9,パーティ
とうとう明日で定例会議5日の最終日である。
シーラはこの国での生活にもすっかり慣れ、これまで何回も議論を重ねてきたことが明日、明後日で決まることが感慨深かった。会議もシーラは王位継承者として、まだ参加したことはないのだから、いずれ王位を継いだ時に明日の日が役に立つのだろう。そう思ったシーラだった。
そして、シーラはなぜか王妃に呼び出されていた。
そのとき、茂みの中でガサッと草木が揺れた。茂みはあまり高くはなかったため、眼が暗闇になれるとすぐに顔が見えてきた。
「俺だ」
「シン!」
シーラの眼の先には、茂みに立っているシンの姿が見えたのである。
「驚かせてすまないな。」
「ううん。大丈夫よ。あ、こっち座る?」
先ほどまで座っていたシーラの隣へと場所を勧めた。
「あ、ああ。すまないな」
シンがシーラと一緒に座り、先ほどまでとは違った空気にシーラはようやく気がついた。
ちょっと待て。幼馴染だから自然に隣勧めたけど、夜に二人っきりって、なんか恋人みたいじゃん……いや、実際に婚約する予定なんだけど!けど、王族だからお付き合いなんてしたことなんてないし!え、なに。星空見ながら何を話すればいいのかしら?
シーラが頭の中で一人キャーキャーと悩んでいると、シンから声をかけてきた。
「なあ、シーラ。明日の作戦のことなんだけど」
ドキッとしながらも、私は明日のことについて話に来たと思ってみなかったので「はい?」と間抜けな返事をしてしまった。
「ああ、ああ、あれね。」
シーラは顔を赤くしながら「私はメイドとして、パーティー中にお酒で酔っている人を介抱する。そして、シン達は、帝国の宰相のあてがわれた部屋に忍び込んで、その中から証拠を探す作戦でしょ?」
「そう。我が国に来た各国の臣下が、怪我でもしたら大変だから会場周りの護衛で守らなくちゃいけない。その分部屋が手薄になる。キュリーダ卿も、会議中はこの国で密偵から報告を受けるしかないからな」
みんなと別行動で寂しいけど、危ないことだから私はサポート役。けど、シン達だって大変なんだし。
シーラは気力で笑顔になると、「頑張ってね!応援してるんだから。何かあったら私が介抱してあげるわよ」
シンは照れ臭そうにしてたが、
「ああ、頑張ってくるよ」
と言うと、シーラの手に自分の手を添えてきて、シーラはドキッとした。
いつからだろう。幼馴染で頼りがいのないと思っていたのに、最近はシンから緊張した空気がつたわる。私がぐいぐい引っ張っていた小さいころよりも、体格が大きくなぅてからは自分よりも大胆な行動に出ている気がするとシーラは思った。
シーラの慌てふためく顔を見ながら、シンはクスと笑って「冷えてきたな」っと、立ち上がった。
「もう寝る時間だろ?部屋まで送るよ」と言って、シーラに手を差し出してきた。
悔しいけど、いい男になったなと思う。それと逆に、いつまでも素敵な女性らしくない自分で、婚約者として傍にいていいのかと脳裏によぎった。
しかし、思いを振り切って、シンの手を取って立ち上がりながら思いを悟られないようシンに笑顔を向けて一緒に歩き出したのだった。
その風景を塔の高いところから眺めている影が2つー。
「まだまだヒヨッコだなー」とレイは焼き菓子片手に口をモグモグさせながら望遠鏡で先ほどまでの様子を眺めていた。
「そうですねー」とカルファト。
こちらも望遠鏡を持ちながら、お茶をズズッと飲んでいた。
二人して焼き菓子を食べながら、のんびりとそれぞれの主の青春を見守っていたのだった。
そして、定例会議も無事に終わり、課題も残っている議論はあるが、これにて終了となった。
5日間の議論後は、各国の親睦を高めるためにもパーティーが開催されるのだが、楽器の生演奏に合わせて、ダンスを披露する者や、歌が自慢であれば酒の勢いで歌いだす者、開催国にあたっては自分の国の料理をひろうする大事な局面であり、現に過去に、料理や便利なものを見た国は直接その場で交渉を行い、貿易収入が増えた国も多くあった。
なので、定例会議の会議は法令をまとめる場であれば、このパーティーは各国の自慢の物特や特技を披露して今後の交流に発展させる場とも言えた。
