4.王妃、王の間
王妃の間から差し込む強い光の中を、眩しいわねっと、眼を細めながらシーラ達がくぐるとそこは異世界だった。
ピンクという名の。
シーラ、レイたちが先に眼にしたのは、壁はもちろんピンク、ベットもピンク、大小のテーブルも、あの家具もピンク、あちら一帯もピンク、ピンク、ピンク。
部屋一面にこれでもかという具合にピンクが施されていたのである。
わ、乙女チック……な部屋…!で、誰か…いない!?
いるはずである王妃がいないのだ。慌てて
「レイ、誰もいないわよ」と言いながら振り返ろうとしたとき、
シーラが思っていると、突如、
「「「パアァ――――ン。」」
「キャアアア!!??え、ナ、なに!?」
「「いらっしゃい!シーラ様、レイ(♡!!)」」」
突然大きな音が鳴り響き、シーラはびっくりして裏返りながらの声をあげ、身を屈(かが)めたが、両サイドの上空から色とりどりの紙吹雪が舞ってきた。
赤、白、蜜柑色、青、緑、灰色、中には黒色も混じっており、上から見上げてみる紙吹雪は実に多彩で綺麗だったが、それ以上にシーラの眼を引いたのが、その紙吹雪が入っているのであろう、小さなかごを持って実に楽しそうにジャンプしながら笑顔の王妃様。
小さな布が垂れさがった垂れ幕に、これまたその布に小さな字で”歓迎♡シーラ・レイ”と書かれた小物を指に引っ掛けながら紙吹雪をして笑顔の第一王子の姿であった。
「やったわー!ドッキリ成功よ!!」
「頑張ってみんなで紙吹雪作った甲斐がありましたね!!」
「リハーサルしたかいあって、すごい息ピッタリだったな!カルファト!」
「アハハハ、いやー大成功ですね!!」
きゃきゃっと、仲良く手を合わせて手を合わせてはしゃぐコンフォート国王家の人たちや、後ろから世話係であろうメイド数人も出てきて大変な喜びようであった。
…………してやられたわ!!
床に手を付いて、ガックリと肩を落とすシーラ。
「やっぱりね……」と後ろで呟くレイが立っていたのであった。
ドッキリ成功の興奮が何とか収まると、
シーラ達は「まあ、立ち話もなんですから、ここにおかけになって♡」
と、コンフォート国王妃に勧められるがまま椅子に座っていた。
もう、ここは王妃様のテリトリーだわ…。
最初から戦う気はサラサラなかったが、王族お一人として初めて他国の王妃に会う。という張り詰めた気力は失われていた。
完全にHP,0である。
シーラはすでに王妃の間一面がピンクだ、王族なのに自分の衣装が聖職者の衣装でドレス姿じゃないということは些細なことだわ。と思うようになった。
そして、次々と大きいテーブルを囲んで椅子に座る私たち王族をよそに、後ろでは
「はい、撤収でーす。お片付けお願いしまーす」とメイド頭だろう声が聞こえて、大きな打楽器の車輪を押す者、床に盛大に散りばめられた紙吹雪を箒で掃く者が出てきた。
「それで?誰がこのドッキリの発案者なんですか?」
レイが畏まって聞いてみると、
コンフォート国王族の王妃、第一、第二王子たちはニッコリ笑顔のままカルファトを指さしていた。
((コイツか!!))
