3.作戦
王族であれば訪れた国の王に真っ先に挨拶するのが礼儀である。
だが、命を狙われており身を隠しているシーラ王女が、他の大臣や他の国から来ている伝令者もいる場で、国王夫妻に挨拶した場合、シーラ王女がコンフォート国にいるとわかってしまう恐れがある。
その為、「挨拶ではなく手紙を送ったほうがいいでしょう」というカルファトの助言により、国王夫妻に久しぶりの再会は見送ることになった。
側近のカルファトは続けて、「公ではない場所で、後程コンフォート国の王とお会いできる場を設けます」とのことだった。
シーラは食事と国王夫妻に送る手紙を書くために準備された部屋へと移ることとなった。
そのため、シンたちとは別の、小さい部屋で夕食をとったシーラ達だったが、レイだけはまだ臣下として、今後の就寝場所についてだったり、我が国、ユーデン国との手紙でのやり取りのため、またシンの執務室へ向かったのであった。
その晩ー。
シーラは、コンフォート国王夫妻への手紙を書き終えると、すぐに聖職者の衣装から寝間着に着替えると白いベットにダイブした。
シーラはベットの感触をかみしめながらグイーと身体の羽を伸ばしていた。
ああ、疲れた。
しかし、それにも飽きると、部屋の隅に置かれた棚の背表紙の書物を吟味して、一冊の本を手に取り、椅子ににこしけ椅子に腰かけて読んでいたーー。
ドアからコンコンと音がした。
顔をあげて、本から目線をはずすと
「ハアーイ。お嬢、遊びにきたわよー。」
レイの声が聞こえてきた。
シーラはすぐに扉を開けて、レイを迎え入れた。
そしてさきほどシーラが座っていた椅子と対照にあった別の椅子をすすめる。
シーラも同じく椅子に座り、レイと小さいテーブル上で会話となった。
「どうだった、レイ。」
「お嬢と一緒の部屋はダメの一点張りでしたわー。隣の部屋でもいいわっと、言ったんですけど全く、あの坊ちゃん」
一国の王子に、何とも度胸があるレイの言い方である。
しかし、これもシーラ同様シンに対しても小さいころから面倒をみてきたための口調であった。レイは剣が強いため、シーラが剣を習うのに遅れながらも途中からシンもレイから剣を教わっていたのである。
いわば、レイはシーラ、シンの剣の師匠でもあった。
更にシーラとレイは、コンフォート国に来るまでの間、今までの野宿でも別々に時間をずらして寝ていたが、ほとんど一緒に生活していた。
だから、部屋が隣同士の生活を送くるぐらいでは、違和感がない。
全く気にしないと言っていいほどの主従関係だった。
しかし、それをシンは許さなかったらしい。
「まあ、部屋はしょうがないですが。・・・・ところでお嬢?」
きちんとした口調と表情をキリッとさせた表情になったレイはあまり見たことがない。美丈夫な顔が揺らめくロウソクの光を浴びて、真剣さが伝わってくる。
「え、なに」
シーラは自然と背筋が伸びて緊張した。
「シン王子が作戦に参加させない件です。さすがに危険が伴いますから、私も、いくら姫様でも賛同しかねるのですが・・」
レイは、講義を抜け出すこと以外は、いくらシーラが森や武道で無茶しても、滅多に引き留めることは無い。
そのレイが自分の安全を危惧して言う言葉に、シーラの心に重く突き刺さった。
いくら剣術や知識を深めても、蚊帳(かや)の外なのね、私は。
シーラはレイの言葉を重く受け止めていた。
私が女であるから・・・。
しかし、それでも引き下がるわけにはいかなかった。
「けど、これって私の国がかかわってるし。王族としてほっとけないわよ。婚約者とはいえ、シンたちも危険なことになるかもしれないのに、私だけぬくぬくとここで避難されても、気分が悪いわ。」
勢いよく自分の思いをレイに言うことで、徐々に自分の気持ちがはっきりしてきたことをシーラは自分自身で感じた。
「そもそもケガを負わせたら、この国の他の貴族や王様,お妃様だって黙っちゃいないわよ」
そうだわ。
私は、さっきの執務室でシンに伝えたかったのはこのことよ。