そのため、その会場は自然と開催国の威厳を披露するために、これでもかと豪華絢爛となることが常であった。天井には定例会議に合わせて新調、特注して間に合わせた大きいシャンデリア、ダンス広場近くの階段には使用人たちが磨き上げたであろう金細工がまばゆいほどに煌めいていた。
床は、深紅で、端にはセンス良くゴールドの淵があしらわれており、センスを感じさせるものだった。そして、当然、食事もごうかそのものであり、弱小国家とはいえ、王族として豪華な食べ物は食べ慣れているはずとのシーラでも、珍しい他国の料理に”美味しそう!”と思わずにはいられなかった。
そしてシーラは、このパーティーに、計画されてたとうり、メイドの一人として参加していた。今回も前髪で眼は隠せるようにしていた。メイドとして酔っ払いの介抱して別の休息部屋に休ませたりとここでも忙しく働いていたと同時に、帝国宰相のキュリーダ卿の周りで動いている怪しい人物はいないかと注意して見ていたりするのだが、未だ怪しい気配が見られなかった。
寧ろ、酔っ払いが多く、介抱の仕事をするが、密書や自分のことについてやユーデン国について関連したものを持っている人物はいなかった。
「お嬢、メイド業は順調?間違っても、つまみ食いはダメよ」
シーラがの準備をしているときに、衛兵として恰好を来たレイがシーラに囁いた。
「きゃ、レイ、急に話しかけてこないでよ。いくらなんでも、私はそんなことしないわよ」
「あら、ごめんなさい。お嬢が、出されている御馳走を目の前にして、食べているか重鎮幹部を羨ましそうに見ていたもんだから」
「うう」
レイ、さっきの私の顔見てて、声かけてきたわね?この確信犯!
レイとシーラの会話は続いた。衛兵とメイド姿の会話は、どこの国でも頻繁にみられる光景であり、また、兵とメイドが実は恋仲だった、という話もよくきかれた。そのため、しーらたちは束の間のあいだ、言いたいことをパーティ会場の裏側で、喋っていた。
「ねえ、レイ。定例会議後は、いつもこんな感じなの?みんな酔いつぶれながら踊ったりしてるだけじゃない。これのどこが交流を深めんのよ?」
「私も詳しくないけど、こんなもんらしいわよ?まあ、やるべき会議はしてますし、いいんじゃないの?どっかのところでは、会議そっちのけで連日ダンスパーティーしてたらしいから」
「それは……ひどいわね」
「でしょ?しかも”会議は踊る”なんて、後から庶民に言われて揶揄したらしいし。そんな会議に比べたら、マシかもよ?」
うーん、レイの言う言葉って、やっぱり言葉の重みというか、どうしても納得しちゃうわね。年の功って、感じかしら。
「じゃあね、お嬢。私たちはもう少しで作戦決行するから、大人しくここでまってるのよ?」
と言って、どこかへ行ってしまった。
私は、レイの他に、メイドとしての仕事に専念することにして、あっという間に時間が過ぎていった。
コンフォート国の3人王子たちは、パーティの最初こそは貴族の娘たちに、きゃーきゃー言われていたが、途中、シンだけがパーテイ会場から見当たらず、いつも衛兵として立っていたレイも、会場から見当たらなかった。
キュリーダ―卿は、他の国の大臣やら、父である国王、それとカルシス様と一緒にお酒を飲んでいる。あの辺一帯は計画どうりらしかった。
そして、コンフォート国第一・第二王子は、、というと、、、
「うーん、もう飲めない~」
「おー、兄上、頑張れーーー、騒ぎ倒さないとレイに怒られるぜー」
と言いながら、第二王子サスティスもすでに眼が虚ろ。足は千鳥足だ。
どうやら、会場を盛り立てようと頑張って、自分たちの限界のお酒をこの二人は浴びたらしい。すでに王子ではなく、ただの酔っぱらいだ。
シーラは、使い物にならなくなった王子二人を救護室へと、運んだ。そして、他にすることはないかと、パーティー会場を見渡しているときだった。
すると、カルファトがどこからかやって来て、「今、キュリーダ卿の部屋へ行きましたから、ここでお待ちいただくようお願い致します」
カルファトはどうやら、私がどこかへ行くのではないかと、先制しているようだ。
「わかってますよ。ここで大人しくお仕事がんばりますわよ」
シーラが言いかけた時だった。パーティー会場の端の、景色を見渡せるテラスのほうに、少年が俯いて立っていた。
