6.帝国
あっという間に次の満月の前夜となった。
そして当日。
前日から遠い国がいくつか既に到着していたが、当日の午前中は、多くの国から出席者が続々と到着していたので、コンフォート国はおおわらわだった。
「シチュータント国御一行様、到着いたしました」
という声と、どこかの国が到着するたびに、馬車を動かす従者の声が聞かれた。
「道を開けてくれー!通れないよ」
「荷物は早く各自のお部屋へお運びしろ。荷物を運び終わったら次のお客様の荷物を運ぶんだー」
御一行が到着するたびに、宿泊する部屋への案内、荷物への管理があり、使用人たちは総出で大忙しだった。
衛兵に扮したレイは訪れた人々の荷物運びを手伝っていた。
他の兵たちも、「これはシチュータント国の荷物だ。王宮の客室左端から3番目の部屋に持って行ってくれ」
「おい、ケシュツ―ル国の訪問者の数って何名だ?食事の用意するから確認しろと調理場から言われてきたんだが」と上から下まで大忙しだ。
「ケシュツ―ル国御一行様、到着しました」
「お待ちしておりました。ようこそわがコンフォート国へ」主催国であるシンたち王子は、率先して使用人たちに指示を出したり、各国の重鎮たちの対応をしており、
「おお、お久しぶりです。先日もあったばかりなような気がしましたが、いや、月日は早いですあ」
そしてシーラもいよいよメイドとして仕事を行っていた。シーラは、メイド業に扮する間は”ハイネ”として名前を変えていた。そしてレイに前髪を前面に長く出して眼を隠すようにと言われたとおりにしており、その風貌はいかにも内気なひと。の印象を与える感じにしていた。
だが、どうしてだろう?
「ごめーん、ハイネさん。ユーデン国王様から依頼されてた本を取りに行く役目、ハイネさんにおよびかかってるから、行ってくれない?」
「え、わたしがですか?さっき行ったのに」
「うーん、気に入られたんじゃない?」
ご遠慮したいわ。けど、あの日お父様とチェスをしたその日から、メイドとして呼ばれているよな……。
「ハイネさん、貴方、ユーデン国のお部屋に昼食持って行ってね、じゃあお願いね」
「はーい。今行きます。」
「ハイネさーん、国王様がブルーベリーパイ持ってくるようにって」
「ハイネさーん、これ、頼まれてるから持って行って」
「わかりました。どこですか?」
「ユーデン国のお部屋」
「……はい、わかりました」
「ハイネさーん、お使いー」
おかしい。ぜったいおかしい。レイに相談しても「気のせいじゃないですか?」というけれど、他のメイド、みんなはそんなに王族に呼ばれていないわ。
ハイネは、頭を総動員に働かせて、この自分がなぜ頻繁に呼ばれてしまうのか、ある結論に至った。
それを、今度父に会ったときに仕掛けようと思ったのである。
そんなことをつゆ知らず、ユーデン国の割り振られた部屋の奥で、今日も鈴を鳴らす迷惑父、ユーデン国王がいた。
「また、ハイネというメイドに本の使いを頼むよ」
シーラはまた王宮の庭にいた。父の鉱物であるブルーベリーパイとお茶をワゴンに乗せて。
なんで今日も、お父様とお茶……。それも、メイドとチェス!あー、ありえない。
シーラはメイド頭から、今日はユーデン国王とチェスをするように言われていた。
いいわ、今日こそ考えていたアレを実行するのよ!!
