目が覚めるとそこは教会だった

@Kosuke_N

目が覚めるとそこは教会だった

赤と緑と紫と黄色。いろんな色のガラスの破片がつながってできたみたいな天井が視界に写った。私は万華鏡のように思えて、しばらくの間、うつろな目でそれを眺めた。意識がはっきりすると、その天井は教会のステンドガラスだった。なにか特別な模様があるわけではない。本当にガラスの破片を寄せ集めたような天井が、目に入った。床を通る風の、冷たいのを感じた時、私は起き上がる。どうやら椅子に寝っ転がっていたようで、腰がいたい。周りを見渡すと、小さな祭壇や、立派な柱頭を認めることができたが、人はいない。ただしんと、冷たい空気が漂っていて、不気味だった。息を吐くと、白い煙。乾燥した空気がのどを通った時、私は自分ののどがカラカラに枯れていることに気が付いた。水を求めて立ち上がると、祭壇のテーブルに水の入ったコップを見つけた。中央の身廊を通ってそこまで歩くと、なにか、この水を飲むことに抵抗を感じた。どうしてここに水が置いてあるのか知らないけれど、なにか宗教的な意図があっておいていることに間違いはない。だからこれを飲むのは罰が当たりそうな気がしてならなかった。私は振り返って扉口を見た。扉は開いていて、外にはおそらく漁港であろう、整備された海岸と、背の高い黒人の歩行者がいた。まさか、と思ってしばらく外を眺めた。この教会のそばを通る人は、みな、ハーフの顔立ちをしていて、ここは異国か、と思わずつぶやく。無意識に外を出ると、あまりの外の明るさに、おもわず手の平を太陽のほうへと向けた。その時目の前のサングラスをかけた女性が、びくっと私へ目を向ける。私は驚いた。そこは外国だった。見る人すべてが異国人の顔立ちをしており、建物は__たぶん、フランスかイタリアあたりであろう。レンガと真っ白のコンクリートでできた建物が通りに並んでいた。そのとき私はなぜか、祭壇の水はミネラル成分たっぷりの硬水であろうという考えが突拍子もなく浮かんできた。急いで身廊を戻り、水を飲み干す。宗教的な懸念はすっぽり頭の中から抜けていた。カラカラののどが潤うと同時に、鼻から突き抜ける風味のくささから、硬水であることを確かめることができた。美味しい。硬水が、こんなにも飲みごたえのある水だとは思わなかった。ガラスのコップを真下へ投げる。そのコップは私の想像通り、粉のように割れて周りへと飛び散った。私は走って外を出た。私を容赦なく照らす太陽はもう眩しいと思わない。そのまま漁港へと一直線に進み、プール感覚で海へと飛び込んだ。

「HAHAHA」

海の中を潜ると、誰かの笑う声が聞こえてきた。私を笑ったのだろうか、という心配は微塵もおきない。ただ海中は、透き通っていて、綺麗だった。魚が泳いでいないのが残念だと思ったら、一匹の黄色い魚を遠くに見つけた。泳いで近づくと、その魚は、黄色に青色の縞模様が入っており、日本では見ない種のように思えた。日本、というワードを連想した時、私は、この海が、日本とつながっているということに気が付く。そしてそれは、私に一抹の不安を与えた。その一瞬の間に、私は多くの不吉な言葉を連想した。朝、食事、学校、登校、いじめ、そして先生。もう無理だ!と叫ぶ人の声。私は海から顔を上げた。いつも見ている太陽がそこにあった。



午前6時、私は目覚めた。教会は、夢だった。祭壇から見た景色も、夢だった。今思えば、あの教会はイタリアのナポリにある礼拝堂だろう。世界史の教科書に、似たような建物が写真付きで紹介されていたような気がする。そういえば授業中、そのページを見ては海外を旅行することに胸を膨らませていたっけ。そうそう、あの漁港は、イタリア最大の漁港で、名前は忘れたけど、確かに実在していたっけ。行ってみたいって、確かに思った。皮肉なことに、その夢が、今日の夢で実現されたということか。いや、これは皮肉じゃなく、希望だ。だって、この海は繋がっている。世界は広くて、知らないことだらけ。それだけで、私は希望を持つことができる。いま直面している現実が、私の世界の全てだと思っていたけど、そうじゃなかった。そう、世界は広い。今持つコンプレックスや、人間関係の悩みと言うものは、全体の規模で見たら、些細な問題に違いない。本当に、些細なことなんだ。私は決めた。将来それなりに成功したら、イタリアのシチリア島あたりに移住して、貧しいながらも充実した生活を送ろう。悩みのない生活って言ったら無理なことのように思えるけど、私は、人と接するより、自然と共に生きる生活のほうが大好きだから。そのための苦労はいとわない。だから、ベットから起きなきゃ。


目が覚めるとそこは教会だった。その夢は、私に本当の夢と希望を与えてくれた。

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