第25話 報酬の使い道
「いやっふうううううう!」
「もっと酒だぁぁぁぁ!」
ギルドの酒場は未だかつて無い盛り上がりに包まれていた。いや、酒場だけではない。ドーターの街全体が盛り上がっていると言ってもいいだろう。
何せ駆け出し冒険者が多数を占めるこの街で魔王軍幹部が討伐されたのだ。
キルケ討伐の知らせは、助け出された行商人達を通じてドーターのみならず周辺の街や王都にまで広く知れ渡った。参加した冒険者には討伐時のクリスタルに加え、王城からの指名手配報奨金や救出した商人からのお礼のお金が平等に分配され潤いに潤っていた。
更には助けた商人からの口コミや、他の町からの行商人が商機とばかりに大勢ドーターになだれ込んでそこらじゅうで露店を始めており、街は軽くお祭り状態だった。
「よ~おレン! 飲んでるか~!」
「あぁ、トール。飲んでも全然酔わないけどな」
「かぁー! 羨ましいぜ」
俺達も例に漏れず、酒場で祝賀会に参加していると冒険者仲間のトールが出来上がった様子で話しかけてきた。
「なんてったって今回はお前が討伐成功の立役者だもんなぁー!」
「皆のおかげだって言っただろ? お前の魔法も凄かったぜ」
「おーおー、英雄サマは調子がいいこった!」
「ホントだって。そうだ、その凄い魔法を俺にも教えてくれよ!」
「俺の『雷』をか~? しょうがねぇなー! いいぜ!」
そういってトールは俺の肩に手を置いた。
バチッ! ――キィィン 【スペル取得 「雷」】
「サンキュー! トール」
「いいってことよ! なんせ俺達は魔王軍幹部を討ち取った仲だからなー!」
その後、フラフラになるまで武勇伝を語ったトールは自分のパーティーの仲間達に引きずられていった。
「……アンタ、特別報酬の受け取り拒否して全員に分けたと思ったらそんなことしてたのね」
酔い潰れてしまわない様に、サークをちびちびと飲みながらレアがジト目で見つめてくる。
「皆のおかげってのは本当だからな。それにこの街の皆とは仲良くしておきたいんだ」
「ふーん……」
「キルケの野郎から『矢』も頂いたし結構手札がそろって来たぞ!」
「肝心のステータスはまだまだだけどね」
うっ、それを言われるとツライ。痛い所を突かれた俺は話題を変える。
「まぁでも特別報酬を受け取るべきはトドメを刺したクラレだと思うけどな」
そう言って俺は隣で飲んでいるクレアを見やった。
「そんな、私は今回何も……。クラレも『楽しかったから満足』と言っています」
アイツは相変わらずムチャクチャだな……。
「素で幹部と殴り合えるなんてアイツのステータスはどうなってんだろうな……。こーんな細い腕なのに」
「レ、レンさん……!」
手を取り腕をフニフニする俺に、顔を赤くするクレア。
「レン! 女性に失礼よ!」
「……! すまんクレアつい!」
「いえ……」
「無」で酔わないと思っていたが俺も幹部討伐で気分が高揚しているのかもしれない……。若干顔の赤くなったクレアを見ながら俺は少し反省した。
「アララ? お楽しみ中でしたカ?」
そう言いながら唯一祝賀会に居なかったパーティーメンバー、フェリルが戻ってきた。
「おぉ、何処行ってたんだよフェリル!」
「姉の所でス。色々取りに行くものもありましテ」
「サイルさんの所? ……そういえば食糧危機だったけど大丈夫だったの?」
「エエ、少し前に
あの人は相変わらずだな……。しかしあの墓場での一件からキルケ討伐のヒントを得られたのでサイルさんには感謝だな。
……ここで、なにやら薄い違和感が俺の頭の中をよぎったのだが、俺はその正体には気づけずにいた。
「まぁしばらく懐に余裕もあるし、このお祭り騒ぎが終わるまではのんびりしてていいんじゃないかしら? ここ最近色々立て込んでたし」
と、のん気に言うレア。
「そうだな、報奨金を分けたといっても結構あるぞ。何か買いたい物でもあるか?」
「私は特には……」
クレアはほっとくと教会に全部寄付しそうだな。
「ワタシはありますヨ!!」
キラキラした目で手を上げるフェリル。
「何だ?」
「フフフフ……。そろそろ必要ではありませんカ……? 拠点とすべき私達の“家”でス!!」
§
俺達は賑わいを見せる街中を、フェリルに連れられて歩いていた。
「でも私達は収入が不安定な冒険者よ? 譲ってくれる家が見つかるかしら?」
長らく倉庫暮らしだったせいかやたら心配するレア。
「だからこそ纏まったお金のある今なんじゃないですカ! ……正直キャッシュじゃないと厳しいと思いますシ」
やっぱりそういうもんなのか。
「しかし家か……確かにずっと宿屋暮らしだったもんな」
「私はプリーストとしてお手伝いがてら教会にお世話になっていましたが……」
「でも自分の部屋があったらそれはそれでいいだろう?」
「それは……そうです」
……そういえばクレアのプライベートな事ってあんまり知らないな。
「クレアって料理とか出来るの?」
「え? あ、はい。一応一通りは幼い頃に学びました」
なんと。金髪といい治癒
「私だって出来るわよ!」
「お前の出来るは何となくサバイバル感がある」
「なんですってー!!」
飛び掛ってくるレアをあしらいながら宥めていると、
「着きましタ。ここでス」
そう言うフェリルの声で立ち止まると、俺達の目の前には厳かで立派な建物がそびえ立っていた。
「ここが不動産屋なのか?」
「イイエ、ここは銀行でス。不動産屋に行く前に寄りましタ」
「銀行? なんでまた?」
そもそも俺は利用した事もない。レア達と顔を見合わせているとフェリルが説明を始めた。
「そもそも私達は冒険者なので、家を買うとなれば一括しかありませン」
「そうね、さっきも聞いたわ」
「しかし幾ら幹部の討伐金が出たといっても、家具やその他諸々を考えると四人で住む家を買う資金としては少し心もとないでス」
うーん……。そうなのか? 隣のレアを見ると難しい顔をしている。
「……確かにそうだと思うわ。でも何でそれで銀行に? まさか借りるって言うんじゃないでしょうね」
「イエイエ、
そう言ってフェリルは懐からあるものを取り出した。
「……ああああーーーー!!」
レアの大声が響く。フェリルが取り出したものはなんと、いつかのメタルドロルを倒した時のクリスタルだった。
「なななな、なんでアンタがそれを持ってるのよ! 使ったんじゃないの!?」
「あの時はレア殿が怖くて咄嗟にそう言ったのでス。本当は姉さんの店に保管してありましタ」
悪びれもなくそう言うフェリル。クレアは何のことか分からずに首を傾げているが、レアはあまりの事態にフリーズしている。
「コレを換金して購入資金にしまショウ! では換金してきますネ」
そう言って銀行の扉を開けて奥へと消えていくフェリルを、俺達は見送る事しかできなかった。
が、フェリルが背中を見せる直前に、かすかに聞こえたような気がする言葉の意味を俺はこの時まだ理解できずにいた。
「……
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