シーラ、レイの主従で思いながら、レイは
「やっぱりアンタね。王妃様にこんな悪知恵はたらいたのは!アンタがニコニコしてるときは嫌な予感しかないわ」
カルファトとシーラが話しているときにレイがほとんど会話に入らなったのは、カルファトの動き、表情が気になっていたのである。
「いやー、二人とも緊張してたみたいで、ついなあ」
「レイ、わたし、さっきレイが回廊で言った言葉信じるわ」
シーラが言うレイの言葉とは、カルファトの笑いまくっていた時の言葉である。
その後、シーラ達が入ってきた瞬間に大きな音を鳴らして、打楽器を叩いていたのはコンフォート国第二王子、サスティス。
シンと同じで銀髪で、灰色の瞳だけは違っていた。
「大きな打楽器鳴らすのは楽しかったよ」
小さな”歓迎”という横断幕を作ったのは、第一王子、シュレイア。
同じく銀髪で灰色の瞳のこの国の後継者、次期国王とされている。
「あー達成感半端ないな!」
そして紙吹雪は、コンフォート国の王妃ルナ。
金髪に灰色の瞳の優しそうな表情の、身長が高い女性であった。
紙吹雪は王妃と、息子である王子二人と、ここにいるメイドたちも紙吹雪作りを手伝ったという。
「息子も手伝いましたのよ?綺麗でしたでしょう??」
ええ、綺麗でしたわ。不吉とされ、忌み嫌われている黒まで使われておりましたから。
ここの世界では動物も人も長生きできないため、故人を埋葬する際には必ず白の衣裳を着るほどだった。
だから、黒とかも入っていたのね。まあ、男性には無頓着になるかもね、色なんて。
「けど、王妃様、ここでの私のこと、その、メイドたちに…」
シーラが言いにくそうに言うと、
王妃様は可愛らしくウィンクして、
「大丈夫よ。ここにいるメイドたちは、先日まで貴方のことを帝国が嗅ぎまわっているスパイを相手に情報収集していた女スパイたちなの」
「え、そうなんですか!?」
女スパイと言えば、シンがシーラの情報収集に夜、報告を聞くためといって自室に招いたという、シーラが手違いでここコンフォート国に来ることとなった原因である。
シーラ、レイはあたりを見渡すと、すでに”撤収”という名の片づけは終わったらしく、若手のメイドは壁側に並んで前で手を重ね添えており、さすがというべきか、整然と、ピシッと背筋を伸ばし立っていた。
そして、メイド頭と思われるメイドが、ティーカップや、お茶菓子が入ったかごを乗せたワゴンを二人で引いてきて、それぞれにお茶をテーブルに置き始めた。
「そう、だから心配いらないわ。それとシーラ様」
王妃は改まってシーラの瞳をみつめた。
「レイと一緒によく頑張りましたわね。会議がはじまるとなると、ここも騒がしくなってしまうけれども、会議が始まるまでの間は、ぜひここでゆっくりぜひしていって」
王妃の瞳には、優しくいう母性のような光がみてとれる。
「あと、レイ。貴方もここまでの護衛よく頑張りましたね、後でユーデン国国王もねぎらいのお言葉があることでしょう」
「はい、ありがとうございます」
レイは衛兵らしく一礼した。
「まあ、挨拶しなきゃとか堅苦しいこと言わずに、ここでゆっくりしとけ。シンがシーラのユーデン国に婿としていくなら俺たちは家族になるんだからな」
「え、そう思ってくれてたの?ありがとう」
シン王子は第三王子であり、ユーデン国のシーラの婿養子としてピッタリじゃないかという大人たちの発想により、許嫁になっていた。
本人たちがお互い好き同士だからよかったことであるが、もし相性が悪ければ跳ね返りのシーラだったら、御免こうむることであった。
「そうそう、ここを第二の故郷だと思ってだな」第二王子サスティスが出されたティーカップを持って、お茶を飲みながら言う。