国王からの毎日の言いつけをきっちり守るのも、シーラ自身うんざりしていた。そしてユーデン国王は、いつものように王宮の庭で自身の大きい身長、身体を長椅子に腰かけながらゆったりと対戦相手を待っていた。羊皮紙である紙一枚一枚をパラり、パラりと重厚な書物をめくる音が心地よく響く。国王が書物の文字を追って読書を楽しんでいると、ふと、庭から人影が見えてきた。
「ん、ああ、来たか。さあ、今日はチェスの相手をしてくれないかな」
王はにこやかに言う。
ハイネ扮するシーラ。「はい、かしこまりました。ところで、国王様?」
「ん、なんだい?」ニコニコと笑顔で”さあ、ここに座って”と椅子をひく国王。
「隣から子供の声が聞こえてきますが、どこの国の子供の声か、わかりますか?」ハイネは、隣の塀の奥から今も聞こえてくる、微かな子供の声がある方向へと指をさして言った。国王もハイネが指を指す場所を見ながら、「ああ、隣は英才教育で連れてきた子供を預かる場所だからなあ。」
定例会議のために、訪れるのは大人だけではなかった。いずれ訪れる大人同士の交流に備えて子供のころから自分とは違う文化の、同じ王族同士で交流するための場所だよと、国王は教えてくれた。
「そうなのですのね、レイに聞いても教えてくれなったから。ありがとう、お父様」
「どういたしましてだよ、シーラ」
にこやかに振り返りながら言う国王だったが、メイドの顔を見て、
あ、、、、。と思ったが、すでに遅しだった。
「やっぱりですのねぇ。私がメイドをしてることを知ってて、こき使っていたんですね。教えたのは、レイかしら?それともシン??」
「いや、これは、待ってくれ、シーラ」
「まあ、いいでしょう。犯人捜しはあとでするとして、私がお父様にお願いしたいことはただ一つですわ」
シーラはそう言うと、黒い笑顔を国王に近づけるのだった。
そして、国王カルシスには、ダイラン帝国の一行が、事前に手紙での連絡での到着時刻、予定どうりに、到着するとコンフォート国入り口の見張り役の兵から連絡があった。
「間もなく、ダイラン帝国がご到着する。帝国の担当になった者は、心して自分の仕事に専念するように!!」
第一王子、シュレイアの声が王宮内に響いくと、一層張り詰めた空気が漂った。
コンフォートの国王、カルシスも、この世界の帝国には他の国よりも粗相をしてはならないと言わんばかりに、わざわざ出迎えるために準備をして待っていたのだ。過去に、小さい国が大きい国と戦争をする羽目になったことは数多い。その戦をつけられる口実を作らないためにも、丁重に外交、おもてなしする必要があった。
そのため、帝国側には他の諸国と時間をずらして訪問していただくよう手紙でお願いしていたのだった。
「ダイラン帝国御一行様、到着致しました!」
兵の声が広間に響き、それと同時に国王やシン達の前方、王宮の塀の入り口から出て来た先頭の馬車が見えてきた。
どこの国の馬車かわかる一つの特徴として、小さな紋章の旗を馬車につける風習があった。
そして帝国の、黒を基調にして深紅の赤で縁取られている馬車には、帝国も王冠とドラゴンが描かれた紋章を馬車の上に付けて走っていた。
この大陸では黒色は災い、不吉な色として認識されているのに、馬車全体を黒色とは、なんとも大胆不敵なものであった。しかも、災いの色とされる黒と赤色をつかった装飾とは、、。どことなく、帝国の近寄りがたさを馬車は表しているようであった。