遊びや興味本位で参加しようとしたわけじゃない。
そのことを言いたかったのだ。
シーラの真っすぐな瞳をそらさずに、シーラの主張に黙って聞いていたレイだったが、シーラが言い終わると、スッと椅子から立ち上がり
「わかりましたわ。夜分遅くに申し訳ありませんでしたわ。夜遅いから暖かくしてお眠りくださいね」
と言い残すとさっさと部屋から出て行ってしまった。
結局、レイはどこに泊まることになったのかしら。聞きそびれてしまった。けども、まあ、そのうち帰ってきて部屋の近くにいることだろう。
昔からレイはそうなのだ。
シーラは従者を束縛するような主ではなかったので、そのままベットへ入り、寝ることにした。
一方そのころ。
シーラが寝た小さな部屋から離れた王宮の通りの角の陰にシン王子とレイが立っていた。
シンは壁に背を預けてただづんでおり、腕を組んで真剣な表情をしていた。実はシーラが休む部屋には隠し扉があり、そこからは不穏なことを策略していないか監視、傍聴できる場所があった。シン王子は、この隠し扉を使って、さきほどまでのシーラとレイの話を聞いていたが、話が終わるとすぐにその場から離れてここの離れでレイと合流することになっていた。
シーラとの会話が終わったレイは、シン王子に「よおっ、さっきの話聞いてたか?」と男口調で声をかけた。レイは、仕えている主が他国の人間であるなら丁寧語など敬う気はサラサラない男であり、ましてや剣を教えてきた弟子に対しては王子だろうと敬わず、寧ろ、男同士の友情として男口調を使うのであった。
「ああ、十分聞こえたよ。レイのデカい声も、シーラの考えも」
「さっきのシーラの言葉聞いたんなら、どうにかうちのお嬢も作戦に参加させてくんねえかな」
レイは女性らしい言動は見られず、酒場によくいそうな男くささを醸し出していながらも、さきほどから頬を指で掻きながら申し訳なさそうにして話した。
シンは黙って聞いていたが、はあー。と盛大なため息をついた。
「わかった。主従揃って面倒みよう」
シンはそう言うが、心なしかスッキリしたような表情だった。
「昔よりかは、成長したようだな」
レイが感心したように言って、レイの身長より低いシンの頭をクシャクシャとかき回した。
「わ、もう俺は子供じゃない。くれぐれも他の臣下がいる前では控えてくれ」
人も動物も寿命が60歳までの子の国々では17歳から成人とみなされており、シン王子はすでに立派な成人とみなされていた。
「ああもちろんだぜ。」
にかっとレイは笑った。
「あと、レイ。ここまでの道中シーラを護ってきてくれたことに、婚約者として感謝する」
シンは改まって、レイに心中を伝えた。
「まあ、お嬢が危険な場所に行かせるわけには側近としていかねえからな」
「わかっている。」
シンはその後も言葉を続けた。
「ただ、我が国の密偵が調べた現段階では、まだシーラの命を狙ってるかまでは特定できていない。どうも、集中してシーラの評判を調べているとのことだ。」
「そうか。お嬢が大人になるにつれてこんなことが起こるんじゃないかと思っていたけど、いよいよその時が来たってとこか、なあ王子」
この大男は主の危険にもかかわらず、楽しんでいるようにシンは思えた。そして、先ほど、国王の間でユーデン国から届いた早すぎる密書のことをこの男に言うことにした。
「そういえば、ユーデン国から密書が届いたぞ。レイ、ユーデン国の王は、初めからシーラの安全のためにこちらの国へ行くように芝居をうったそうだな」
密書の文面には、密偵が増えてきており、鉱物を主に取引としている弱小国家としては旅商人の出入りを制限することは国家の財政に直結することであり、検問はむずかしいことと、シーラの身の安全のためにシーラをコンフォート国で匿ってほしいこと。また、シン王子が女スパイを使って情報収集の範囲網を広げたことを理解していると書かれてあった。
つまりは、ユーデン国国王は、シンの身の潔白を知りながらシーラをコンフォート国に自分から行くようにわざと女を連れ込んだとシーラの耳に入るように仕向けたということである。
