7.世界





「あー気持ちいい!!ちょっと、したかったのよね。ここで普段着で出歩くの」

いまや王宮の中にはお客様でいっぱいなので、シーラ一人が王宮で歩いても誰もがどこかの王族だと思ってメイドたちは頭を下げるのだった。

しかも、王妃の間で採寸した、新調のドレスも昨日できあがっており、昨日王妃様専属のメイドたちから、ドレスが届いていたのをさっそく着ていた。

王宮内を前髪を伸ばして両目を隠したままシーラは歩いており、ちょっと邪魔な前髪以外は、この上なく気分がよく、上機嫌だった。

シーラは、ユーデン国王に、王とチェスをしているという名目上にして、シーラはその間にメイドの仕事から抜け出すことを国王に許可させたのであった。

「大丈夫よ、両目は隠して王宮内を歩くだけだし、いつもの気分転換よ。ここに来てからというもの、全然遊んでないんだもの」

「しかしなあ、大丈夫か?」

「大丈夫。三時間で戻ってくるから」

「はあ、お前は昔からじっとしてれないなあ」

「お父様、私がこういう性格だって知ってらしゃるでしょ?いい加減諦めてよ」

「できるなら、そうしてるわバカ娘。そういえば、おまえ、メイドの恰好のままで歩くのか?どこかの貴族から用事頼まれるんじゃないか?」

「そこは抜かりないわよ。コンフォート国王妃さまが、新調してくださったドレスが届いたから、近くの部屋までこっそり持ってきたから大丈夫よ」

そう言って、シーラは、チェス盤があった王宮の庭から出ると、事前に準備していたドレスをメイド専用の厠に使われている場所で着替えると、ドレス姿で回っていたのだった。

そして、さきほど父親が説明してくれた場所に、シーラはすっかり行きたくなっていたのだ。

今までにシーラは定例会議には出席したかったのだけれども、なぜか「定例会議は17歳以上の国王、もしくは宰相が行く規則があり、女王は行けません」と言われていた。

「そんなのおかしいくない?私は女性だけど、女性として出席している他国の臣下もいるんでしょ?なんで私だけ行っちゃいけないのよー!」

「危ない輩から、シーラ様を守るためです。これも我慢して、定例会議は女王の意思表明の文書だけ書かれてたらいいんですよ」

「同じ17のシンだって、初めて出席するっていうのに。ほかの仕事内容だけは、レイ、口酸っぱく細かく指示出してくるけど、定例会議も後で、やっぱり出席してくださいなんて、言わないわよね?」

「言いませんよ!」

と、いうこともユーデン国でレイと言い合っていた。


シーラは、自分の国の貴族と友達は多かったが、他国の友達はおらず、許嫁のシンとその家族だけしか知り合いがいなかったのである。

貴族の令嬢からは「いいな、シーラ様は。他国に行けて。私達、国外から出たことがないんですもの」とよく言われたものだ。だが、シーラだってそんなことは他の令嬢と変わりなかった。外やコンフォート国の王宮内を一人で歩こうとしても、必ずレイや、誰か従者、メイドをお付きとして傍に置かなければいけないのだ。

普段から勉強ばっかりなのに、毎日監視されたんじゃきついわ。

だから、シーラはこの子供のころから交流を深めさせるために連れてこられた、英才教育を受けているであろう、シーラと同じような立場の子供たちに大変興味があったのだ。

子供の声がするから、ここかしら?中はどうなってるのかしら?