それは難しいわ……、まあ、小さいころから王宮には来てるけど。
「なんであれ、ここに来たからには俺たちも帝国がシーラに手を出さないように邪魔しとくよ」
「そうそう。おれたち定例会議後はパーティでどんちゃん騒ぎするのが好きなんだよ!毎回泥酔でさ」
明るく第一・第二王子はそう言うと王妃様が
「シンもくれば良かったのにね。あの子ったら全然ここの部屋にきて顔を出さないんだから」
「シンは何かすることがあるって言ってたぜ」
その言葉にカルファトは「シン王子は国王に言われた仕事があるみたいで、国王と一緒にどこかへ行かれました。そして国王より伝言がございます。”王子全員で定例会議の準備に当たれ”と仰っていますので、お二方はそろそろ御公務に…シン王子も待っております」と説明した。
「はあー、わかったよ。仕方ない、戻るか。じゃーな。ゆっくりしていけよ」と手を振って、カルファトもまだ仕事が残っているらしく、王子たちの後ろに付き添いながら部屋を出ていくのであった。
「あの子たちも出て言ったことだし、シーラ様、我が国コンフォート国はあなた方ユーデン国に帝国の動向がわかることは何でも情報提供いたしますことを現在公務でいない王にかわり、王妃であるルナが誓いますわ」
「は、はい」
急に王妃の顔になったルナに釣られてシーナも答えた。
「それとシンからは、シーラ様がメイドとして情報収集にあたるとお聞きしておりますので、協力する以上、本気をお見せしますわね」
そう言うと、王妃は白く、ほっそりした綺麗な腕を頭上へあげ、パチンと指を鳴らすと、
メイドたちが「「「「はい、王妃様」」」」
と返事したかと思うと、シーラはメイド集団ならぬ元女スパイだった者たちに囲まれるのであった。
「へ?」
その後ろでは、レイが両手を合わせて合掌のポーズをしていたことをシーラは知らなかった。
シーラは王妃の間の横にある衣裳部屋にいた。
メイドたちはシーラに下着姿になるようお願いするのだった。
シーラが疑問に思いながらも、着ていた聖職者の衣装を脱いで下着姿になると、メイドたちは、メジャーでシーラの身体の隅々までてきぱきと、無駄なく、サイズを図るのだった。
「ウエスト55センチ」
「はい」
白い羽ペンでサラサラと羊皮紙に書いてメモを取っていくメイド2名と、シーラに会った色は何かと、次々にいろんな色のドレスを持ってきては首に添えて確認するメイド2名に分かれていた。
どうやら、王妃は、新しくシーラのドレスづくりをするためにシーラの身体に合わせた、似合うドレスを作ろうとしているらしかった。
機械的に無駄話せずに図っていくが、さすがに剣で鍛えているだけあってそこまでぜい肉はないと思うが、いくら何でも図られるのは恥ずかしかった。
「バスト70」
うう。むね、胸が小さい。
公開処刑じゃないの?これ。
なんとなく静かな室内で何もすることがないシーラは、思い切ってこの元女スパイたちに聞いてみることにした。
「ねえ、あなたたち、帝国が探ろうとしていることを探ろうとスパイ活動してたんでしょ?どんな感じだったか教えてくれる?」
シーラがそういうと、手を止め、お互い女同士で眼を合わせたかと思うと、
「……たしかにシーラ様の仰るとうり潜入活動はしましたが、
「帝国に潜入しても、また皇帝が変わったということぐらいしかなくて……」
「皇帝が変わった?」
「はい。帝国の皇帝は頻回に皇帝が変わることで、民衆の間では特に気に留めてないようなのですが……」
皇帝が変わった……。たしかに、巨大な影響力をもつ帝国だが、そのトップであるはずの皇帝は、不思議と今まで定例会議には参加していないと聞く。
代わりに宰相が来るらしいけど…。じゃあ、私を調べるよう指示しているのは新しい皇帝?