この文章を読んだ直後のシン王子は「あのクソ狸ーーーー!!」と思わず密書をブルブルと握りしめながら心の中で叫んでいた。密書を受け取った場所が、臣下が大勢控えていた場所だったため、必死で王子として威厳を整えてのことだった。
「あ、バレた?いやー、あの王様も抜け目ないよなー」
アハハハとレイは、罪悪感のかけらもなく言高らかに笑いながら言うが、こちらとしてはシーラの身を案じていたのに、誤解を受けてしまってビンタまで食らった身である。シンは一緒に笑えるわけもなかった。
「ユーデン国の王が狸じじいとは思っていたが、人をダシにして王宮から避難させるとはな。どういう根性しているのだ。お前らの王は!」
「まあ、お嬢をうまくコンフォート国へとけしかけるために、わざと国王の扉を開けて芝居をしたんだよ。お嬢が勘違いして部屋で荷造り中に、俺は扉の外にいたんだが、元きた回路の奥から王と宰相が追いかけてきて、直々に真相を伝えてくれたから、お前が無実だと俺は知ることができたんだけど。危うく俺も信じてしまうところだったわー。アハハ」
女は自分のミスしたときは、よく冗談ぽく笑ってごまかすが、このオカマも身についているらしく盛大にごまかしてきた。
「笑うところじゃないだろう。おかげで俺はビンタだぞ。それも渾身の!!どうして、無実だと誤解をとかなかったんだ!」威勢よくシンはレイに迫って問い詰めるが、レイも負けじと言い放った。
「女を部屋に入れたことは事実だろう?この人と結婚していいのかしらーと、婚前前の女はナーバスになるもんだ。それが仕事であっても、女は理解しがたいんだよ。知らないお前が悪い。もっと修行することだな」
男として女の扱いに修行が足りん。と暗に言われたシンは、反論の余地もなかった。シン王子の完敗である。
「森での俺の演技、上手だったろ。俺も怒っているように演技するのも大変だったぜー。シン王子もまだまだだな」
レイは、シンのことはお構いなしに、ニコニコしながら続けて話をしてきた。
「ところで、王子。俺の部屋はお嬢の隣じゃないって、どうゆうことだ」
「ここは王宮だからな。もちろん、俺が警護にあたるに決まっているだろう。だから、長い旅の護衛ご苦労と言ったんだ」
先ほどの敗北した悔しさも相(あい)まって、やけにキッパリ言い放つシンだが、要するに、いくらオカマでも婚約者の寝室に近づかれるのは気が気じゃないということだ。犬を追い払うような扱いをするシン王子に
「大人になれシン王子。こちとら命令で、お嬢の護衛やってんだから仕方ねえだろ!」
「知っていても、他の男が近くにいるのは好かんのが本能なんだ。私こそ仕方ないことだ!」
二人は口喧嘩をしていたが結局、騒ぎを聞きつけたカルファトが来て、仲裁してもらった。そして、シーラの部屋の両端の部屋に、仲良くシン王子、レイが部屋に割り当てられ、就寝することになった。
翌朝ー。
シーラは、朝日を浴びながら気持ちよく起きだして、朝早くから部屋にメイドが用意していた朝食を頂いていた。
数日間の野宿にも耐えていたが、思ったよりも疲れがたまっていたらしく、昨日はレイとお喋り後は、ベットに入ってすぐ熟睡してしまった。一度も起きることなく寝ていたのだった。しばらくして、扉のノック音がしたので出ると、レイが出てきて朝の挨拶もそこそこに、「おなかすいたわー」とメイドを再び呼んでまた朝食を持ってきてもらうと、レイは出てきた朝食をバクバク食べていた。
「ねえレイ。今日もシンと会うと思うんだけど、どうやったら作戦に参加させてくれるかしら」と、昨日の続きのことを相談するが、レイから「器の狭い男ですが、俺が話つけてお嬢は参加させるようにしましたよ」と言ってまた、バクバクと朝食を食べていた。
あっけなく物事を進めるレイに、ポカーンと呆けたシーラだったが、すぐに気を取り直してどうやって説得したか何回もレイに聞くのだったが、レイは結局教えてくれなかった。
