第16話 初めてのダンジョン探索

「今日のクエストはダンジョン探索よ! 最近このダンジョンで異常な数のアンデッドが確認されているらしいの」


 俺達は街から少し離れた岩山の中腹にある、初心者用のダンジョンの入り口に来ていた。


「最近のこのダンジョンの異常を調べて欲しいというギルドからの依頼が出ていたわ! ギルドから直のクエストだから少し報酬もいいの! 皆、頑張りましょ!」


 なんとも現金なヤツだ。


「なんてったって今回はプリーストのクレアがいるのよ! アンデッドなんて目じゃないわ!」


 自信満々に無い胸を張るレア。なぜお前が得意げなんだ……。


「それじゃ張り切っていきましょー! ライト!」


 俺達はダンジョンへと潜っていった。



――俺達パーティーの初めてのダンジョン探索は思いのほか順調だった。


 フェリルがシーフの職業文字ジョブスペルである「探」や「解」で索敵とトラップ解除を担当し、俺は最前列で「シールド」と「無」で遭遇したアンデッドの攻撃からパーティーを守り、後衛からレアとクレアが魔法で撃墜するといったフォーメーションだ。


 特にクレアの「浄」はアンデッドに効果抜群だった。俺がボーンナイトやマジカルゴーストを抑えている内に直ぐに浄化してしまうので、俺は最前線ながら未だ無傷であった。しかし確かに数は多い気がする。一体何処から……。


 そうこうしている内に少し開けた祭壇のような場所へ出た。


「広い場所に出ましたネ~。 しかしこの辺りにトラップは無いようデス」


「急にピタッとモンスターの沸きも減ったわね。どうしたのかしら……クレア、疲れてない?」


「皆さんが守ってくれていたので大丈夫です!」


 優しい笑顔で返すクレア。人柄もよく優しく、能力も高い……何故他のパーティーはこの人を手放すのだろうか? そんな事を考えていると何処からともなく声が聞こえた。


「また人間が邪魔しにきおったか……?」


――バッ!


 一斉に辺りを警戒する俺達。しかし人影らしきものは何処にも見当たらない。レアが周りを照らすがモンスターはおらず、小さな虫や、コウモリが天井にいるくらいで敵など何処にも……!?


 一瞬背筋に寒気を感じた俺はとっさに「シールド」を上に展開した。


――ガキィン!


 ……見るとコウモリの牙がシールドに食い込んでいた。


「ほう……存外勘は悪くないらしい……」


 そんな声と共に、天井にいたコウモリが一点に集まり人型を取った。


「四人か……。舐められたものだな」


「ヴァンパイア……!」


 レアが忌々しく呟いた。


「長い時を生きる魔族の一種でス……。高い魔力を持ち、身体能力も高いのですが一番厄介なのは……“吸血”。その牙で直接血を吸われてしまうと、自我を失いヴァンパイアに成ってしまうのでス……。つまり、一撃も喰らう事は出来ませン……!」


 フェリルの説明に俺は恐怖を感じた。


「何……そんな無粋な事はしないさ……ちょうど目的の陣を敷いた所だったのだ。お前たちには実験台になってもらおう」


 そう言うと、ヴァンパイアの傍にあった魔方陣が光りだした。


「あれは……! 『移』の……!?」


「グギャァァァァァア!!」


 次の瞬間、俺達の目の前に筋骨隆々のデカいモンスターが現れた。


「オークゾンビ……!?」


「ふむ、問題ないようだな……やれ」


 そう命令されたオークゾンビは手にしていた大斧を振りかぶった。


「ガァァァァァ!」


「くっ……『シールド』!」


 一旦防いで「無」で武器を消すしかない! 俺はシールドを張って反撃に備え……


――ザシュッ!

 

 振り下ろされたオークゾンビの必殺の一撃は、俺のシールドを易々と砕き割った。


 しかし俺はギリギリで体を捻って回避した。伊達に毎朝フェリルと模擬戦をやっているわけではない。腕に掠って血が出たが、こんなものはかすり傷だ。


「『ファイア』!」


 レアの文字スペルがヒットした。よし、今のうちに体制を立て直そう……。俺はクレアに腕の治療を頼もうとしたその時。



――ヒュッ ボゴォォン!!


 轟音の前に何かが通り過ぎる音が聞こえた。


 音のした方を見ると、驚く事にオークゾンビの腹にこぶし大の風穴が開いていた。


 それより驚いたのは、その場に居る返り血を浴びたクレアの、いやの残忍かつ不敵な笑みだった。


「久々に出てこられたと思ったら楽しそうな相手がいるじゃねぇか!」



――風圧で脱げた頭巾からはロングストレートの金髪が風に靡いている。そして、拳速で破けたシスター服の袖から覗く「」のルーンが光り輝いていた。

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