だけど私に許嫁がいることは他国でも知られているはず……。
王族、貴族は、結婚相手または許嫁がまだ決まってない場合、高名な絵師を雇って姫や王子の肖像画を2~3割増しに美しく描かせると、他国諸国に肖像画を送って適齢期の同じく相手を探している若者たちにアピールするののが婚活の主流であった。
そして、シーラ、シンのようにすでに幼いころから許嫁を決めた場合は、肖像画の必要がなくなるので、許嫁が決まっている者の外見は噂で耳にするか、各国が開催するパーティや舞踏会に出席して直に外見を見て確認するしか方法がないのである。
「あの、シーラ様?」
シーラが頭で考え事をしていると、動かなくなったシーラに恐る恐る女スパイたちは声をかけてきた。
「あ、ごめんなさい。ちょっと、考え事をしてて。あと、もう一つ教えて欲しいんだけど、シンが貴方たちを自室に招いて調査報告を聞いてたって、本当?」
シーラの身体の採寸は無事に終わり、メイドから、「サイズぴったりの服が届くまでは、大変申し訳なく思っておりますが、シーラ様に合うサイズの衣装をこちらで準備しております。今回採寸されたサイズの服が完成しましたら、すぐお持ちいたします」と丁寧に言われて渡された衣服を着て、やっと王妃の衣裳部屋からでたのだった。
王妃の間へ戻ると、レイはシーナが準備している間王妃とそのままお茶を飲んでいたのか、テーブルにはティーカップの中に入れてあったお茶が明らかに少なくなっており、テーブルの中央にはお菓子の他に、美味しそうな異国のケーキがおかれていた。
あ、レイ、ずるい。
王妃様の手前、食い意地をみせるわけにもいかず、シーラは眼でまだ気づかずに王妃と談笑しているレイにメッセージという名の念を送る。
メイド頭であろう人物がルナ王妃に向かって行って、頭を下げながら「王妃様、シーナ様のご支度、注文されてたように完了致しました」と伝えた。
それを合図に後ろで控えていた、シーナの横に並んだメイドも一斉に頭を下げた。
メイド頭の言葉に気づいた王妃は
「ご苦労様。とりあえず、貴方たちは下がってていいわ。また何かあれば鈴で呼ぶわね」
「はい、かしこまりました」
と言って、メイドたちはシーラをよそに王妃の間から退出していった。
困ったのはシーラである。
「あの、、、、王妃様。これは」
シーラは、聖職者の衣装から、ここのメイド衣装に着替えて、聖職者のベールで隠していた長い金髪の髪は両肩で、メイドたちに編まれて三つ編みのヘアスタイルになって衣裳部屋から出ていた。
だんだんと青ざめていくシーラをよそに、楽しそうにしているのがこの二人だった。
「まあ、バッチリですわ。お嬢」
「似合ってますわよ、シーラ様」
「あ、けど、お嬢。前髪をもっと前へと出せます?」
「え、こう?」
「ちょっと待ってくださいね、わたくしがお直しいたしますわ。王妃様、クシありましたらお借りできますか?」
レイはそう言うと、王妃様がすぐに部屋の家具の中から出してきた「これでどうぞ」と言われ、手渡されたダイヤ、ルビーがはめ込まれたピンクの王妃様ご使用のクシで、シーラの前髪を綺麗に一直線上に揃えた。
シーラは王妃の間に飾られている大きな等身大の鏡があり、二人が褒めるその外見を確認してみた。
ユーデン国ではその顔立ちから「綺麗」「美姫」と田舎貴族たちから褒め称えられた(?)美貌は、渡された手鏡には映ってなく、なんとも田舎からきたのであろう眼が隠れて鼻だけ目立つ幼さそうなメイドが映っていた。
「うん、これで完璧ですわ」
「さすがレイ様ですわ」
頷くレイと王妃ルナ。
嫌な予感が……。
「お嬢は次期女王ですが、まだ定例会議には出席しておりませんから。今回は長期戦、しかも初めて庶民の仕事をここで体験させていただけるのです。庶民丸出しで怪しまれず、王族としてボロが出ないように、しっかりと学びましょう。」
レイと一緒に王宮から出てきて、一つだけ良いことがあった。
それはレイと書物を開いての講習が、なくなっていたことであった。
「ウフフフフ。逃しませんことよ」と、にっつつこりと笑顔でジリジリとシーラを壁側へと追いつめる二人から逃れる手段などシーラにはなかった。
