第21話 「改」の研究者

「ふぃー……何とかなった……」


 俺は脱力感と共にその場にへたり込んでいた。


「何とかなったじゃないわよ全く、私が来なかったらどうなってたのやら……」


 今回に限っては全くその通りである。


「あぁ、ありがとうなレア。それにしてもお前の火、すごいな」


 そう言うとレアは自慢げに、


「フフン、そうでしょう! 使い込んでやっと進化したんだから!」


 話を聞くと、公用語コモンスペルには戦闘で使い込んで熟練度を上げると進化し、その系統の上位スペルを使えるようになるものがあるらしい。「火」→「炎」→「焔」やクレアの「回」→「治」→「癒」の様にレベルアップしていくらしい。


「……正直私、最近皆と比べて見劣りするなと思って一生懸命鍛錬したんだから! それで完成して見せに行ったら居ないんだもの!」


「レアにしては随分心配性だな? 最初に会った時はあんなに誇らしげに自慢してたじゃないか」


「あの時はフェリルが入ってくるなんて分からなかったから……。それに見たでしょあの火力! コモン、しかも初級スペルの『ファイア』であそこまで威力が出るなんて……。いくら魔力素養の高い耳長族だからって、ずるいわ!」


「ま、まぁまぁ。無事レブナントのクリスタルも手に入ったし、店に戻りましょウ! レン殿、転移陣をお願いしまス」


「あ、あぁ……」


 俺は前の登録箇所を消して墓地に新しく転移陣を敷いた。


「さぁ、先に行ってくれ。今の俺じゃあ一人ずつが限界なんだ」


 二人が飛んだことを確認して俺も陣の中に入った。




        §



「おぉーもう手に入れてきたのか早いのぅ!」


 俺達はシアルさんの店に戻ってきた。初めて来たレアは知識欲が満たされるのか、置いてある魔道具をまじまじと見回っている。


「約束のクリスタルです」


 俺の差し出すクリスタルにサイルさんは大層ご満悦なようだ。


「これで例のモノが作れる! よし、迅速な仕事ぶりに免じてタダでよいぞ! 受け取れ!」


 サイルさんは、もう興味なさげに付加剣エンチャント・ソードをよこした。……雑だなオイ。


「姉さんはこれで何を作りたかったの?」


「これから見せてやるわい!」


 不思議そうに聞くフェリルに、サイルさんは大きな布を出してきてクリスタルを持つ手とは逆の方に携えた。


「それでは行くぞ……! 『改』!」


 サイルさんが文字スペルを発動すると彼女の両手から青白い光が発し、二つの物が混ざり合ってゆく。


「よし、完成じゃ!」


 光が止んだサイルさんの手には薄紫の布が握られていた。


「姉さんこれは……?」


「これはな、身に着けている間だけアンデッド状態になれる“アンデッドマント”じゃ!」


 おぉ、なるほど。サイルさんの「改」はクリスタルを媒介に、素材を付加効果付きのものに変える事も出来るのか。しかしアンデッド化に何の使い道が……?


「これでアンデッド状態になっておけば、羽織っている間は睡眠も食事も必要としないので長時間研究に没頭できるのじゃ!!」


 ……なんとも不思議な使い方をするな。というか俺達はこれのために命がけで頑張ったのか。


「ね~え~さ~ん!」


 隣の妹がドス黒いオーラを放っている。


「そんなことしたら戻ったときの反動が大変な事になるでしょ!! 大体何のために食料買い込んで来たと思ってるの!!」


――妹のお説教は、全く姉の耳に届いていないにもかかわらず遅くまで続いたのであった……。

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