第22話 ふ~ど・喰らいしす!

「『ファイア』!」


――ボッ!


 俺の文字スペルに呼応して付加剣エンチャント・ソードは燃え盛った。


「よし、イイ感じだな」


 文字スペル無しでの朝稽古が終わった後、手に入れた新武器を色々試していたが、中々どうして使い勝手がいい。様々な文字スペルをラーニング出来る「無」との相性もバッチリだ。


「気に入っている様ですネ」


「あぁ、これは掘り出し物だったと思うぞ」


「それは良かったでス。姉はあぁ見えて魔道具作りの腕だけは一級品ですヨ!」


 確かに文字スペル一つでこれを作り上げるのはすごいよな……。


「そうだな。……フェリルも何か新しい武器が欲しかったんじゃないのか?」


「いいエ? 私にはコレがありますかラ!」


 そう言って腰の銃を抜いて回してみせるフェリル。


「本当か? サイルさんの店じゃ、ちらちらと同じ方向を見てたぞ?」


「っ!? ……いえ、気のせいだと思いまス」


 一瞬、驚いたように目を見開いたフェリルだったが直ぐに何時もの調子に戻った。


「そ、それよりお腹が空きましタ! 皆を待たせても悪いし早く行きまショウ!」


 あいつがあんな焦るのも珍しいな……。と何か引っかかりつつ、俺はフェリルの後を追った。




        §




「何でこんなに値上がりしてるの!?」


 ギルドの酒場に入った俺達の耳に飛び込んできたのは、レアの悲鳴交じりの叫びだった。


「どうしたんだ?」


「レン! ……最近料理の値段がどんどん上がっているの……!」


 どれどれ? ……本当だ。普段の倍近く上がっている。何かあったのか? 見ると同じ理由で詰め掛けている客が大勢いるみたいだ。


「材料でも変えたのか?」


「いえ……そういう事でもないようです……」 


 クレアの指差す方を見ると、ギルド職員の人が軽く暴動を起こしている冒険者の皆に説明をして回っている。


「ギルド職員の方曰く、最近この街への物資の商隊がことごとく襲われているんだそうです……」


「商隊が……? モンスターにか?」


「それが……分からないそうなんです。物資を運んできた御者ごと消え失せていると……」


 人間ごと……? モンスターの仕業だとしても、商隊には護衛の冒険者が何人か乗っていると聞いたが。この辺りのモンスターのレべルなら少なくとも商隊だけ逃がすぐらいは訳無いはずだが……?


「そういう事件が相次いでいるので、外の商人もドーターへ来たがらない様になってしまっているとのこと……それで食料の物価がどんどん上がってきているみたいです」


 なるほどそれでメニューがこんなに高いのか。俺が理由を理解した所で、ギルド職員からお触れが出た。


「みなさん! ギルドからの正式な緊急クエストです! 商隊を襲う犯人を捕まえてください! このままではこの街が寂れていってしまいます!」


 確かにこれは死活問題だな。周りの冒険者の士気も高いみたいだし、なんとか解決しないと! そう考えていると、事情を聞いたレアが近づいてきた。


「おぉ、レア。聞いたか? このままじゃ……」


「いくわよ……」


「え?」


 レアにかつて無い怒りのオーラが宿っている。


「犯人を捕まえに行くわよ!! 食べ物の恨みは恐ろしいんだから!!」


「は、はい……」


 かくして、この街の冒険者全員をあげた大捜索が開始されたのであった。



        §



「……といっても一体どうすりゃいいんだよ?」


「黙って見張ってなさい。もしかしたらここから侵入してくるかもしれないんだから」


 街中を一通り探し終えた俺達冒険者一行は、四班に分けられた。それぞれ東西南北の門の警護を担当するらしい。今日、西門から行商人がこの街に来る予定らしいが、一応と俺達のパーティーは東門に待機している。


「しかし西門から来ると分かってりゃそこに戦力集めた方がいいんじゃないのか?」


「万が一があるでしょ。それに『伝』の能力者3人しか居なかったんだから」


 そう。何かあった時の連絡手段として使う「伝」の人員がこの街には3人しか居なかった為最初は三班に分かれようとしたのだが、俺のラーニング能力を思い出して「伝」を教えてもらった結果、四班に分かれて四方の守りを固める作戦になったのだ。


「そうは言っても今の所何の連絡も無いぞ」


「何も無ければ無事に物資が届くんだからいいじゃない」


 いやに冷静なのが怖いなコイツ……。そんな問答を繰り返しながら俺達はしばらく東門に待機していた。……がしばらく経った後、SOSは急に飛び込んできた。


――西門に襲撃者!! 現在交戦中応援もと……うわあああああああああ――


「っ!! 西門に犯人が現れたみたいだ!!」


「!! 行くわよ!」


 俺の言葉を聞くや否やレアが走り出した。


「俺達もいくぞ!」


 残りの三人も後へ続いた。途中、北門と南門の連中と合流して俺達は現場へと急いだ。



        §



「なんだよあれ……」


 そこには仲間は誰一人として居なかった。……いや、足だけ見えていた。が、直ぐに吸い込まれていった。


「なんだぁ? またが来たのか?」


 その言葉を発した存在は異形としか言えなかった。豚の顔をした、二本足で立つ魔人ようなの風貌。大きく出た腹には縫い目のような裂け目が縦一線に入っている。先程そこに吸い込まれた人間はもはや影も形も無い。俺の中の危険信号が明々と光っている。


「お前が最近の襲撃事件の犯人か……!」


「んあぁ? この街に調査に来たんだが腹が減ってな……通りすがりに喰っちまったよ」


 そう言いながら奴は肩に刻まれたルーンを見せ付けてきた。


「“喰”……!」


 モンスターがルーンを……!?


「……何にせよあいつが犯人なら倒すしかないわ! この人数だしやっちゃいましょ!『フレイム』!」


 レアの文字スペルから放たれる炎の渦が奴に迫り行く。しかし奴は棒立ちで……


「ハッ……“喰扉グロウト”!」


 掛け声と共に腹の裂け目が開いたかと思うと、炎は全てそこに吸い込まれてしまった。


「なっ……!?」


「ったく喰ったら腹空かせないといけねぇんだからな……少し動くか……っよっと!」


 奴が振り上げた腕からは先程吸い込んだものと同規模の炎が放たれた。……あぶねぇ!


「レアっ! 『無』!」


――パキィィン


 俺はレアを庇いつつ迫り来る炎を消した。するとそれを見た奴は目を細めて笑みを浮かべた。


「ほぉ……! 『無』が復活したというのは本当のようだな……」


 !? こいつ何処で「無」のことを!?


「手間が省けたぜぇ……! 俺は魔王軍幹部“喰”のキルケ! 魔王様の命令で『無』の能力者を殺しにきた!!」

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