シーラは、王宮の回路を歩き、門番がいる扉を潜り抜けて広場へと入って行った。

広場をみると、ただ砂一面の広い場所だったが、塀の角や中央など至る所に子供遊びの定番、子供の顔くらいの大きさの球体のボールが転がっており、そして仲が良いのであろう、2~3名で固まって話をしている子供の姿があった。子供たちは貴族の高価な上着は脱いで、服に土がついてしまう投げる球技をしていた。小さい子供は四角い、色がついた箱を積み重ねどこまで高く積み上げられるかの遊びをしており周囲を木で囲まれた場所が広がっていた。

だが、シーラが思っていたよりもここにいた子供の数は少なく、子供たちを見守るメイドも単独で遊んでいる子供も見守らないといけないためか、パラパラと散らばっていた。むしろ遊びまわる子供を、大人が見守る人数としては少なかった。

他には、テラスの陰でテーブルにポット等を置き、飲み物を飲みながら優雅に過ごす乳母か見守り役の貴族がみられた。

あー、やっぱり男の子ばっかりなのね。

広場にいたのは、どこを見渡しても男、男の子ばかりだ。

定例会議に出席する女性も、一人だけいる。というレイから聞いた話だから、シーラと同じ女性もいるのではないか、と淡い期待を勝手に抱いていたシーラは残念だった。

思い出すなあ、レイと遊んでいた時のころを。メイドたちも走ることはめったにしないから、レイだけ……私と庭であそんでくれたのは。

レイが走って鬼ごっこするもんだから、私はムキになって王宮内を駆け巡っていた。いつも木に登ったり、庭の噴水に潜っては水遊びをしてて、レイに怒られていた気がする。最近は勉強ばかりだからなー。

すると「おねーちゃん、その球とってー」近くの子供が横から言ってきた。

ん?

シーラが自分の足元をみると、なるほど、球がコロコロと転がっていたのであった。

シーラは、笑顔で答えて「はい、どうぞ。ねえ、私も参加させてくれないかしら?」

「え、おねーちゃんが?」球を取りに来た子が驚いた顔をしていると、後ろの方にいた、さっきまでこの球で遊んでいた子供たちの一人が、

「おーい、どうした。はやく遊ぼうぜー!」と、大声で声をかけてきた。

「あ、ああ。おーい、このお姉ちゃんが仲間に入れてくれってさあ」シーラの傍にいた男の子も負けじと大声で返事をする。

「え、仲間に??このおねーちゃんが?」

「なんだ、なんだ」

駆け寄ってきた子供の少年達は、続々とシーラの前に集まってきて、シーラをじろじろと見上げた。

「ねーちゃん入れても、僕たちについていけないって。たぶん難しいよ」

「うん、俺たち球の投げ飛ばしだから、おねーちゃんムリだよ」

仲間に、最初から受け入れられるのは難しいだろうと、シーラも最初から予想していたので、ここまでの子供たちの反応、返事は予想どうりだった。

だが、「大丈夫よ。まあ、みてなさい。あんたたち、球の投げ飛ばし合いしてるんでしょ?それ、私に貸して」シーラは子供たちに強気に言って、球を貸してほしいと頼んだ。

「え、これ?」

こどもの遊びの一つに、ボールのような球に、小さい穴が3か所開いており、その穴に指を入れ、球を投げ飛ばしてその距離を測る遊びがあった。これなら、あまり衣服を汚さずに済むスポーツで、貴族の子供達のよくある遊びの一つである。

シーラは、投げる場所地点に立つと、「行くわよー!おりゃああ!!!」と叫んで球を投げたのである。女性が、しかも、男口調で叫ぶ姿は見たことがなかった子供達だったが、興味がどんどん飛んでいく球の飛行に逸れていっていた。

