第24話 食中毒にご用心

「ほらほらどうしたぁ! ずいぶんとノロくなったなぁ!」


「ぐっ……」


 急に高速で移動し始めたキルケにクラレは防戦一方だった。が、そこに助け舟が入る。


「『ファイア』!」


――ボォン!


「あぁ?」


 背後からのフェリルの一撃にキルケは振り向いた。


「クラレ殿、隙を!」


 そういってキルケに突進するフェリル。


「! ホーリーブロー!」


「無駄だって言ってんだろ! 『硬』!」


――ドスッ 


 クラレの一撃を難なく受け止めるキルケだったが……。


「繋ぎとめましたヨ……!」


 キルケの側で跪き、地面にナイフを突き立てるフェリル。


「影縫いか……!」


「今のうちにクラレ殿! 引いてレン殿の怪我を!」


「何……? せっかくのチャンスだろ!」


「もうっ! 何のためのヒーラーですカ!」


――ビュゥゥゥ!


 二人の言い争いを他所に、レアの「ウインド」が二人を俺達の元まで運んできた。


「さっ、これでいいでしょ?」


「あぁ、頼むクラレ」


「……ったくしょうがねぇな、『癒』!」


 俺の腹の傷がみるみる内に治ってゆく。先程まで続いていた鈍痛は見る影もない。


「よし、ありがとうクラレ」


「ふんっ……」


 クラレは顔を背けて答える。戦闘一筋だなコイツは。俺達が態勢を整えた一方でキルケは……、


「こんなもの……! “喰扉グロウト”!」


 腹の裂け目から周囲のものを吸い込み始めた。影に刺さったナイフが腹に吸い込まれてゆく。


「ふんっ、小癪な……。この無限の食欲を持つキルケ様を止められるものかぁ!!」


「あらら……復活しちゃいましタ……。 どうしまス……?」


 あちらも復活で振り出しか……。さてどうすれば……遠距離攻撃は吸収され、近づいて近接格闘をすれば奴は腹が減り、また吸収が始まる……。力で押すにしても奴には弱点といった弱点が……ん? 


 !! 俺はハッとした表情で顔を上げた。まだ手はある! 俺は冒険者達に向かって、


「皆、自分の最大火力の魔法を貯めておいてくれ! 俺が合図を出したら一斉攻撃だ!」


「でもまた吸収されちまうんじゃねぇのか?」


「大丈夫だ、俺に考えがある! 行くぞクラレ!」


 そう言って俺は奴に近づいていった。



        §



「お遊びは終わりか……?」


「あぁ、その通りだ」


「あぁ?」


 俺の言葉にキルケは拍子抜けな表情で首を傾げた。


「お前の狙いは俺の『無』なんだろ? 俺を黙って喰らう代わりに他の連中は見逃してやってくれないか?」


「……どういうつもりだ?」


「どういうつもりも何も、お前に勝てそうに無いんでな……犠牲は少ない方がいいだろう?」


 不敵な笑みを浮かべながら冷や汗を流す俺。――流れる静寂。


「……フハハハハ、いいだろう目的は『無』の抹殺だ。まぁ魔王様は生け捕りにしてこいと仰っていたが……この程度、魔王様が直接手を下すまでもない。おとなしく喰われると言うのならその通りにしてやる」


 ゆっくりとキルケが近づいてくる。……まだだ。


「本当に他の奴らは見逃してくれるんだろうな?」


 俺の言葉を聞くと、キルケはニヤリと顔を歪めた。


「心配するな! 寂しくないように纏めて同じところに送ってやる!! “喰扉グロウト”!」


――今だっ!


「寂しくなんか無ぇよ! 逝くのはお前一人だからな!! 『移』!」


 文字スペルを唱えた俺の目の前が淡く光りだす。今現在俺の転移陣の登録箇所は……墓地! 周りを吸い込み始めるキルケと俺の間に送られてきたのは……、


「テレポート!」


――ポンッ!


「グォォォォ……?」


 転移してきた一体の“ボーンナイト”はキルケの腹に吸い込まれていった。


「何ッ!?」


――バクンッ


 ボーンナイトを喰らったキルケの体表はに変色していた。


 よしっ!! 企みがうまくいった俺は喜びを抑えながら、ドヤ顔で死刑宣告にも似た通告を下す。


「知ってるか? アンデッドってのは食事を必要としないんだぜ?」


「貴様ッ……!!」


「皆! 今だ!」


 俺はキルケから離れながら合図を出した。


「『ファイア』! 『フレイム』! 『風の刃ウインドカッター』! 『雷』!」……


――チュドォォォォォォォォン!!


 レアやフェリル、冒険者達の魔法が一斉にキルケに降り注いだ。


「グアォォォォォォ……」


 効いてる! よしトドメだ、アンデッドの弱点は……!


――ザッ!


「さっきはよくもやってくれたじゃねぇか……」


 ボロボロのキルケの前に佇むクラレ。


「ま、まて……」


「消え去れっ! ホーリークロス!!」


――ザシュゥゥゥゥ!


 クラレの交差する拳から放たれる光の奔流がキルケの腹を切り裂いた。


「グアァァァァァァァァ!!」


――ボンッッ!


 その大きな爆発が魔王軍幹部キルケの最後だった。残ったのは大量のクリスタルと吐き出された行商人など数十人の人々、そして俺達冒険者の割れんばかりの歓声だけだった……。

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