その後、従者の案内で再びシーラとレイは聖職者、護衛の服に着替えてシンの執務室へ向かうことになった。再び執務室を訪ねるとすでにカルファトと一緒に何か話しているシンがいた。
そしてシーラ達に気がついて振り返ったシンの顔にシーラは驚きを隠せなかった。
「ああ、起きたか。おはよう」
「おはようって、どうしたの?そのクマ!?」
シンは眼の下には、うっすらとクマが出ており、シーラに指摘されるや否や、すこし不機嫌そうにムスッとした表情だった。
「大丈夫?寝てないんじゃない?」
「ん、ああ。まあ、大丈夫だ。あと、シーラ、作戦に参加してもいいからな」
「レイから聞いたわ。ありがとう。けど、どうして急に認めてくれたのよ?」
「ああ、いや、傍にいてくれていたほうが俺としては安心するかなと思ってだな」
「え、な、なによ、急に。調子狂うわね」
シンの言葉の意味の理解に私が苦しんでいると、
「そうですわよお嬢、ほっときましょう。むっつりスケベなんて」
レイは、シンとシーラの間をハーよっこいせっと、いう様に間をドンドンと大きい身体を揺らしながら割り切って通っていった。
「そもそもお前のせいだろう」
隣国の王子に口喧嘩できるのは、長年の幼馴染ともいえるシーラか、側近のレイぐらいなものだが、シンとレイの場合は、男同士の会話に近いものがあった。シーラは仲がいいなあと思いながら二人の後をついていった。
「まず、作戦なんだが、今回の定例会議は幸いなことか、我が国の場所となっている。もちろん、その会議中は各国を引導している臣下や王が来るからその際の警備は、兵も普段の倍以上かけて厳重になる。パーティーに侵入しようにも、すでに人員が決められているだろう。そこで、シーラとレイは初めから会議のメイド、護衛として潜り込んでほしい」
「わかったわ。」二人とも頷きながら了解の合図を示した。
「もちろん、帝国からも宰相なり、重要人物がくる。この臣下をターゲットに、帝国の動向を探るんだ」
シンはそう言って、その後も作戦会議は続いた。細かい手順をみんなでアイディアを出し合い考え、そして夜中にお互いに情報交換してお互いに進歩状況を確認し合おう。ということになった。
作戦会議がひとまず終わり、正午に昼食を食べた後、シーラ、レイは、王妃様が自室で会いたがっているということで、コンフォート国の王妃の間にへと側近のカルファトの案内され、後ろをついて行った。もちろん、人目を避けて相変わらずシーラは聖職者としての衣装でフードを被り、レイは衛兵として王宮内を移動していた。
「申し訳ありません、本来ならば王の謁見室に案内したかったのですが、警備も厳重な上に、人目が多い場所なので、悩んでいましたところ王妃様が自室に招待したいとのことなので」とカルファトは説明しながら歩いて行った。
「いえ、こちらもコンフォート国の国王夫妻には幼いころからお世話になっておりますので、寧ろ、我々の方がご迷惑をおかけして申し訳なく思っておりますわ」
シーラは、王女らしく、丁寧に答えた。カルファトはシンの幼いころからいたわけではなく、途中からシンの側近になったので、シーラもカルファトと長く会話することはこれまでなかったのである。そのため、シーラは、シン以上に丁寧な口調でカルファトと会話をしていた。
「シーラ様、私は主であるシン王子の許嫁であるシーラ様と気兼ねなく会話したいと思っております。臣下の一人にすぎない私に、丁寧な言葉遣いは大丈夫です」
カルファトは穏やかに言う。
「私は誰にでも最初から敬意を払うよう育てられているので、難しい要求ですわね」
シーラはそう答えたが、その後のカルファトが言い放った言葉は、シーラにとって驚く言葉だった。
「ですが、貴方様が森で王子に平手打ちしたあの瞬間は、長年側近を務めてきた私としては王子の面白い顔が見れて……ぷ、アハハハハハ。いや、すみません、けど、あの時の王子の顔といったら、、アハハハ、もう」
カルファトは突然笑い出したのにも驚いたが、シーラはシンと再会したあの平手打ちを見られていたことに赤面したくなった。