シーラが投げた球は、大きく遊び場である上空を飛び、一気に赤の旗、ここの地点が最長距離だという目印として立てている旗の場所よりも、先へと転がっていったのである。

「うわ、すげーー!」

「しかもみろよ、記録更新だ!女の人なのに」

シーラが投げた球の飛行距離に、驚いては喋る貴族の子供達。

「どう?ドレスを紐で括り付けて、動きやすい恰好になったら、もっとすごい球飛ばしが見られるわよ?そんなスゴイ球、見たくない??」

こういえば、あとは簡単。

子供たちは眼を輝かせながら、

「「「みたい!!!」」」」

と、いうのであった。

これは、シーラが子供時代に男の貴族たちと、シン達の遊びに加わろうとして、実力で子供の遊びに参加しようと考えて考案した手段であった。

「行くわよー。ああ、そこの坊やはその線からはみ出てるわよ。ラインは踏まずにね」

「ほら、腕で投げてるわよ。肩で球を投げるのよ」

といっては、子供たちと混じって遊んでいたのであった。

そして、シーラが熱中して遊んでいると、前方の柱に立っている小さい男の子に気がついた。

あれ、どうしたんだろう?ずーとここ見てる気がするなあ、あの子。

シーラはそもそも子供好きであったため、疑問に思いながらも、気がついたら話しかけていた。

「おーい。どうしたの君。もしかして、一緒に遊びたいの?」

笑顔で話しかけると、一瞬ビクッとあとずさりするが、シーラはそれよりもまず驚いたのが、その子の顔だった。

切れ長の眼、すらっとした鼻立ち、黒髪のサラッサラな髪。どうみても、女の子にモテそうな顔立ちだった。年齢は12歳頃だろうか。

「な、なんでも……」

「キャー、君、可愛いね。すんごくモテるでしょ。初めて君みたいな子見たわ、お姉さん」ニコニコと、思っていることを全て口に出したシーラだっった。

「あ、さっき、何か言った?」

「何でもない」そっぽを向かれたが、そのしぐさもこの美少年には可愛い仕草にしか見えなかった。

「ねえ何みてたの?なにか面白いものでもあった?」

「別に…」

シーラはなんとなく、この少年が、誰かに似ていると感じていた。

前もあったような気がするわね、こんなやり取り。うーん、誰だったかしら。えーと。うーん??どこかすんごい近くにいたような……。

あーもう忘れてるわ。

「ねえ、君も遊びましょうよ。こっち来て来て」

シーラは長く考えるのも苦手なので放棄すると、男の子の手を引っ張て、仲間の子供たちに

「ねえ、新しく入れたい子がいるんだけど、いいかなー?」

「えーだれだよ。そいつ。見たことないなあ。なんかできんの?」

「まあ、まあ。ちょうど人数探してたんだし、二手に別れて追いかけっこ開始よ!!」

シーラ達は、球の投げ飛ばしから、次は追いかけっこをしていた。

「あ、あの、大丈夫でしょうか?ここにいる子供たちは、その、各国の重鎮の方の英才教育中の子供達なので、怪我でもされたら……」子供たちを見守るよう指示されているメイドたちである。

「大丈夫よ。こんなとこで転んだとしても、膝が擦りむくだけだろうし。みんなー、鬼動くわよー?陣地はここ間の敷地内!行くわよ!!」

メイドや他の国の若者たちが「どこのご令嬢かしら?すんごいパワフル」という声を尻目に、キャーと逃げ回る子供たちを、シーラは元気よくドレス姿で追いかけるのだった。

シーラはすぐに子供を捕まえたので早々と鬼役から逃げる側になっていた。そして、今は、木の木陰のうしろでひとときの休憩をしながら、鬼役の子供の動きを見ていた。

楽しー!追いかけられっるのってスリル満点ね!大人になってから全然追いかけっこしてなかったから、久しぶりだわ。こんなハラハラする……遊び……。

やっぱり、前もこんな感じあった?わたし、、、ううん、私が小さいころに、怖いものから追いかけられて、、捕まった、、、。

「シーラーーー!!」

「へ!きゃあああ!!」

シーラが驚いて木の陰の場所から一目散に逃げようとするが、誰かに腕を強く掴まれており、振りほどいて逃げることができなかった。振り返ると、すぐそばにはシーラのドレスの腕を掴んだまま

ぜー、ぜー、ぜー。と肩で呼吸をしながら腕や顔にびっしりと汗をかいている、走りこんできたシンがいた。

「シン、、。どうしたの?」

「お前がいないからみんなで心配してたら、窓から子供と庭で走り回ってたのを見たんだ。で、シーラ?」

「え、なに」

「前髪一度も短くしてないよな??」

シンはシーラの前髪を上へと掻き揚げながらシーラのデコを広げながら眼を見て言った。

「眼を見られたら一瞬で、ユーデン国の人間とばバレるぞ」

「う、うん。大丈夫よ。ずっと隠してたわよ」

そんなに気になることであろうか?最初シン達が言っていた定例会議中は警備が厳重になるということだったが、他の国の子供、青年たちもいずれ出席するであろうこの会議に来ているのだ。

