然のことデス」


「……その後俺は墓地へ行き、そこに転移陣登録をした。そして直後にアンデッドを喰わせる事が攻略法の敵が現れた。俺は何かに導かれるかの様に対抗策を揃えていたわけだ」


 俺の言葉をフェリルは黙って聞いていた。が……。


「……このタイミングで気づくのですネ」


「フェリル……お前……」


 その言葉に俺の予想は確信へと変わった。


「いいですヨ、に何でも答えてあげまス。何が聞きたいですカ?」


 喉が焼け付くように熱い。俺はやっとの事で声を絞り出した。


「……フェリル、お前だ?」


――フェリルが持っている時計の裏部分には「遡」のルーンが刻まれていた。

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