先頭の馬車の後ろからも、続けて同じ装飾の2台の馬車が到着し、やがて、その先頭の馬車から重鎮の一人であろう40から50代のように見える顎鬚をはやした男が出てきた。その男は眼鏡をかけており、その眼鏡の奥からは鋭い眼光が垣間見れた。さらに、全身黒のローブをまとっており、この男の威厳を助長していた。少しでも隙があれば取って喰われるような雰囲気を醸し出しており、初めてこの男を見るコンフォート国の臣下や貴族は、一瞬で、圧倒されるのだった。
「ようこそ、キュリーダ卿。長旅のなかさぞお疲れでしょう。会議中はゆっくり我が国で休んでいてください」国王は2頭身であるため短い腕を伸ばして、背が高いキュリーダ卿としっかり握手を交わした。
その間も国王カルシスとキュリーダ卿が握手している後ろでは、到着した帝国の2番、3番の馬車から次々と帝国の人間が出てきた。
「お久しぶりでございます。国王陛下。このたびは、5日間お世話になります。」
お互いに、挨拶もそこそこに交わすと、第一の王子シュレイアがあいさつをした。
「ようこそ。宰相様。こちらで、精いっぱいのおもてなしを準備をしています。会議ではお手柔らかにお願いしますね」と先制して牽制していた。
「ハハハハ。私は穏やかに各国が取引できればいいと思っていますよ。」とキュリーダ卿はあくまでも何も企んでいませんよというスタンスでいくようだった。
「あと、今回の会議では初めて第三王子であるシンも参加する予定ですので。」シュレイアが紹介し、シンはきりっと相手の眼をみたあと
「初めまして」と挨拶をした。
「ほう、貴方が……。末の第三王子の方ですか」
「ええ、そうです。それとシンは、こことは隣国のユーデン国の姫と同い年なので、幼馴染で、あちらの国へ婿入りが決まっているんですよ」国王がシンの紹介を行った。
「そうでしたか…」
そしてシンが形式上手を差し出し、握手の意図を示すも、キュリーダ卿はシンの鋭い視線から眼を放さず、そして静かにスッと、シンの横を通り過ぎた。
(!)
驚くシンたちをよそに、キュリーダ卿はの国王に「では、行きましょうか」と声をかけるのだった。
「え、ええ。こちらですよ」
ぎこちなく言う国王カルシスがキュリーダ卿の前方に立ち、王が直々に案内しながら、卿と一緒に後から並んだ帝国の一行は、王宮の奥へと進んでいった。キュリーダ卿の後ろからゾロゾロと訪問者が列をなして後に続いた。
この人たちも帝国の人たちだろう。シンはそう思った。
各国との挨拶として握手をせず、その場を離れることは大変失礼であることだったが、相手は帝国の代表として来ている宰相。シンは王子として相手に非を責める言葉をかけることさえできなかった。そんなことをこの人目が多い場所ですれば、国同士の不穏な噂が流れる可能性があった。いや、それよりも国同士の戦争の発展になりえた。いつの世も、戦争は簡単な、くだらないことが引き金となって起こるのだ。どんな些細なことでも相手、キュリーダ卿に、シンは問いかけられるはずもなかった。
帝国の者たちが王宮の、見えないところまで行ってしまうと、辺りはザワザワと騒ぎだした。
「おい、見たか、シン様と握手せずに素通りしていったぞ」
「帝国のブランドがあるから抗議しにくいなあ。他の国だったら失礼すぎてヤバイぞ」
「あー怖かった。あの人がキュリーダ卿?初めて見たが、噂どうり怖い人だな」
コンフォート国の臣下、貴族たちは口々に喋った。
パンパン!
そのとき、一人の銀髪の若者が大きく手を叩いた。
第二王子サスティスだ。
「さあ、みんな、仕事に戻るぞ!たくさんの仕事が山済みなんだ持ち場に戻れ!」
自分たちの国の王子に言われては仕方ないので、キュリーダ卿、帝国の人々を見ようと集まった人々は、すぐにゾロゾロと持ち場へと戻っていった。
シンは帝国が向かった王宮の奥をみつめたまま立っており、
王や兄には作法どうりだが、俺のは拒否か。やはり、シーラの婚約者として離れたのか?
