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 アタシがポカンとしている間に、キシは笑顔で殺気を放ちながら話を続ける。

「そして例の料理教室が、料理した所なんですね? 料理教室ならば、それなりの設備に調味料も揃えているでしょうし。ましてや普段は肉料理専門ですから、料理をしてても疑われることもなかったでしょう」

「そうだね」

「そして料理を準備して、公園に準備をする。…そしてヒミカが来るのを、待っていたんですね?」

「でもヒミカくんは一度たりとも来てはくれなかったけどね。まさか生が好みだったとか?」

 サガミ先生は笑顔でアタシを見た。

「ヒミカは人を食いませんよ、サガミ先生」

「自分の生き血は飲んでもかい?」

「ええ。ヒミカは自分を傷付けることで、他人を傷付けずに生きてきたんですよ。―あなたが余計なことをするまでは」

 キシの眼に、鋭い光が宿った。

「どう…してですか? 先生」

 アタシの声はかすれていた。

 きっと泣きそうな顔をしているだろう。

「ヒミカはやっぱり鈍いんですね。アナタのことが、好きなんですよ」

「えっ…」

「最初から、言ってたじゃないですか? この事件はヒミカへの招待状であり、ボクへの挑発だと」

 確かにキシはそう言っていた。

 だけど本当にそうだとは、思っていなかった。

 アタシはすがるような気持ちで、サガミ先生を見た。

 先生はにっこり笑い、

「そうですね。恋に似ているかもしれません。ヒミカくんのことしか、考えられなくなっていますから」

 …と肯定した。

「ヒミカくんが自分の血を飲むところを見た時から、心奪われててね。それでもキミをどうこうしようとは考えていなかったんだ。ただ…」

 先生はキシに視線を向けた。

「キシくんと付き合いだしたことを知って、流石に冷静ではいられなくなった。だからせめて、特別な存在にはなれなくても、キミの為に何かしたかった」

「それが猟奇殺人事件の動機ですか? 何ともまあ、バカらしい理由ですね。ヒミカに料理を食べてもらいたいが為に、人殺しをするなんて」

「キシくんは簡単にヒミカくんに料理を食べてもらえる立場だから、そう言えるんだよ。だから僕はこんな方法しか、取れなかったんだ」

 先生は自分の両手を広げて見た。

「…でも流石は優等生のキシくんだね。警察なんか足元にも及ばない捜査力だ」

「そりゃ、ボク自身とヒミカの為なら。…ああ、ちなみに証拠は例の料理教室で見つけましたよ。殺された人間の残骸が、まだ残っていましたからね」


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