他の子供たちはお酒の場ということもあって、さすがにパーティーにまで連れてくる国はいなかった。だが、こんなところに、子供がいるということは、迷子か、誰かをまっているのだろう。
そう思ったシーラだったが、よく見ると立っている子供は、なんとなく、元気がなさそうである。
「気分悪そうな人、発ー見!お仕事行ってくるわね」とカルファトに告げた。
「遠くへは行かないようお願いしますね」とカルファトから言われながら、シーラはその少年の元へ駆けていった。
「カーイン。どうしたの。そんたところで」
「うわ、誰だお前。余はお前なんか知らないぞ」
そういえば、塔ではメイドの恰好をしていなかった。
いままで会ってきたのは、いつもドレス姿だ。
「私よ、ハイネよ。今朝も会ったでしょ?ここで、なにしてるの?」
そう言うと、
「なんだ、おまえか。べ、別に何でもない」一瞬驚くも、カインはシーラとは別の方向へとそっぽを向いてしまった。
そのとき、カインの服が汚れていることに気がついた。大方、服を汚して、パーテイに来ているであろう親に、怒られるのがイヤで隠れているというところだろうか。
「こぼしちゃったの?服の汚れは早く落とさないと余計怒られるのよ。汚れがバレないようにしてあげるから、お姉さんに任せなさい」
シーラはそう言うが、カインは服を洗うことに渋った様子だった。だが、シーラはそんなことに気がつかない様子で、カインの手を引いて酔っ払いが多くいる場所を潜り抜けて、隣の小さい部屋へと案内した。
「ここはお酒とかドレスなんかについたときにすぐ落とせるよう洗濯するんだけど、、、あ、あった、あった」
多くのガラス瓶の中から、シーラは一つのガラス瓶を取り出してきた。中にはサラサラとした白い粉であった。
「これが、その君についてる服の汚れを落とすのにちょうどいいわ。さあ、その服脱いで頂戴」
ポカーンとしていたカインだったが、ここでシーラの言葉を聞いてビクッと驚き、「いやだ。僕は脱がんぞ」という反抗の言葉も虚しく、スポーーンとカインのブラウスはシーラによって脱がされ、染み抜きされたのであった。
「少し時間置いたら取れるから、それまでその服で我慢してね」
シーラは、カインの服を洗っている間、別の服をカインに着てもらっていた。
「この服はチクチクして嫌だ。部屋にある服がいい。」
うーん、お金持ちの子供ねえ。着ている服も、首にかけてあったペンダントも綺麗だったし、小さい子が持つには豪華な物だし。
カインのブラウスを脱がした際に、カインの首からは王冠とドラゴンのような絵のペンダントが首からかけられていたのだった。
「じゃあ、その服取りに行ったら?」
「一人で出歩いてはダメと言われてる……」
王宮内とはいえ、広いし迷子になる子供は多かった。昔、シーラが小さいころシン達と交流の一環でコンフォート国を訪れた時は毎回必ず一回はシーラも迷子になりかけた。そして、必ずどこからかレイが助けに来るのが常だった。
確かに、子供一人が歩くのは危険ね。
「わかったわ、私も一緒について行ってあげるから」
「ほんとか。会場から遠くないんだ。」
カインは明るい声で言うとシーラの手を引っ張り、元気に駆け出したのでシーラも後を追って出たのだった。
カインとシーラは王国内の回路を歩いていた。ふと、シーラは、まだこのカインのフルネームを聞いていないことに気がついた。
「ねえ、そういえば、名前なんて言うの?」
「僕の名前か?言ったであろう?」
「違うわよ、フルネームよ。どこの国の子供かなと思って」
「名前は、カインリッヒ・ステイン・ディ・ダイランだ。」
「へー、長いわね」
ニコニコしながら聞いていたシーラだったが、名前の中に何やら引っかかるフレーズが耳に入ったような気がした。
「え、ちょっと、待って。もう一回言って」
「カインリッヒ・ステイン・ディ・ダイランだ。ハイネぐらいなもんだぞ、気軽に名前呼ばせているのは」
ちょっと待って。ダイランって、帝国ゆかりの子じゃないのーーーーーーーー
!!!
シーラが顔を強張らせていると、「あっちの部屋だ」と、カインは見つけた部屋に向かって一直線に走り出した。
やばい、この子が言っていることが本当なら、今はシンやレイたちが部屋に忍び込んでるはず!!