そう思ったそのときだった。
何者かにじっっと冷たい視線をシンは背後から感じ取った。
ばっと後ろを振り向くが、すでに帝国の空の馬車三台が指定された停留所へと移動するだけであり、目の前には怪しい人物は見当たらなかったのである。
気のし過ぎだな。疲れてるな……。
ふと、そんなことを考えていると第一王子シュレイアが後ろから
「おい、シン。気にするなよ。キュリーダ卿は前もあんな感じだったんだよ。俺たちが、あの卿を引き付けておくから、お前はあの作戦頑張れよ」
第一王子が肘で突いてきた。作戦とはシンが会議中にシーラのことを持ちかけて、その言葉にどう帝国側が反応を示すか、帝国を誘い込む罠のことであった。
そして、第二王子サスティスも、シンを挟むように誰にも聞こえないように小さく話しかけてきた。
「そうだそうだ。お前は好きな女、シーラだけは守ってやらなきゃ。諸国の対応は親父やこの兄二人に任せとけ」
普段ふざけてばかりの兄二人だったが、シンが暗い顔をしているときは決まって明るくシンに話かけるのだった。
「ああ、そうだったな。任せたよ兄上たち」
出迎えも終わったので、シン達三人王子は王宮の回路を仲良く歩いて話していた。
「ところで、シン。シーラ王女のユーデン国王もう到着してんだろ?娘に会わないのかよ?てか、作戦には加わらないの?」
「国王は、会議中は作戦に表立って動けないが、作戦には参加するよ。あと、シーラとはもう会っているが、メイド姿の娘を何回も呼んでいるんだと。レイが、シーラにバレるのも時間の問題と言っていたよ」
「ああ、そんなことしそうだな、あの王は」
「シーラがメイドに扮装してることに気がついてないフリしながら、娘に何かといってはメイドを呼ぶんだからな。娘を護るために傍に置きたいんだろうが、いい迷惑だろな」
シンは兄たちに「はぁ」と、ため息をついて話した。
「おれは、あの親子の間に将来、婿として入るとなると、気が思いあられるよ」
「まあ相変わらず、我が子大好き国王だよな。お前は、シーラの夫になるからユーデンの王様が義父になるとはいえ、苦労するな」
ワッハハハハと笑いながら二人の王子がシンの背中をポンポン肩を叩きながら慰めたが、今回ばかりは明るくなれないシンであった。
そこへ、「シン様ー!!」カルファトが走りながらシン達をめざして走ってきた。
シンは、ふとなにか嫌なことが起きたのではと、胸騒ぎを感じた。
「どうしたんだ?」
「冷静なカルファトが走ってくるなんて珍しいな」シンの兄たちは口々に喋った。
「どうしたんだ?何があった?」
カルファトは息を整えながら「はやく、王妃様の間に来てください!帝国に潜入していた者が、殺されたとのことです!!」
(!!!)
一気に衝撃が走った。
「わかった!!兄上、行きましょう!!」
シンの言葉に「「おう」」と兄王子たちは返事をしながら王の間へと走り出した。
「と、いうことですから、潜入した者は帝国の奥、政務室の身辺を調べる任務に当たっていた者なのですが、調査報告書を渡す店に約束の時間を過ぎても姿を現さなかったのです。それで帝国に入った者総動員して行方を追っていたのですが、とうとう帝国宮殿から離れた場所で、死後3日は経過している状態で発見されました」
諜報員の一人であろう、男が王の間で事の事情を話していた。
聴き終えたコンフォート国の王と王妃、レイたちは深刻な顔をしていた。
「王、王妃様。シン王子たちがご到着されました」従者の者が言った。
「すぐに通して頂戴」
「はっ」
王妃が命じたあと、すぐにシン、シュレイア、サスティスそしてシンお付きのカルファト。夫妻の息子たちが急ぎ足でやってきた。
「殺された者が発見されたというのは本当ですか!?」シンは、更に兄たちよりも前にカッカッと軍靴を鳴らしながら王たちの前へと歩み寄った。
「シン、落ち着くんじゃ。密偵を放つのであれば、必ず起こりうることだ」
