第15話 回復役をゲットせよ!

――キィン! キィン!


 俺は教わったソードでフェリルと剣戟を繰り広げていた。


「なかなか筋がいいですネ、レン殿」


 こっちの剣を全てナイフでいなしといてよく言うぜ!


 幾度か斬り合いを交わした後、俺が文字スペルで作ったソードは消え去った。


「今日の模擬戦はここまでですネ。……レン殿もやはり純正の武器を買った方がいいと思いますヨ」


「確かに……。いざという時魔力切れじゃヤバいもんな」


「よければ今度オススメの魔道具店を紹介しますヨ! コレもで買った物でス」


 そう言ってフェリルは自分の銃を見せた。魔法銃といって、弾倉部分に吸魔石という魔法を貯め込んでおける石が仕込まれているらしい。普通に文字スペルを使うより射程距離と貫通力が増すそうだ。


「その前にクエストで稼がないとな。お前が使っちゃった分」


「ウッ……それを言われると……ちゃんと!」




        §




 新しくパーティーを組んだ俺達はそこそこ、いや順調にクエストをこなしていた。逃がした魚は大きかったのか、レアがドンドンクエストを請けてくるのだが、それを何とか成功させていった。


 経験値も貯めながら、新しい文字スペルを覚えて戦力アップを……そう、実は俺の「無」の新たな能力が判明したのだ。


――「無」は万物へと続く道の根源なり 映しこめば何物にも成れるだろう


 王城で見た石版の三番目の文。無は何にでもなれる。そう、三つ目の能力は、受けた文字スペルを覚える事が出来るラーニング能力だったのだ。


 これはメタルドロルの一件の時、フェリルから受けた「血」を使えるようになっていた事から判明した。


 それから俺は自分の手札を増やすため、ギルドで知り合った冒険者仲間から文字スペルを覚えさせてもらっている。いくつか使えるようになったので、それらを駆使してクエストを成功させていったのだが……俺達のパーティには決定的に足りない物があった。それは……


「回復役を入れましょウ!」


 昼飯を食べ終わって次のクエストを何にするか選んでいた俺達に、フェリルはそう言ってきた。


「確かに回復役がいれば私達のパーティーの安定感はさらに増すけど……わかってるでしょう?」


 そんなフェリルの提案にレアは待ったをかける。


「何がわかってるんだ?」


「回復系のスペルを使える人はかなり少ないの。公用語コモンスペルの中でも更に難易度の高い職業文字ジョブスペルだから、教会で一定期間修行しなければ習得できないわ。それに……通常、職業文字ジョブスペルはメインスペルによって就ける職業が決まった後、その職に就いている人だけが学べるものだけど……回復系の職業文字ジョブスペルはその制限が無い代わりに、神聖な魔力が体に流れていないと発動できないの。だからある程度生まれつきの要素も必要になってくるわ」


 一度習得しようとして調べた私が言うんだから間違いないわよ! と続けるレア。


「それにもし使える人が居るとしても、わざわざ冒険者になろうと思わないだろうし、居たとしても既に何処かのパーティーに所属しているわ」


「そうなのか?」


「まぁ普通はそうですネ。でも募集するだけすればいいと思いますヨ?」


 ……俺も居るに越したことはないとは思う。俺の言葉を聞くとレアは、「じゃあ……」とメンバー募集の張り紙をボードに張り出した。


「これでしばらく待ってみましょ。それで今日のクエストはね……!」




        §




 難航すると思われた新メンバー募集のお知らせは、翌日俺達が採取クエストから帰ってきたタイミングで急に終わりを告げた。


「あの~……回復スペルを使える人を募集しているパーティーというのはここで合っているでしょうか……?」


 声のした方に目をやると、青っぽいシスター服を身に纏った柔らかい雰囲気を醸し出す女性が、碧色の瞳をこちらに向けていた。淡いブロンドの髪は、フードのように服と一体型になっているらしい頭巾に隠されており長さはわからない。背丈は俺より少し高く、何故か下半身には膝上近くまでスリットが入っていた。拡がらないように糸で留められてはいるが、隙間から白い足がチラチラ見え隠れしている。そして何より、シスター服からはち切れんばかりの胸部装甲。ものすごい美人がそこに居た。……なんてどこかで見たようなセリフが浮かんでしまう程に、彼女の容姿は衝撃的だった。


「そうだけど……アナタは……?」


 昼食を摂る手を止めて、目を点にしたレアが尋ねる。


「あっ、申し遅れました。私クレアと申します。こちらでメンバーを募集していると聞いて……」


 俺達は顔を見合わせた。まさかこんなに早く来るなんて……。フェリルを見るとニヤニヤしている。


「だから募集だけでもと言ったデショウ?」


 と、とにかく話を聞こう。俺とレアは早速面談を開始した。


「えっと……あなたはどの回復スペルが使えるの?」


「『癒』です」


「『癒』!? 回復系の上級スペルじゃないの! なんでまたそんな人がこのパーティーに?」


 不思議そうに尋ねるレア。


「私の家系は回復系の人間を多く輩出しており、私もその関係でスペルを修めているのですが……すこし家族と揉めて……家を飛び出してしまいまして……」


 クレアの言葉に反応するレア。


「それで元々憧れていた冒険をしたいと思い、冒険者登録をしたのですが……は攻撃力が無いものですからどこかのパーティーに入れてもらおうと思って転々としたのですが……何処も一度クエストに行くと、何故かもういいとお別れを告げられてしまうのです……」


 そこまで説明された所でレアが身を乗り出すようにクレアの手を握った。


「わかる……! わかるわその気持ち! 私もずっと一回だけのお試しをたらい回しさせられてたの! 辛いよね……! OKわかったわこのパーティーで一緒に頑張りましょう!!」


 即効で合格を決めてしまったレア。俺が声をかけると……


「何よ。異論あるの? せっかく『癒』が使える人が来てくれたのよ! 願っても無い事じゃない!」


 まぁ確かにそうなんだが……もう少し話を聞いてみてもいいんじゃないか? と思いつつフェリルを見ると、


「また新しい仲間が出来ましたネ!」


 とニコニコ顔なので、俺はまぁいいかと素直に承諾した。 ……この時もっと話を聞いておけば良かったと直ぐに思わされる事になるとも知らずに……。

                            ――残り4回

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る