「こ、怖いわよ王妃様、レイ」
もう、勉強の毎日から逃れられたと思ったのにー!。
一方、そのころ、シンは父であるカルシスに、「ユーデン国の国王がたった今、到着したとのことだ。アイツがシーラ姫には言わないでほしいということだが、お前はシーラ姫の許嫁でもあるからお前も来い」と、言われていた。
シンは”シーラは今頃兄上、母上と再会しているころかな”と思っていた。自分の許嫁が危機的状況にいるとは思ってもいなかったのである。
ユーデン国の到着が思ったよりも早く到着したために出迎えが少し遅れてしまったが、国王同士が仲が良いため、急がずに王宮の入り口へと父と一緒にむかっていた。そして前方から前を歩く背の高い人物が見えた。後ろに荷物を抱えた従者たちを率いて歩いていたのはユーデン国の王であった。
ユーデン国といえば、昔から変わらず美男美女が多いという国らしい。そして、その代表である国王もユーデン国の民の特徴をよく反映された風貌をしていた。高い理想的な鼻筋、静かな人物を思わせる灰色の瞳、そして、その冷静そうな印象を際立たせているのがスッとした高い身長であった。シーラの父親は、一般的な男性の身長よりも高かった。そのため、冷たい灰色の瞳で上から見下ろされると、誰もが緊張するのだが、この王は笑うとその冷たい印象はサッと影を潜めた。
「おお、久しぶりだな。元気そうだな」
「お前こそ元気そうだが、また一段と背が縮んだんじゃないのか?王妃様も元気か?」
「ああ、ルナも元気だよ」
ルナとは、王妃のことである。
そして、「お久しぶりです。国王陛下」シンは手を差し出し、友好の態度を示した。「はははは、元気そうだな君も。会議の滞在中はよろしく頼むよ」
「ええ、大丈夫ですよ……陛下?」
「うん?」
「あの、手が痛いんですが」
「ああ、君の手も痛いなあ」
二人は握手をしながらもありったけの力をお互いに競争していた。
手を離したほうが"負け"と直感的にお互い感じながら。
そっちからしてくるからだろ!!とシンは思いながらひきつった笑みを浮かべていた。
シーラの父親の国王は、シンに対してだけは、小さいころから大人げないというか、いつもこうなのであった。
両国の王家同士で食事をしていた時も、どちらが早く食事を食べ終わるか競ったり、チェスをして勝敗を争ったり……etc。
許嫁で決めたとはいえ、まだまだ可愛い娘が伴侶となる男に取られる父親の気分なのはわかるが、いい加減認めて欲しいものだ。
王の間は、古今東西、来客や貴族たちと会う謁見室や執務室の近くにあり、王がすぐに仕事が終わり次第くつろいだり、急なことがあった時のために政治の重要な場所に部屋が置かれるものらしい。
そのため、カルシスの王の間も、王妃の間よりも離れた場所にあり、王宮の中心部分、城の入り口の奥にあるのだった。
王の間は王妃の間よりもやや敷地の広さは広かったが、公務の間の、王のくつろぎの空間として白を基調にした家具が置かれており、後は大きな植物が置かれているだけの空間であったため、大きいテーブルが置かれ、多くの椅子が並んでいても十分に広い空間が広がっていた。その椅子に座り、豪華なシャンデリアがキラキラと黄金に輝く光の下、シン達はユーデン国王と一緒に座りくつろいでいた。
「ところで、シーラは元気かね?」
部屋の中央にあるテーブルに置かれた1つの瓶、ワインを飲みかわしながら話をしていた。もう大人であるシンもワインを飲みながら二人の王の話を聞いていた。
そして、ユーデン国王は、シーラの身辺について探っている帝国の動きを知りながら、鉱物を主流に貿易している弱小国家としては国境の検問で貿易商人を規制するのは難しいため、逆にシーラを匿ってくれるようこちらにお願いしていたのだった。
「ええ、元気にしております。今頃は王妃の部屋で会っていることでしょう」シンが説明していった。
このとき、シーラは王妃の間に向かっており、シンがいなかったのは国王に呼ばれてユーデン国の王に。会っていたからであった。