「そうです。起きて欲しくないことが、起きてしまったこと。王家の人間ならば、いかなることも想定して冷静でなければ」
親である国王夫妻に言われたシンは、「すみません」と声を漏らした。
「まあ。初めてこんな暗い報告受けるんだから、シンは仕方ないって。それより、帝国の内部の動きはどうなんですか?」第二王子サスティスが聞いた。
「帝国の、宮殿内は普段どうりに過ごしているらしいわ。政治もキュリーダ―卿が不在の間は、卿が事前に文章で指示を出していて、その指示どうりに内部は動いてるらしいの。宮殿内は穏やかに臣下たちが働いてると、私の臣下の女スパイの者たちが報告しています。本日来た帝国の人間たちも、出迎えた時のように、にこやかにして、部屋で今はくつろいでるとたった今、メイドたちから報告があったわ」
客人をもてなす役割を担っていた王妃が言う。
「だが、我々が忍ばせた、潜入者一人を殺めたということは、この一件で帝国は平静を装っていることは間違いない」
王、カルシスは小さい身長を伸ばしながらこの間にいる者たちに言った。
「それと、変な噂を聞いてな。帝国内で薬に使われる植物の売買で値段が高騰していると」
「それ、俺も聞いたけど、医療に対して使われてるんじゃないのか?」第一王子が答える。
「最初私もそう思ったんだが、どうも違うらしい。薬の効果は、使い方を間違えたら、使う人によっては毒になる。だから、毒殺とかにつかわれてるんじゃないかとな」王、カルシスは自分の推論を言った。
「あり得る話ね。沈黙の帝国がしそうなことだわ」と、王妃。
「俺も他の兵たちと話していたが、帝国貴族同士ですら解毒剤や毒になる植物を栽培してるらしい」
レイはシーラがユーデン国王と話している間、衛兵として他の兵たちの鍛錬場に行き、即決闘を行い、ここコンフォート国の衛兵たちの”兄貴”と呼ばれる地位となり、衛兵たちから聞いた情報を集める仕事を行っていたのだった。
「なに、栽培までしてるのか?」
「ああ、”血塗られた皇家”と、衛兵たちが裏で囁かれているからな」
「血塗られた皇家……」
「私はそう聞いたわよ」レイは衛兵の恰好をしたまま女口調で話した。
なんか響きからして、ほんとにヤバイ人たちを我が国、王宮内に招いちゃったんじゃないか?という雰囲気がここにいる一同に流れたとき、
「カルシス!ここに我が娘はいるか!?」
ユーデン国王が強い口調で王の間の扉から出てきたのである。カッカッと、高身長の人間らしく、長い足を足早に出しながら歩いて尋ねた。
「おまえ、どこにいたんじゃ?従者やメイドたちに探させたんだぞ。今日は、庭にいるとゆうといて、お前はいないし」
「ああ、すまない、カルシス。じつは、メイドの娘に、、、シーラに、バレてしまったんだ」本当に反省しているとでもいうように、うなだれて謝罪するシーラの父。
(ああ、ついにバレたんだ)
(無理もないわ。あんなに呼ばれてたんじゃあ)
(シーラが鈍感でも気づくもんだよな)
(コンフォート国に到着した時から、お嬢のことが心配で、すぐに移った塔周辺の草陰に隠れて見ていたものねエ。私が逆に、バレるんじゃないかとヒヤヒヤものだったけれど)
レイは王宮から引っ越したその時に、じーとこちらを見てる人影が、シーラの父である国王であることには気がついていたが、あとあとメンドクサイことになりそうだったので、ほっうといてたのだった。
それぞれ口には決して出さないが、ここにいる人間たちは国王の発言に、バレたことに対して驚かなかった。
「して、シーラ姫はどこにいるんじゃ?お前が見とるはずじゃろう?」
「それが、、、、」
麗しいと評判のユーデン国王は意気消沈で言葉を続けた。
「なぁにぃ!!王宮内を一人で歩かせたじゃと!!!!この大馬鹿もん!!!」
ユーデン国王の説明によると、シーラが出してきた条件とは、娘をこき使った代わりに、王宮内を一人で自由に歩かせるというものだった。
これには、「それで?お嬢はどこに行くとか言ってませんでしたか?」と、レイは王にきいた。
