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「ああ、それはしょうがない。人間って簡単には捨てられないからね」
仕方無いというふうに、先生は苦笑いした。
「…それで、サガミ先生はどうするんですか?」
「何がだい?」
「これからですよ。警察に自首します? それともここから飛び降りて、死にますか?」
「キシッ!」
冗談でもそういうことは言って欲しくなかった。
「そうだねぇ…。まあキミ達が僕を訪ねてきたところで、もう終わりだろうとは思ってたんだけどね」
先生はポケットから、折りたたみ式のナイフを取り出し、刃を出した。
「このまま捕まったら僕はもう二度と、ヒミカくんと関われないだろうし、忘れられてしまうだろう」
「ええ、きっぱりすっきりあっさり忘れるでしょうね」
挑発するな! キシ!
「だろうね。だから考えたんだ。キミの中の僕を、永遠にする方法を考えたんだ」
先生はアタシを見たまま、ナイフの刃を自分の首に当てた。
そして…
ブシュッ!
…血が、舞った。
「…っ! サガミ先生ぇ!」
アタシの絶叫は、空しく屋上に響いた。
サガミ先生は血に塗れながらも、笑顔で倒れた。
キシは眼を丸くし、言葉を無くした。
アタシは無我夢中で、先生の側に寄った。
「こんなことしてっ、意味があるって言うんですか!」
「ある…よ。キミはこ…したら、きっと、忘れ…ない、から…」
「何でっ…!」
どうしてこんなことになった?
いつからおかしくなった?
アタシは誰にも傷付いてほしくないから、自分を傷付けていただけなのに!
血に塗れた先生の手が、アタシの頬に触れた。
いつの間にか流れていた涙を、拭ってくれる温かな手。
でも…急速に熱は失われていく。
アタシの血族としての能力は、血肉を食す代わりに、自分の身体能力を上げるだけ。
マカのように、『気』を使うことはできない。
だから…死に往くサガミ先生を、助けることはできない。
応急処置をしても、救急車を呼んでも、もう…。
「…泣いて、くれる…ですね。やっぱ…り、あなたは優しい…コだ」
優しくなんてない!
こんな涙なんて…意味が無い。
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