あ、あの場面を見られていたのね……。
たしかに、シン王子が急いで馬を走らせていたとはいえ、完全に一人にするはずがない。きっとカルファトは、シンと一定の距離を保ちながらシンの馬の後を自分も馬で追いかけていたのだろう。そして、遠くからシーラとシンとの森でのやり取りを最初から見ていたに違いなかった。
王家の一人としてあのような場面を、シーラが長年気ごころ知れた相手以外に見られたのは”恥ずかしい”の一言以外の何物でもなかった。
「お嬢、私は王宮に努める者としてお嬢よりもカルファトと会話したことあるからわかるんですけど、安心してください。こういう奴ですわ」衛兵姿のレイが珍しくシーラの耳に近づいて助言を加えてきた。
「いやー、すみません。ここではシン王子は冷静沈着な王子として民衆から知れ渡っているもんですから、シン王子のあのお顔は、本当に面白いものが見れたと思っていましてね。ただ、盗賊を捕縛後は、お二方の痴話げんかが長引いてるなーと遠くからシーラ様のことを思っていたんですよ」
「は、はあ……」
ち、痴話げんか……。
森の中では、衛兵たちに指示する文官的な人物かと思い、昨日、今日の午前と共に頭の切れる人物としてカルファトを認識していたシーラだったが、人には外見では計り知れない性格というものがあるらしい。それを感じたシーラだった。
「わ、わかりました。これからもお互い、仲良くしましょうね、カルファト」
シーラは友好として、カルファトに手を差し出した。
カルファトはニッコリ微笑んで、うやうやしく礼をしながら忠誠を誓う紳士の挨拶としてシーラの手の甲にキスをするのだった。
その後、カルファトと距離が縮んだシーラは、カルファトと世間話をしながら王宮を引き続き歩いていた。
「おーい、カルファト。まだ王妃様の自室は先なのか?久しぶりの防具着てると肩がこるんだが」
「もう到着しますよ。ここの角を曲がると、、」
カルファトが回路の角を曲がり、それに続けていく聖職者のシーラと衛兵のレイ。
二人が角を曲がると、そこから先は大きな門が色鮮やかにそびえたっていた。
門の両端には、大きなピンクの花瓶に、これまた色とりどりの大きな沢山の花が生けられており、誰が見てもここから先の部屋は女性の部屋であることを表現していた。
「到着です。ここが、コンフォート国、王妃様の自室でございます」
カルファトは回路の端に立ち、シーラ達に”こちらです”と、手でジェスチャーで表したのだった。
「ここが、、王妃様のお部屋、、。」
シーラとレイは、大きい門を前にして、下の綺麗な絨毯から天井の端までを見上げながら呟いた。
さすが商業国家で財をなしたカルディア大陸でも有数の富裕国家である。
シーラ達の故郷、ユーデン国では一番の贅沢を施した王の間の扉と同じか、それ以上の豪華さである。以前からこの国に来賓として何回も訪れては貧富の差をアリアリと実感するのだが、それ以前に今日はお忍びでとはいえ、ここの国の聖職者の恰好をしているのだ。
ああ、せめて、せめて、王妃様の前では一番の綺麗なドレスでお会いしたかった!なにこれ、何かの罰ゲームなの?てくらい気恥ずかしいじゃない!
同じ王族といえど、この衣装の違い差はたとえ致し方ないとしても、シーラにとっては悲しいものだった。
次にお会いするときは、今度こそ絶対にドレス姿にするんだから!
シーラは固く誓ったのだが、王族としてはすごくまっとうな誓いであることにも気がつかなかったのであった。
「王妃様、お客様がご到着致しました」
カルファトがそういうと、中から「どうぞ」という声が聞こえてきた。
王妃様の声だわ。
シーラは、王妃様ともシンの許嫁としても、国の交友関係者としても親交してきたので王妃様の声ももちろん把握していた。
そして門が従者たちの手で開けられ、王妃の部屋から中からこぼれ出る強い光の中をシーラ、レイは歩き進めたのだった。
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