「三時間後には戻ると言ったんだが。そろそろ約束の時間なのだが、待ちきれなくて庭の近くを歩いてシーラが戻ってくるのを探してたんだよ。その時にちょうど、従者が、カルシスが呼んでいると言われてな。もしかすると、シーラもお前に呼び出されたのでは。と、思っていたのだが…来ていないのか」
王はうなだれ、イケメンオジさんとして、諸国の女性に評判の美貌が台無しになっていた。
「お嬢が、戻ってくると言って、戻ってこないとなると、………。ねえ、シン王子?たしか、交友関係を結ぶために連れてきた子供たちを、見守る場所があったわよね?」
「あ?ああ、あるが。それがどうした?」
王の間の周りは、大きな窓で囲まれており、入り口である場所以外からの盗聴は難しく、また周りは青い空が広がっている場所なので、王の間は王宮の広場、果ては王宮の外の民衆が暮らす市街地まで見渡せるのであった。
「それって、ここからでも見えるかしら?」
レイがそう言ったとき、シンはピンときた。
「子供の交流地は、、、あれだ!」シンは王宮の庭の隣にある広場を指さした。
「なるほどな。確かにシーラが行くならここだな」
「お嬢が、戻ると言ったからには約束守るはずなのに、来てないのは、何かあったときか、遊んでて忘れてたときよ!」
「………。」
「あ、いたぞ!あれじゃないのか?」
シュレイアが指さすと、水色のドレス姿の女性が子供たちに混じって何か、遊んでいる様子が上空から見られた。
王が従者を呼んで、望遠鏡という最近開発された装置を持ってくるよう言い、王のカルシスがよく見てみると、女は前髪を長くしており、ドレスの裾を、紐のようなもので結んでいた。ここ王宮でドレス姿で遊ぶ女の心当たりは一人しかいなかった。
「シーラだな」
「間違いない。シーラしかいないな」第一、第二王子は口々に喋った。
「はあ、迎えに行ってくる」
シンはため息をつくと、王の間から出ていった。
残された者たちは、なんとなく空気の流れを感じ取って「じゃあ、シンとシーラを待つ間、お茶にでもしましょうか」ということになった。
しかし、カルファトとユーデン国王は席をはずした。
「すまないが、ちょっと席をはずすよ」
「申し訳ございません。私もはずさせてもらいます」
そう言って、王の間から出て行ったのであった。
「あのふたり、なんだろう。なんか、カルファト、ユーデン国に行ったら、必ずシーラんとこの国王と話してるよな」
サスティスが兄のシュレイアに囁いた。
「あー、そうだなあ。けど、シンお付きの従者だから、どうせシンのことを報告してんじゃないのか?国王様は、娘のシーラの婿になるのにふさわしい男かどうかシンのこと気になるみたいだしなあ」
と、二人で囁き合っていた。
そんなことはつゆしらず、ユーデン国王とカルファトはカルシスから借りた一室で、「元気であったか?」と聞き、カルファトも「はい。国王様もお元気そうでよろしゅうございました」と最高の敬礼を表して膝を曲げ、左手を前に、胸に添えて挨拶をしていた。
国王はシンとカルシスに会っていて、そのちょうどその時カルファトは王妃の間にいたのであった。そのため、王の間で会ったのが、二人の久しぶりの再会であった。
「おまえは、やはり、コンフォート国にこのままいる決心は固いのか?」
「はい、あの日からもう12年。いまだ、わたしの願望は果たされておりません。私はその日まで、たとえコンフォート国に移っても、私はあなた方に忠誠を誓っております」
「そうか……。だが、無理はするなよ。亡くなった者が悲しむであろうからな」
国王は、静かに言った。
「……はい。心得ております」
「そなたも、またユーデン国にシン達ときた時には、遊びに来なさい。きっと、喜ぶことだ」
小さな部屋の、たった一つの窓からは夕日が優しく部屋へ明るく灯していたのだった。
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