真実

 アタシはゆっくり振り返った。

 ハシゴを上って来たのは―サガミ、先生だった。

 別の意味で、ノドが渇いた。

「サガミ先生…。今、何て…」

「キミは自分の血しか、受け付けないのかい?」

 サガミ先生は穏やかだった。

 全く動じる様子が無いのが、今は怖い。

 アタシは立ち上がった。

「どうして…」

「キシくんと同じ理由だよ。キミが自分の血を飲むところを、見たんだ」

 笑顔で返答してくる。

「でも僕はキシくんのような独自のルートは持っていなくてね。情報不足なんだ。だから、失敗してしまったのかな?」

 そう言って肩を竦めて見せる。

 …もしかしなくても、連続猟奇殺人事件の犯人は…。

「サガミ先生、あなた…だったんですか?」

「うん。僕だよ」

 またあっさりと返した。

「どうして…!」

「それはボクから説明しましょうか?」

 キシがハシゴを上って来た。

「キシ!」

「お待たせしました、ヒミカ。ようやく証拠を押さえられましてね」

 キシは向かいのビルを見た。

「ヒミカ、アナタは少し、注意力が不足気味だったようですね」

「それは…!」

 否定のしようが無い。無かった。

 まさかキシだけではなく、サガミ先生にまで見られていたなんて…!

「でもサガミ先生が、ヒミカの儀式を見たのはここじゃないんですよ」

「えっ?」

 アタシは思わずキョロキョロと辺りを見回し…そして気付いた。

 例の…料理教室のある場所から、ここは丸見えだ。

「まあ距離がありますし、一応逆光のことを考えてたみたいですけど、ちょっと頭の働く人なら分かってしまう行為ですからね」

 角度とかで…バレてしまう可能性を考えていなかった。

「サガミ先生、あなたがヒミカの儀式を見たのは、例の料理教室ですね?」

「うん。そうだよ」

 キシの問い掛けにも、サガミ先生は笑顔で答える。

「例の料理教室、確かに肉料理専門らしいですけど、あなたも野菜料理を教えているんですよね?」

「…うん」

 ふと、サガミ先生の表情が曇った。

「そこで被害者達を知ったんですね? 親子料理教室なんてものもやっていれば、幼い子供と出会うこともあったでしょうね」

「あっ…!」

 思わぬところから、被害者の接点が見つかった。

 そうだった。

 サガミ先生は野菜料理専門の先生。

 そして被害者達は皆、ベジタリアン―菜食主義者ばかりだった。

 肉料理のことばかり頭にあったけど、事件の角度を変えれば、サガミ先生が怪しい事が分かる。

「被害者達はまさか料理教室の先生が、殺人者だなんて思いもよらなかったでしょうね。しかも本職は野菜料理専門担当、事件が世間に明らかになっても、あなたは疑われなかった」


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