「ちょっと、待って!!入らないで!!」
シーラはすぐに止めようとしたが、すでにカインは部屋のドアを開けており、中へ入ろうとしたときだった。廊下の明かりでは部屋の奥までは照らし出していなかったが、それでも扉のすぐそばで立っている人物は、シーラにとって心当たりある人物だった。
「レイ、やめて!!その子はダメ!!」
必死にシーラが走りながら叫んでいた。
レイは一瞬出てきたシーラに驚いた表情をしたかと思うと、部屋へ入ってきたカインの服の襟をヒョイっと、持ちあげた。母猫が子猫を持つ動作によく似ていて、「な、なんだお前は!無礼であるぞ、おろせー」
カインは急に上から持ち上げられたことに驚き、脚をジタバタと暴れていた。そして、潜んでいたのか、部屋の奥の物陰からシンも「シーラ!!」と剣を鞘に納めながら驚いて出てきたのだった。
とりあえずシーラはレイに言って、カインを宙から降ろしてもらったが、それでもレイはカインの首根っこを離さないでおり、カインが離れようと、手や足を駆使してほどこうとしていたが、、成人男性、レイの筋力に適うはずもなく、そのまま暴れている状態となった。
「どーしてお嬢がここにいるのかしらー?」
「そ、それは、この子の服が汚れたから、代わりの服を一緒に取りに来たのよ。そしたら、この子,どうやら帝国に関わる子供みたいで……」
怒り心頭のレイにビクビクしながらも、恐る恐る答えたシーラだったが、レイは納得できなかったようだった。
「どーすんのよお嬢!この子に顔見られちゃってるじゃない私たち!!」
「知らなかったのよ、まさか向かった部屋が帝国の、しかもキュリーダ卿の部屋だなんて!!」
「おい、シーラ。この子、もしかしてキュリーダ卿の子なんじゃないか?」
慌てふためく二人をよそに、カインを見てシンがぼそっと呟いた。その言葉に二人はさらに顔色を真っ青にして
「いやーーお嬢!!まだ部屋を調べてる途中なのよーー!?」
「連れてきちゃったもんは、しょうがないでしょーーーー!?」
シーラとレイが言い合っていると、落ち着いてきたのかカインが
「お前ら、なぜここの部屋にいる?この部屋の護衛の兵はどこ行ったのだ」
カインが幼い子供とは思えないような、大人びた口調で言うが、命を狙っているかもしれない国の子供に、部屋の見張りの兵は、レイが後ろから殴って眠らせました。なんて答えられるはずもなかった。
そのときだった。
「その辺で終わらせていただきましょうか」
扉からバンっと勢いよく開き、そこには今朝も出会ったアークが剣の先を向けて、側近の部下であろう二人の兵が弓を構えて入ってきたのだった。
部屋の中は張り詰めた空気になり、どちらかが言葉を発するだけで一触即発の状態だった。
「まさかこんなバカげたことをするとは驚きましたよ第三王子。いえ、シン王子」
シンは何も言わず、ただアークのするどい眼光をそらさず直視していた。
「そちらのお方を放して頂きたい。こちらも、急にいなくなられて、さがしましたよ。」
シンに目線を離さず、レイが掴んで離さなかったカインのことをアークは言い放った。
「いやだ。戻らないぞ。こいつらも嫌だけど、アークも僕に嫌なことさせるからいやだ。」
カインはさらに続けて大声で言った。
「このお姉ちゃんと遊んでいたいんだ。もう勉強勉強で疲れた!政治のことなら、アークがやればいいんだ!!」
「このお姉ちゃんということは……、そこのメイドの恰好しているのは、ハイネ様かな?」
「そうだ!!お姉ちゃんと森で遊ぶ約束がまだあるんだ、帰るなんて嫌だ」
カインは威勢よく言い放っているが、それとは対照的にシーラの顔はますます青ざめていく。
ああー。そういえば、塔ではメイドの恰好もせずに毎朝カインとアークと話してたわ。やめて、レイ。そんな非難めいた顔向けないで。
「………。やはりな。おかげでようやくわかりましたぞ。そこにいるメイドは、前髪で瞳を隠しているが、緑の瞳のユーデン国のシーラ王女ですな」
「どうして……。」
どうして知っているのだろうこの男は。私の瞳が緑色だと。
「貴方様は知らないのか。ユーデン国王家に代々継承される瞳だからですよ。その緑色の瞳はこの世界に一人だけ。そして、この世界の選定者の証ですからね」
アークの言っている意味が分からない。また、選定者って、言ったわねこの人。何のことだかわかんないから、気になって聞いたりもしてるのに。
確かにレイやユーデンのお父様から人目では隠せと仰るけど……
「ちょっと、待ってよ、アーク。また訳の分からないこと言ってるけどね、そもそもその物騒な剣をとりあえずしまってよ。」
「それはできないことだと思うぞ、シーラ」
「シン、だって、アークは、カインの付き人で…」
「ちがう、シーラ。アークこそが、本当のキュリーダ―卿だったんだ。パーティー会場にいるキュリーダ―卿は偽物だ」
((!!))
