第19話 エンジニア・シスター

「この人が私の姉さんで、この店の店主のサイル・ヴェスタゴールです」


 フェリルに甲斐甲斐しく世話を焼かれている目の前の人物は、レアと同じくらいの小さな背丈に大き過ぎるくすんだ白衣を身にまとい、ボサボサの髪で気だるそうにしている。


「なんじゃフェリルよ、久々にきたと思えば男連れか?」


「ち、ちがうわよ! この人は今一緒にパーティーを組んでる人! 姉さんの店に武器を見に来たの!」


 ……なんかフェリルの様子がいつもと違うな。身内がいるから、とてもくだけて見える。いつもの調子は外行き用なのか……?


「ほっといたら姉さんはずっと研究ばっかしてるんだから……」


「それしかする事がないからのぉ。それに新たな物を開発するのがわしの生きがいなのじゃ。……それでレンとやら、何が欲しいんじゃ?」


「あー……やっぱり剣かな。スペルで作った剣じゃ燃費が悪いからな」


「刀剣類ならその辺に作ってみた物が転がっとるから適当に選べ」


 見ると置いてある樽や棚に剣が無造作に置かれている。


「姉さんは作り終わった物にはあまり興味がないの……」


 俺は置いてあった一本の剣を手に取る。長さも重さも悪くない。


「これはどういう剣なんだ?」


「それは『熱』のルーンが使われておってな、敵に接触すると高熱を発し相手を焼き切るものじゃ」


 へぇ、悪くないな。


「柄も発熱するから持ってられんがな」


「ダメじゃねーか!」


 何て代物だ。


「使えるか使えないかじゃない。ルーンを武器に宿らせた時点で成功なのじゃ」


「……この店は研究の過程で出来た物を売ってるの。中にはいいものもあるんだけど……」


 なるほどガラクタ、もとい副産物の宝庫なわけか。


「というかルーンって物にも刻む事ができるんだな」


ルーンそのものが刻まれているわけではない。文字スペルによって生み出された能力を、わしの『改』によってモノに落とし込んでいるのじゃ。魔法構造や魔力の流れを完璧に把握しないと成功しないし、簡単なことではないのじゃぞ? ……まぁ普通の作り方ではないのじゃがな」


 よく分からないが、こう見えてサイルさん優秀なんだな。それはともかくこの発熱剣はダメだ。俺は別の剣を手に取った。


「じゃあこれは?」


「おお、それはなかなかの自信作じゃぞ! 刀身に薄く吸魔石が混ぜ込んであって、文字スペルの能力を刀身に宿らせる事ができる付加剣エンチャント・ソードじゃ!」


 ほう、それはなかなかいいんじゃないか。少し小振りだが小回りも利きそうで悪くない。


「なぁ、これって俺の『無』をエンチャントしようと思ったらどうなるんだ?」


「『無』? 何じゃ? お前の文字スペルか?」


 俺は「無」の能力を説明した。するとサイルさんの目が光りだした。


「ほう! モノを無にする力とな! 面白い! ……しかしエンチャントは無理じゃろうな。ただ剣が消えてしまうわい」


 まぁそうか。しかしどんどん文字スペルが増えてくれば使い勝手も良くなりそうだし、応用力のある武器だ。


「これいくらなんだ?」


 そう聞いた俺にサイルさんが提示してきた金額は、先日のヴァンパイア報酬をつぎ込んでも足りない額だった。


「しかし、妹の知り合いじゃ。わしの頼みを聞いてくれるなら10分の1の値段でもよいぞ!」


 何かを企むようなサイルさんの目が怪しく光っていた。


 

 

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