第13話 脱兎の如く
「手こずってる見たいですネ~。ここは一つ、共同戦線といきませんカ? 分け前は5:5デ」
突然の乱入者に俺は目を見開いた。そのバニーガールのように頭の上から伸びた長い耳は、王城や朝、街で見たものと全く同じだった。
淡い緑色の厚手のシャツに、折られた襟とまくられた袖から見える裏地の白。動きやすそうなデニム生地のホットパンツ。左右の腰には銃と、ナイフが差してあったであろう革のホルダーが一つずつぶら下がっている。髪は薄い茶髪のセミロングに、そこから白に近い褐色の長い耳が伸びている。
「アンタ……」
「ってそんな状態じゃ交渉もできませんネ。よっと……」
俺の肩の傷を見た彼女はそう言って近づいてきて、俺の傷口へ手を添えると……
「『血』」
――キィィン 【スペル取得 「血」 血を操る事が出来る】
……なんだ? この声は?
「これで一旦は大丈夫なはずでス。でもあくまで応急処置ですからネ?」
俺が頭に響く声に驚いていると隣でレアは更に驚きの表情をしていた。
「あれ、さっき『影』を……メインスペルを……二つ……!?」
「まぁ、それはおいておきまショ。それでどうしまス? 早くしないと、コレ級のモンスターをこれ以上ここに留めておくのはいくら私でもキツいですヨ?」
そういえば先程からメタルドロルは全く動いていない。見ると、メタルドロルの影にナイフが刺さっていた。
「……そりゃこのままじゃ逃がしちゃうんだし、倒せるなら協力でもいいわよ」
「交渉成立ですネ」
ウサ耳さんはニヤリと笑みを浮かべた。
「ではレン殿、メタルドロルの体に触れてメインスペルを使ってくださイ。レアさんは最大火力でトドメをお願いしまス! 私の武器は使用中なのデ」
「え……? 何で名前……」
「早くしないと逃げちゃいますヨ~?」
「レ、レン、早く!」
色々気になる事はあるが、とりあえず俺は言う通りにした。
「『無』!」
――パキイィィン
……? 何か変わったか? なんとなく色は鈍くなった気はするが。と思っていると、
「レン、下がって! 『
いつもより力強い熱を帯びたレアのスペルはメタルドロルに命中した。……確かにさっきよりは強力だが……。
――ポンッ!
俺の予想は無残にも打ち砕かれ、メタルドロルは弾け飛んだ。……特大のクリスタルを残して。
§
「フフフ……これで当面は贅沢できるわ……。二等分だとしても相当なモノになる……!」
静かに喜びを浮かべながらほったらかしにしていた普通のドロルのクリスタルを整理するレアに、俺は気になっていた事を質問した。
「なぁ、なんでお前の『
「私の『
首を傾げる俺にレアは説明を続けた。
「メタルドロルはね、高い物理耐性と魔法耐性を持つレアモンスターなの。生半可な攻撃は受け付けないわ。……そこでレンの出番よ」
「俺の?」
「おそらくレンの『無』でメタルドロルの“耐性”を無くしたのよ。それで攻撃が通ったってわけ。私の『孤』を消したのを見てもしかしたらとは思ってたけどこんなにうまくいくとはね!」
耐性を消した……? 無生物を消せるとは聞いたがそんな事も出来るのかこの能力は。
「運が良ければメタルドロルに出会えるかもと思ってこのクエストを選んだのだけど、本当に出会えるとは思わなかったわ! メタルドロルはとても希少なモンスターなの。そして落とすクリスタルは更に希少で、とんでもない値段で取引されているのよ! ねぇレン、何に使う!? ちょっといいご飯屋さんいっちゃう? それとも強力な装備? 私的には小さめの家を買って拠点にするのもアリだわ……! レンなら特別に一緒に住んであげてもゴニョゴニョ……」
機嫌がいいのかいつにも増して饒舌なレア。……最後の方はよく聞き取れなかったが。……そう、よく聞き取れなかっただけだ。決してひよったわけではない。決して。
「ま、まぁそれもこれもあの耳長族の人が“影縫い”で足止めしてくれたおかげね! レンの怪我の処置もして貰ったし……そういえばレン、あの人は?」
その言葉に俺は辺りを見回すと、少し離れた所にウサ耳さんを見つけた。
「おーい! こっちの整理も終わったし帰ろうぜ~」
「はいはーい。しかしこれは立派なクリスタルですネ~……。アナタ達は普通のドロルの討伐クエストも請けてたんですカ~?」
「そうよー。何ならこっちの報酬も半分分けてあげてもいいわよ! なんてったって5:5ですものね!」
……機嫌いいなー今日のレアは。まぁ今までやりくり大変だったんだろうから気持ちはわかるが。
「あーいいですよそんなノ~。私は“コレ”をもらって行くんデ」
手に特大クリスタルを持ったウサ耳さんはそんな衝撃発言を放った。
「あらそう。わかっ……えっ!?」
「怪我の治療もしたシ、足止めしなきゃ逃げられてただろうシ、そっちのクエスト報酬もあるみたいだからこれで5:5くらいですよネ~。 それじゃ!」
そう言い放ったウサ耳さんはなにやら懐から取り出したビンの中に入っていた粉を振りまいた。すると、俺が王城でテレポートして貰った時のような魔方陣がウサ耳さんの足元に光りだした。
「“ドーター”」
――バシュゥン
そんな音と共にクリスタルをもったウサ耳さんは消えてしまった。
俺とレアは顔を見合わせしばしの静寂が続いた。が……
「何なのよあのウサ耳女はああああああああああ!!!!!!!!」
森に響き渡るレアの絶叫をよそに俺は、王城での事聞きそびれちゃったなー……とのん気な事を考えていた。
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