「どこで、わかりました?シン王子」
「定例会議中に、あなたの分身ともいえるキュリーダ―卿に私は声をかけてたんですよ。”緑色の瞳の、お探ししている者は見つかりましたか?”とね。だが、キュリーダ―卿は、その言葉をよく理解していないようだったので、私はおかしいと思った。選定者であるシーラを狙っているのであれば、必ずこの緑色の瞳という言葉に反応するはずだ。だが、キュリーダ―卿は、その反応がなかった」
「……」
「いま、パーティー会場にいるキュリーダ―卿は、われわれ、他の国に対して鋭い眼光で、人から感づかれない様にうまくごまかしているが、私達も視点を変えて調べたら、私達も貴方のことがとても詳しくわかってしまったんです。そして、私があなた方帝国を出迎えた後の、鋭い視線は、、、、あなただったんですね、アーク」
「なるほどな。シン王子、さすがだ。選定者である前女王の死の葬式にも出席して、長年付き添ってきただけのことはある。鋭いですな」
「それ以上余計なことをおっしゃることはやめていただきたい。ご自身の心配もしたらどうです。ここいる少年、いえ、このお方こそダイラン帝国の皇帝が我々の側にいるということに」
これにはシーラやレイも驚きを隠せなかった。皇帝と言えば、長い歴史の中で決して表には出てこず、もっぱら宰相や重鎮しか帝国から出てこないため他国では皇帝の顔を見たことがあるのは、わざわざ帝国に伝令として入った臣下ぐらいで、顔の特徴を伝え聞いたとしても顔を実際にみたものはほとんどいなかったためである。それが、シンはこの幼い少年が皇帝だという。そして、シンは続けてアークに言った。
「貴方の子どもかと思ったが、王家と言うのは、縁が深い者と政略結婚でのせいで顔の特徴が受け継がれやすい。この少年、カインは代々の皇帝の特徴である黒髪、黒色の瞳を受け継いでる。なによりこの子が首にかけているネックレスの指輪は皇族しか持てない紋章入りだ」
カインは、服で隠されていたネックレスを着替えの際に服の中へ隠すようアークから注意されていたのだが、シーラとの会話に夢中で忘れていたのだった。そして紋章入りのネックレスは、人目がつくカインの胸元で煌めいていた。
「長年帝国内では皇帝の座を巡って、争いが絶えなかったらしいな。そのためなんだろう?医療薬にも使われる植物、ジキタリスが高値で売買されているのは。あの植物は、医薬品にもなるが、使い方を誤れば、猛毒だ」
帝国が怪しまれずに毒を入手する方法は、毒とバレないような植物を購入すること。このことで、暗殺、毒殺が主流だった帝国内に解毒薬、医薬品となる原料が高騰していた理由だった。
そうだったのね、たしかに医療品といえば、しらをきれられるし、毒としても使うことができる!
「だが、長年の血脈の争いの、そのせいで皇帝の継承権を持つ人間がいなくなり、とうとう皇族の血を引くのは一人となったと聞く。すでに酷い暗殺が横行していた宮殿内では、貴族の娘たちが嫁ぐのを嫌がる羽目となり、そして、貴方は他国から姫を迎え入れようと各国の王族の情報を集めた。」
「よく調べてありますな。感心致しますよ」アークは剣をシンの方へと向けたまま冷たく言った。
「貴方たちの動向は調べてあります。そして、部屋からも貴方が定例会議中に送られたであろう密偵からの報告書も見つかりましたからね。貴方のほうが、ここは引き下がるべきですよ」
他国の客人として扱われた部屋に侵入したが、相手の不審な動きがあったため忍び込んんだと言えば言い逃れることは5分5部に等しかった。ましてや、シンはその確たる証拠として密書をシーラ達が来る前には見つけていたのだった。
しかしー。
「それは違いますよシン王子。わたしはね、どうしても皇族の血が滅ぶのは避けたいのです。私は皇室に拾われた身なのでね。だからこそ、世界を生かすか、滅びるかが決まる選定者であるシーラ姫と結婚して頂きたいのです。そのためにも、シーラ姫と婚約する貴方が邪魔なのですよ、シン王子」
この人、厳しい環境で生きてきたんだろうけど、邪魔者は消す人なんだわ。
シーラは、直感的に確信していた。
「我々がどうやって生き残ってこれたかわかりますかな?シン王子。それは、暗殺や略奪のプロになってきたからですよ」
そう言って、アークは後ろにいる兵に「放て」と弓の合図を出した。
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