いくら瞳を見られたら、誰か個人が特定されやすいとはいっても今日(こんにち)までシーラは言いつけどうり守ってきたのだった。

だから、シーラの教育係であるレイと同様に両目を気がけているシンが、シーラには不思議だった。

「なら、いいんだが。すぐに来い。ちょっと、良くないことが起きた」

「え、ちょっと待って。なに、何か起きたの??」

「ああ、だから、君も、早く来るんだ」

「わかったわ。けど、ごめんなさいシン。ちょっと待ってて。みんなにバイバイしてくるから」

「おい、シーラ!」

シーラは、シンのまだ言いたそうな言葉を振り切って、遊んでいる子供たちの集団へと走った。

だが、その集団の中に一人の男性がしゃがんで、混じっているのに気がついた。

「いまは遊ぶ時間ではありません。すぐに勉強部屋へと戻りましょう」

みると、白髭を生やした、男性は、いかにも身体を動かすことが得意そうなガッチリとした体格をしていた。そして、シーラが途中から遊びに参加させたあの黒髪の少年の両腕をガッチリと掴んで諭すような表情で話している。

「ねえ、おじさん、僕たち遊んでるから、夕方まで見逃してくんない?」

「そうだよ。こいつが抜けると追いかけっこの人数合わないんだよ。あと少しで遊びも終わるからさあ」

子供たちは中年の男性に仲間の一人が遊びから抜けないように説得を試みているようだった。

「何かあったの?」と、シーラはとりあえず声をかけたのだった。

「あ、おねーちゃん。おねーちゃんも言ってよ。まだ、遊びの途中だからって」

子供たちはそう口々に自分の思っていることを言うが、黒髪の少年を連れ戻し(?)に来た男性はシーラを冷ややかな瞳でみている。

う、板挟み状態、、。

「ご、ごめんねえ。じつは、お姉ちゃんも用事ができちゃって、、、」

そう言うと、「えーーーーーー!!」子供たちは合わせたかのように声をあげた。

「お姉ちゃんもかよー!2人も抜けるんじゃ、どうする?」

「うーん。はやくしないと夕暮れになっちまうぞ」

「そうよ。もう夕暮れになるんだから、今日は帰ってまた、明日、ここで遊べばいいじゃない。しかも早い時間から!そうすれば明日は長く遊べるわよ」

小さいころに散々メイドやレイたちから言われてきては騙された言葉をシーラは子供たちに言った。

「うーん、お姉ちゃんがそう言うなら、、」

そう言って、子供たち遊ぶのをやめて王宮内の、関係者たちであろう

人々が眺めながらおしゃべりしているテラスへと一人、二人とも戻っていった。

しかし、「やだ、あそこへは戻らない!」

「カイン!そんなこと言って、俺を困らせないでくれ」

「アークはどこか行ってるじゃないか。僕も外に出たいんだ」

アークと呼ばれた男性は、ほとほと困ったような顔をしていた。

どうしよう。シンが待ってるから私も急いで戻らないといけないけど、この子を誘ったのは私だし。

シーラは罪悪感から、この二人を放っておくことができなかった。

「きみ、カインって言うの?」

シーラは黒髪の少年に声をかけた。

「え、うん」

「カインはまだ遊び足りないってことよね?」

「うん、そうだよ」

「この方も困ってるし、遊びながら戻るのはどうかしら?」

「え?」しー「私ハイネと申しますの。カインが立って遊んでいる子供たちを見てたので誘ったのですわ」

「あなたか。見てて頂いて感謝します。だが、これ以上遊ばれるとこちらは困りまして、、。」

「あら、何も広場で球などをすることが遊びじゃないですわ。カイン、肩車してもらった事ある?」

「……ないけど…」

「じゃあ、肩車してもらいなさい。景色が変わるわよ??」

え?、え?という少年と男性二人に、てきぱきと指示を出すシーラに、二人は言われるがままになり、男性はしゃがんで、少年カインは男性アークの背中に乗る形になった。

「アークはそのまま立っていただけるかしら?」

「こうですか?」

そしてアークが立ち上がるとカインの身体はアークの頭上よりも高いところに位置することとなり、カインは「わ、すごい。たっかい!!」

