第23話 魔王軍幹部“キルケ”

「手間が省けたぜぇ……! 俺は魔王軍幹部“喰”のキルケ! 魔王様の命令で『無』の能力者を殺しにきた!!」


 目の前の現れた異形の魔人、キルケはそう叫んだ。


「なぜ『無』の事を……。 それに魔王軍幹部だと……!?」


「……魔王軍と人類が戦争を繰り広げる中で、モンスターの中でも特に力の強い七体が幹部として君臨していると聞いたことがありまス。恐らく奴もその中の一人かと……」


 何だってそんな奴が……!? 


「転移陣を敷きに行った部下の反応が途絶えたのでな……あれでドーターの冒険者にやられるようなヴァンパイアじゃ無ぇんだ。魔王様の指示もあって俺が直々に探りに来たんだが……まさかこんなに簡単に出会えるとは思わなかったぜ!」


 あのダンジョンの時のヴァンパイアか……!


「レン殿……もはや戦闘は避けられないようでス……!」


 やるしかないのか……。俺は腰から付加剣エンチャント・ソードを抜き、構えた。とそこで……


「貴様!! 俺の仲間達を何処へやった!!」


 一人の剣士が剣を抜き去り飛び掛っていった。待て! 迂闊に……


「愚かな……『硬』!」


――ガキィィン!


「バ、バカな……」


 剣士の渾身の斬撃をキルケは腕で受け止めた。怪我一つ負っていない。


「貴様も俺の糧となれ! “喰扉グロウト”!」


――ガバァ!


「うわあああああああ!」


 キルケの腹の裂け目に剣士は吸い込まれていった……。


「ふぅ……。コイツは『鋭』か、まぁまぁだな」


 キルケは腹をさすりながら冷淡に呟いた。


「奴は一体……」


「レン、恐らく奴は攻撃を吸収しているんだわ。さっき奴が放った『フレイム』、私のものと全く同じ威力だった」


「あの腹で喰ったものの力を得るのか……これは厄介だぞ……」


「何をゴチャゴチャと……! 来ないならこちらから行くぞ! 『矢』!」


 キルケが文字スペルを唱えると、奴の背後に無数の魔力の矢が現れた。


「いけぇ!!」


 くっ……、こっちからの攻撃は届かないのにあっちからはやりたい放題か! 俺は迫りくる矢を「盾」で受け止めながらそうこぼす。あちらこちらでは冒険者達の魔法が飛び交っているが効果は薄そうだ。一体どうすれば……


「レン殿! 奴は先程から腹で喰らうのと文字スペルを使うのを交互に繰り返しています! もしかすると連続では吸収できないのかも……!」


 !! そういえばさっき腹をすかせないといけないとか言ってたような気が……! よし……!


「レア、フェリル、クレア! 連続攻撃を叩き込むぞ! ……クレア?」


 一人様子がおかしいクレア。まさか……


――ギンッ!


「骨のありそうな奴がいるじゃねぇか……!」


 キルケを睨みつけ凶悪な笑みを浮かべるクレア。いやクラレ。しまったさっき矢が掠った時に血が……


「まてっ! クラレ!」


「おりゃあああああ!」


 クラレは聞く耳持たず殴りかかっていってしまった。


「くそっ! あのじゃじゃ馬め! レアとフェリルは援護を頼む!」


 俺はクラレが喰われる前に後を追った。



「ふん、温い魔法ばかりか……さっさと『無』の小僧を始末して帰るか……ん?」


「ホーリーブロー!!」


――ドゴォォン!


「ぬううう!?」


 クラレの一撃は、キルケの巨体を数歩後ろに下がらせた。


「貴様何者だ……!」


「そんなこたぁどうでもいいじゃねぇか……! お前強いんだろう? やり合おうぜっ!『パワー』!」


 言うが早いかクラレは乱打を仕掛ける。


「『硬』! ぐっ……!?」


 効いてる……? どうなってんだあいつの腕力……。ってそんな事言ってる場合じゃねぇ、このままじゃ……!


「なかなかの力を持っているな小娘……! その力いただくぞ!」


 キルケの腹の裂け目が怪しく光ったその時、


「『フレイム』! 『ファイア』!」


――ボゴォォォン!


 レアの文字スペルとフェリルの魔法銃がキルケの顔面に炸裂した。


「グォォォォ……」


 今のうちに……!


「クラレ! 下がるぞ!」


「はぁ? なんでだよ」


「お前が喰われたら回復能力を持っちまうだろうが! そうなったらどうしようもないぞ!」


「大丈夫だって。俺は喰われねぇよ」


 ……ダメだ。聞く耳持ったとしても言う事聞かねぇ。俺が仲間との意思疎通に手こずっていると、


「なるほど『無』の仲間か。尚更喰らいたくなったぞ」


 キルケが戦線復帰してきた。仕方ない……!


「好きなだけ暴れろクラレ! 奴が吸収を使おうとした時に俺が切り込んで止める!」


「最初からそのつもりだっての!」


 先程より一層鋭い拳で切り込むクラレ。


「セイントブロー!!」


――ガシィィ!


「……悪くない速度だが、俺が喰らってきたモノをナメるなよ? 『速』!」


 クラレの拳を受け止めたキルケが文字スペルを唱えると、鈍重だった巨体の動きがブレた。


 何処に……!? そう思った瞬間俺のわき腹に鈍い衝撃が走った。


「ぐっ……!?」


 キルケの蹴りを受けた俺は思いっきり吹っ飛ばされていた。


――ドサッ


「大丈夫!?」


 レア達の所まで吹っ飛ばされてきた俺は痛む体を抑え何とか起き上がった。


「俺は大丈夫だ……。それよりクラレの所へ……!」


「わかりましタ!」


 吹っ飛ばされてきた俺と交代でフェリルが向かっていった。

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