「そうか。とにかく無事に二人がここに着いてて良かった」
「ですが、本当によろしかったんですか?母上にシーラ姫を花嫁修業として鍛えて欲しいなどと」
実は、シンがシーラの父親から受け取った手紙には続きが書かれていた。
”シーラを匿っている間は、王妃様に花嫁修業をさせてもらい、シーラの気をそらさせて欲しい”
「いいんだ。どうせ匿っている間は暇だろうから、シーラはまた抜け出すだろう。この帝国の問題が治まるまでは、安全な場所で修行していた方が静かになるもんだ。亡くなった母親がいないから王妃ルナ様にシーラは頭が上がらないしな!あとは、シーラをかぎまわっている連中を捕まえて根掘り葉掘り聞くだけだ」
「………実は、その、非常に言いにくいのですが……」
シンは冷や汗を流しながら、ユーデン国王にシーラが作戦に参加になってしまった事を説明した。
「なに!シーラも定例会議に出席するだと!!??しかも、花嫁修業じゃなくて、メイドの修行をやらせるだと!?」
「はい、国王の手紙がこちらに到着する前からシーラを止めたのですが、本人の意思は固く、レイも諦めていたんです。それで結局、メイドとして情報収集に当たらせた方が本人の気持ちも落ち着くんじゃないかと、カルファトと協議した結果、こうなりまして」
「レイはシーラに甘いし、許嫁である君の説得なら聞くかと一抹の望みを託したが……そうか」
「お前は過保護すぎるんだよ」と、カルシスが口をはさんだ。
「うるさい、お前の方こそどうなんだ。子育てを王妃にばかり任せっきりじゃないのか?」
「うちは、男ばっかりだから、多少は外に放牧したほうがいいのさ。男ばかりに囲まれてみろ。息がつまるわぃ」
なんでうちの国王と仲いいのか、謎だな。
このふたりの性格は真逆だ。シンは常々この国王同士の中の良さが不思議だった。
「ところでシン、帝国はいまどんな感じだ?」
カルシスに言われ、シンは傍に置いていた報告書を取り、国王達に説明を行った。
「帝国の、目立つ動向はやはりないようです。やはり、シーラの身辺を調査し続けているみたいで、他の国の王族へと調査は移っていません。しかし、帝国内に潜入している者の話では、政治はキュリーダ卿が取り仕切っていることは確実なのですが、最近はそのキュリーダ卿自体、あまり民衆の前には姿を現さないんですが、帝国内での会議、大臣たちの前でもあまり姿を現さずに政治を取り仕切っているそうなんです。静かに生活しているみたいです」
「皇帝は依然として沈黙のままかね?」
帝国の皇帝は、政治には興味がないのか一度も定例会議に出席されることがなく、代わりの宰相、、キュリーダ―卿が来ていた。
「そうみたいですね。広大な土地にいる民衆を一つにまとめ上げるために皇帝の血筋は存続しているようですが、帝国内でも災害などで情勢は厳しいようです。しかし、最近は全く表に出てきてないので、皇帝は亡くなったのではないのか、キュリーダ―卿が皇帝を暗殺したのではないかという悪い噂が流れているそうです」
「部下に殺されたんじゃ王族失格だな、そいつは」
「わかった。このまま調査は続けよう。とにかく何かあれば言ってくれ。シーラ姫の身の安全第一にな」
「わかってます」
「ああ、あと、シーラがメイドとして働くようになったら教えてくれないか?親心でね、娘の働く姿を見ておきたいんだ」
「あ、わかりました」
「おい、可愛いからというのもわかるが、呼び出し過ぎて益々距離を置かれないようにしろよ」
カルシスが片メガネ、のレンズを光らせて懸念した。
「大丈夫さ。いや、なに。娘の授業参観みたいに遠くから見守るだけにしてるから大丈夫だよ。ああ、あと、メイドとして働くなら名前も変わるかな?」
「そうですね、そのままの名前で動くことはないと思います」
「うん、じゃあ、名前もついでに教えてくれ」
「分かりました」
そして、シンは後日、ユーデン国王の申し入れを深く考えることなく安請け合いしたことに後悔するのであった。
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