アークの身長は白思ったよりも高く、レイと一緒の身長くらいの大きさだった。その身長の上の景色を見ているのだから、今まで見たことがない景色が広がっているのだろう、カインはと眼を輝かせて足をブンブン振った。

これで大丈夫だろう。アークの言うとうりに部屋へと戻ってくれるはずである。

「肩車楽しいでしょ?楽しみながら行くといいわ」

シーラがそう言うと、アークは、

「すみません、助かりました」とお礼を述べて頭を下げた。

「いーえ」と言いながら、ホントは私が遊びに誘ったんで。という言葉はシーラはあえて言わなかった。

「おねーちゃん。……バイバイ」

少年は照れたように顔をそらしながら言った。

うん、可愛いからいいわよ。

「じゃあね、わたしも行かなきゃ!」

お互いに手を振りながらシーラは木の陰で待っているシンの方へと走って行った。

「おまたせー。ごめんなさい、遅れてしまって」

「ああ。シーラ、あそこにいる男性と少年は?」

「え?」シーラは後ろを振り返ると、まだあの二人は肩車をしたままこちらの方を見ていた。

「ああ、バイバーイ」と最後に大きく手を振って、シーラは歩きながらシンに「遊びたがっていた子供と保護者よ」と説明した。

「そうか…」とシンは考え込みながら早歩きで王宮の回路を二人で歩いていた。”?””と思ったシーラだったが、あ、そうか。あの少年、小さいころのシンに似てるんだわ!あの、遠くから遊んでるところを見てる姿と話し方が昔のシンそっくり。だから、懐かしくて思い出したのねー。シーラも考えてたことがすっかり思い出されてスッキリだった。

だが、それ以上に重要な記憶までシーラは思い出そうとせず、シンと一緒に王宮の、王妃の間へと急いだ。



シンが出ていってしばらくすると、従者が「シン様が帰ってこられました」と、言ってシン、シーラが王の間へと入ってきた。

「シーラ!探したんだぞ」ユーデン国王は急いでシーラの下へと駆け寄ると娘に強く言った。

「ごめんなさい」シーラは素直に謝った。

「とりあえず、事情を知る人は集まったのだから、すぐに作戦変更をしましょう」

王、カルシスが言った。

「そういえば、まだシンから聞いていないのですけど、なんです?悪い知らせって?」シーラは尋ねた。

そして、シーラはカルシスから教えられたのだった。帝国に潜入した者が殺されたこと、お互いに情報戦をしていることがバレた今、必ず帝国も何かしらのことをしてくるということ。そしてー。

「シーラ、やはり君を作戦からは外すことにした」

これにはシーラも、「はい……」と言うしかなかった。

自分が狙われているのであれば何としてでも自分も手伝い、この帝国の動きの謎を突き止めたかったが、人が死んだ出来事も起こった以上、これ以上自分の主張も通らないだろうし、難しいと思えたのだった。

シーラも納得しての返事に、「それじゃあ、改めて決めていくぞ。」

定例会議中のは情報収集がメインだったが、それでも確たる証拠、シーラを狙っているのだはないかと言う証拠が集まらないときー、各自のパーティの作戦の役割分担はこうだった。

シンとレイがキュリーダ卿の部屋へと出向き、パーティで不在のキュリーダ卿の部屋でシーラの調査に関する確たる証拠品を捜すこと。

コンフォート国、ユーデン国の王達は、キュリーダ卿の注意を定例会議、定例会議後のパーティーで話しかけて相手の注意をひく役割。

第一王子シュレイアと第二王子サスティスは、パーティーを盛り上げて、帝国関係者に近づき、酒をジャンジャン飲ませて酔い潰させて、パーティ出席者たち全員にシン王子がいないことを悟らせない様にすること。

そして、シーラはただメイドとして、そしてその見張りとしてカルファトの傍でパーティに参加するというものだった。

だが、シーラは何らかのことも含んでいるような気がした。

私のことを帝国が調べ上げてるのはわかってたけれど、みんながここまで積極的に私を守ろうとするのはなぜかしら?

