第12話 壁にウサ耳あり障子に目あり
「ん……朝か……」
俺は宿屋のベッドで目を覚ました。
……あれから俺達はギルドに戻ってクリスタルを換金した後、併設されている酒場で夕食を取った。……のだがそこでレアが“サーク”を飲みたいと言い出した。聞くとこっちのお酒のようなものらしい。
俺は法的に飲んで大丈夫なのかと聞くと、スペルカードを作って冒険者登録できているならOKらしい。何とも適当な線引きだと思いつつ、やけにテンションの高いレアに押されて乾杯した。
俺も仲間が出来た事が存外嬉しかったのかもしれない。
……しかしそこからが大変だった。全くアルコールに耐性の無かったレアは直ぐに酔っ払って、今までの愚痴を語りだした。
宿を取っても周りから苦情が来るので外れの倉庫を借りて寝泊りしていたこと。
お試しでパーティーを組んでもそれぞれの連携が取れなくなり一回でお払い箱だったこと。
心を許せるのは、クエスト先で仲良くなったガルちゃんという狼だけだったということ。……彼の
そんな事を延々聞かされて、最後には潰れてしまった。
「無」のおかげなのか全く酔わなかった俺は、潰れてしまった彼女を何とか宿屋まで引きずって行ってベッドに放り込み、自分の部屋で寝たのだった。
そして翌朝、腹が減った俺は泊まっていた2階の部屋を降りて、ロビーでレアを探したがまだ居ない。……まぁ久しぶりにベッドで寝たのだろうから寝かせといてやろう。俺は何か腹に入れるか……と外を歩き出した。
§
「いたぞ! あっちだ!」
俺が魚屋の店先で煙を上げていた串焼き魚をかじりながら歩いていると、向こうから声が響いた。見ると、昨日俺を尋問した役人達数名が、遠くの通りを走っていくのが見えた。俺が野次馬根性で覗きにいくと、立ち並んでいる店舗の上を足場にして、移動しながら逃げて行く黒い影が見えた。
その影は軽い身のこなしで建物を転々と移動し、俺の頭上を通って行った。
その時見上げた俺の視線は、体中を黒い布で隠したその人物の頭から生えている長いウサ耳に釘付けになっていた。
§
「それは“耳長族”ね」
先程の出来事を俺から聞いたレアはそう言った。……朝起きたら俺がいなくて慌てて飛び起きてきたらしいくせに急に冷静だなコイツは。ギルドのテーブルに座る俺を見つけたときの安心した顔を俺は忘れねぇぞ?
そんな俺の視線を無視してレアは続けた。
「耳長族とは、ウサギのような長い耳を持つ種族の事よ。数は少ないけど生まれつき高い魔力を有しているわ。大体は森の中に幾つかの里を作って暮らしているのだけど、街に出て活動するような人物はその高い魔力でほとんどが名を上げているの。冒険者だったり研究者だったりでね」
なるほど、それで
「……何? 知り合いでもいるの?」
一人納得したような顔をしている俺に、レアは不機嫌そうに聞いてきた。……そういえば昨日はコイツの事を聞くばっかりで俺の事は全く話していなかったな。
俺は転生云々の所は省いて、王城であった事をレアに話した。
「それ本当……? 確かにこの国の王女の名前はイリアだけど……。というかそれが本当だとしたら貴方よく生きてたわね」
呆れ半分な目を向けてくるレア。そんな事言われても好きで召喚されたわけじゃない。
「まぁいいわ! そんな事より今日やるクエストを選びましょう!」
元気だなコイツ。目をキラキラさせてクエストボードへと走って行くレアを俺はゆっくりと追いかけるのであった。
§
「あそこにワラワラいる土の人形みたいなのが見える? あれがドロル」
俺とレアは森の奥まった所にある湿地帯に来ていた。ぬかるんだ泥の足場に悪戦苦闘しつつやっとターゲットを見つける事が出来た。
「なんか泥が動いてるな」
「そう、泥に魔力が宿り自我を持ったモンスターなの。今回のクエストはあいつらのクリスタルを採取するのが目的よ!」
後で聞いたのだがモンスターのクリスタルはそれぞれ違いがあり、用途も変わってくるそうだ。水系の敵のクリスタルは水の秘薬の調合に必要だったり、火系なら火薬や爆薬、火をおこす魔道具の素材に使われたりするらしい。
今回は、土の魔道具の製造に使いたいので採取してきて欲しいという学者の依頼を受けてここまでやってきたのであった。
「よし、じゃあさっさと倒しちゃいましょ。ドロルは水をかければ薄まって何も出来なくなるわ。そうしらた
「分かった」
俺はドロル達に向かって
次第にこちらに気づいたドロルが土を固めた弾を放ってくるが、体から離れてしまえばこっちのモン。
俺は「無」で弾を消しつつ分担された役割をこなして行った。
……
「あらかた倒しきったわね」
俺達の見事な連携はドロル達を一網打尽にした。もうだいぶクリスタルも集まっただろう。別れて作業していた俺はレアの所に戻ろうとすると、少し離れた所に一匹残っているのを見つけた。
――残り5回
……しかし何か光沢があるなコイツ。まぁ気にせず流れ作業で俺は水球を放った。
――パシャッ
広がるどころか弾いた。なんだコイツ。
「おーいレアー! なんか水を弾くピカピカしたやつがいるんだけどー!」
遠くのレアに叫ぶと、
「!? まさかメタルドロル!? レン、逃がさないで!!」
レアが血相を変えてこちらへやってこようとしている。……逃がさないでったってどうすりゃ……。とりあえず。
「『
――ボンッ!
俺の放った火球は見事命中した。……が。
「ギィィィィィ……」
全くの無傷。そう思った次の瞬間、メタルドロルは流体の体を操り右手を鋭い刃に変え、俺へと振り下ろした。
……マズイ、ぬかるみで足場がッ……!
「ギイイィィィ!!」
――ズシャッッ!
何とか体を捻った俺だったが、肩をザックリ斬られてしまった。
「レン!!!!!」
駆け寄ってくるレアに俺はふらつく体を受け止めてもらった。
「大丈夫だ……。大丈夫だが……」
どうする……? 痛む右肩を抑えながら俺が考えていると、
「まいったナ~。
――ドスッ
何処からか聞こえた声と同時に、メタルドロルの近くの地面にナイフが刺さった。
「手こずってる見たいですネ~。ここは一つ、共同戦線といきませんカ? 分け前は5:5デ」
突然現れたウサ耳の女性は開口一番、俺達に交渉を持ちかけてきた。
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