最初は、わたしがシンの許嫁で、昔から親しくしている国の人間だからとおもっていたのだけれど、、、、ここまでみんなが警戒するのは何か理由がある?

そう思ったシーラは、「ねえ、私のことをみんな心配してくれるのは、とってもありがたいんだけれども、王族の人って、ほかの人間から狙われやすいじゃない?ほら、盗賊、暗殺者とか」

((!))

シーラは続けて言った。「だから、わたしのこと以外ににもシンとか他の王族に飛び火しないか心配なんだけれど」

なんか、わたし、変なこと言ったかしら?みんなの眼の色が変わったように、真剣に聞いているような……。

シュレイアが「シーラ、そんなことは既に王宮周りに衛兵たちが周囲に張り巡らせてるから、大丈夫だよ。そんな輩が侵入する隙はない。だが、帝国は暗殺などをする人間たちだ。今回、俺たちが警戒しなきゃいけないのは定例会議の出席者たちなんだ」と、説明した。

「そう、そうよね」シーラはそう答えた。

「じゃあ、パーティはシンとレイ以外は、お互いに存在を確認し合おうな。まあ、俺らはいつも目立ってるんだけど」サスティスも答えた。

シュレイアとサスティスは、本来、楽しいことが大好きでパーティも毎回名物と言われるぐらいに騒ぐのだが、今回は弟の許嫁を守るための作戦ということから、「頑張って騒ぐぜえ」と意気込んでおり、父のカルシスからは「お前らは目立ち過ぎじゃ」と注意されて、「確かにな。ハハハハ」とみんなの笑いを誘っていた。

シーラはそんな彼らを見て、「いいなあ」と呟くのだった。

「それでは、もう決めることは無いな?では、解散かの」と王カルシスが言った。

それを聞いて、シーラは椅子から立ち上がりみんなと同じように退席しようとすると、「貴方たちは、まだよ」と、王妃様からのお声がかかった。

結局、ユーデン国王とシーラは、正座のままコンフォート国王と、王妃にそれぞれ父娘でこってりと、お叱りを受けるのだった。



その後、シーラと国王はお叱りを受けた後は、それぞれの部屋へと戻るために王宮の回路の中を歩いていた。シーラは、ユーデン国王とは違って、ドレス姿で王宮から離れた場所に戻るため、遊びで汚れたドレスを脱いでメイド姿に着替えた。そして、待機していた衛兵姿のレイに付き添われる形で自分たちの部屋の塔へと案内役のシンと国王達とは別の通路で帰ろうとしたとき、シーラは思い出した。

「あ、そういえば、お父様。私がメイドしてるって、言ったのはシン?レイ?今いる二人のどちらよ??」

シーラは忘れていなかった。

「う、そんなこと気にしておったのか?」

「そんなことじゃまいわよ。なんで親子でメイドごっこしなきゃいけないのよ。気持ち悪かったのよ、ずっと!」

ガ――――ン。

親子のコミュニケーション、親子水入らずと思っていたのに、娘はそんなことを、嫌がっていたのかと、国王はショックを隠し切れなかった。というか、もろに表情に出ていた。

「ちょっと、お父様、聞いてます?で、だれなの?」

ショックの国王は、もう何も考えられずにシンを「ん」と、指さした。

それからは、シンは避難轟轟(ひなんごうごう)だった。

シーラからは「なんで教えるのよ」と言われ、シーラに対して「父親には自分の子供が滞在している場所やどう過ごしているか隠せないだろうが。それに、もうこれに懲りて、国王もシーラを呼ばないだろうし……」とシーラに付け加えて言ってしまったのがいけなかった。

今度はシーラの父であるユーデン国王からは「どうしてそれぞれの国では業務分担のために国専属メイドを設けるのに、シーラは国王の専属、ダメなんだい?」と板挟みを食らうのだった。

無事、レイたちと別れ、ユーデン国王を部屋へと案内したあと、自分の部屋へと戻ったシンは、部屋で待機していたカルファトとに、”もう勘弁してくれ、あの親子”とシンは小さく呟き、肩をポンとされながら「ドンマイ」と同情された。




シーラは翌朝、早朝から塔の周辺を散歩していた。気分転換として塔周辺を散歩していれば気もまぎれるだろう。とシーラは考えたのである。

昨日は王妃様のお叱りがあったが、メイドとしては罰としてそのまま働くように言われていたのだ。

シーラにとって、メイドとして連続出勤で、働くことは初めての体験であり、思った以上の重労働に疲れが溜まっていたのだった。だから、シーラはこの日、ドレス姿の普段着で塔周辺を散歩していたのだった。

シーラ達がいる塔の周辺には、大きな木がいくつか植えられており、木の間からこぼれる日差しを浴びるのに心地よかった。そして、塔の存在を隠すかのように植えられていて、シーラが普段着、ドレス姿で歩いても周囲の目を気にしなくてよかった。

そういう理由から、カルシス、王妃はシーラ達の滞在中の場所としてここ、塔をえらんだのだ。それもあって、シーラは、すっかりここが気に入っていた。

また、塔の裏の木々の下には、最初ここの塔を訪れた際に遠くから見たとうり、赤い花々が植えられており、シーラはそこに座り、草花を見たり、空を見ることが好きだった。

いつものように、その草花の場所を目指して歩いていると、一人の少年が丁度草花の前にしゃがんでジーと見ていた。

あれ、あの子って、たしか……!

「ねーー、昨日の子よね!」

「わ、お前、きのうの!!」

黒髪の少年は、振り向いてシーラの顔をみると驚いた表情をしていた。

「あ、やっぱりー。カイン君でしょ?」

「あ、ああ。お前もなんでここに?」

「あのね、私の名前はシーって、じゃない、じゃない。ハイネよ。お前じゃないわ」

危ない、危ない。シーラって、本名言おうとしたわ。けど、ほんとにシンの子供のころにそっくりね。この子。

「そうか。昨日は世話になったな」

「?どういたしまして。カインて、大人っぽいこというのね。」

「あ、ああ.。よく言われるな。多分、僕の両親が早くで亡くしたせいなんだろうな」

「……そうなのね。まあ、昔は孤児も多かったていうし、私は生まれた時から母親がいないんだけどね」

「そうなのか?小さいころ、寂しくなかったか?」

「え?いや、レイっていう、母親代わりになっていた人もいたし、寂しい時もあったけど、なんだかんだ元気に暮らしてたわね」

「そうか…」カインはまた、俯いて草花の下へと眼を向けていた。

う、深刻な家庭の事情ってやつかしら?シーラは話を変えることにした。

「それで?何見てたの?」

シーラが来る前にカインは土のほうを見ていたのだ。

シーラが聞いてみると

「これ」と指さすものの先には、細長いくねくねしたものが土に潜ろうとしていた姿があった。ミミズであった。

「ああ、ミミズ初めて見るの?これはね、ミミズって言うのよ」

「ふーん。変な生き物だな。初めて見たぞ」

男の子は興味津々でジーとみていた。

「ミミズはね、眼は見えないのに土のいい肥やしになるから、農民にはありがたい存在としているのよ」

シーラはお姉さんになった気持ちで男の子に説明していた。

小さいころは昆虫とか捕まえに、レイとシンと一緒に森で遊んでたし。まあ、王宮に捕まえた虫を持ってきたらパニックになるからと、後で放すように言われてたんだけど。

「こいつらも健気に生きてるのだな」

「そうねえ」

「目が見えないまま、暮らすというのは、どんな気分なんだろうな」

「そうねえ、うーん。考えたことないわねえ」

「だって、ハイネが言うとうり、目が見えないのであれば、ここはどんな土で、どんな世界が広がっているのだろうと思っても、見えないんだろう?そんな生き方は逆に知らなくていいのかもな。目が見える、そのことだけで、嫌なことばかりだ」

………。何か嫌なことがあったんだろうな。でなければ、この、小さき少年がこんな大人びいた言葉を言うはずがない。

「嫌なことって、何かあったの?」

「え?ああ。今まで外にいなくていつも勉強だけしてたから」

そっか。貴族の子供でも森で狩りとかするけど、カインはそんなことは無かったと言いたいのだ。シーラが考えた時だった。

「カイン様。どこにいらっしゃいますか。朝食の準備ができましたよー」と声が聞こえてきた。

男の子は「あ、、」と声を発して声がするほうへと顔を向けていた。だが、”朝食”という言葉に釣られて反応したのか、カインのお腹から「ぐーーー」とお腹の音が聞こえてきたのである。

この子を探してるんだわ。もしかして、昨日アーク、って呼ばれてたひとかしら?

「アークさーん。ここでーす!」

シーラが大声をあげた。

「……ばらすなよ」カインはいささか不機嫌そうだった。

「それじゃあ、朝食抜きで過ごすことになるわよ。だから、今は素直に見つけられたほうがいいのよ」そう言いながらシーラは前髪で両目を隠した。

シーラとカインが腕をつつき合ってしゃべっていると、木々の茂みから、身長の高い、一人の男性が現れた。やはり、アークだ。

「ああ、ここにいましたか。探しましたよ、カイン様。あ、それと、昨日の………」

なんだろう?

アークは、自分の顔を見るなり、眼を見開き、驚いた表情をしている。

「あの……?どうも、昨日お世話になりました」

「あ、ああ。すみません。昨日の、広場でお会いした方ですよね?すみません、王宮から離れている場所に人がいるとは思わなくて。しかも、昨日、お会いしたどこかコンフォート国のご令嬢だと思っていた、貴方が出てきたので……」

「ああ、それで。」

良かった。ここで会った時の服装がメイド姿じゃなくて。笑顔を造りながらシーラはそう思った。

「てころで、カイン様、早く戻りましょうか。朝食が冷めてしまいますよ」

「そうですね、私もお腹すいてきちゃったわ。ごはん食べなきゃ」

シーラがカインをアークの手へと行かせた時だった。

「そうですね、あなたも、早く戻ったほうがいい。選定者としても」

「え……?」

選定者?どこかで聞いたような言葉である。

「あ、それって、どういう意味なんですか?」

シーラはアークに、その言葉の意味を聞き返そうと、手を伸ばして聞いてみたがアークは、高身長を生かして、すでに茂みの奥へと、カインと手をつないだまま姿を消したのであった。



「じゃ、お迎えが来たみたいだから、またね。また今度は、ほかの草花とか、虫のこと教えてあげるね」

「……変な女だな。虫を怖がらないなんて」

「まあ、野外で寝泊まりしたことあるからね」先ほどの言葉にグサッときながらシーラは答えた。

おもむろに男の子は草花の前にしゃがむと一つの花をちぎってシーラにズイッと渡した。

「やる。褒美をつかわす」男の子が言い終わった直後にほっぺたをムギイーつねっていた。

男の子は頭を両手をブンブン振り回しながら、「何をするのだ!」と抗議するが、

「花をちぎっちゃダメでしょう!!せっかく一生懸命咲いてるんだから」シーラは注意するが、ふと、表情を戻すと「けど、ありがと。」とほほ笑んだ。

男の子は頬を染めながらシーラをじーと見ていたがふん。と言うと、「またな。今度は遊ぼう」と言うと森の奥へ、声が聞こえたほうへと走っていった。

かわいーじゃない。小さくても男ね。

そう思いながら、プレゼントされた花を持ちながら仕事開始時間に遅れないように来た道を戻っていた。



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