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「何だ? レシピでも欲しくなったか?」

「ええ、ヒミカの為に、いろいろ研究中でして」

 またか!

「おおっ、ついに付き合いはじめたか!」

 ついに!?

「はい。ヤスヒロ先生のおかげでもあります」

「俺の料理が役に立って良かった! 仲良くしろよ」

 先生はそう言って、アタシとキシの頭を力強く撫でた。

「もちろんですよ」

「そっかそっか。それじゃあレシピだが、後でまとめて渡す。今はちょっと手が離せないからな」

「次の授業までで構いません。それじゃあ、よろしくお願いします」

 キシと二人で頭を下げて、階段の所へ行った。

「…ついに? ついにって、何?」

「いやぁ、ヤスヒロ先生は話しやすい人ですからね。ついウッカリ」

「確信犯だろう! お前!」

「まあ否定はしません。けどワリと情報は集められましたね」

 キシは真面目な顔になり、壁に寄り掛かった。

「ヤスヒロ先生のレシピは、言わば知る者が知るってカンジですね。そして先生はここから地下鉄で2駅先のマンションに住んでいるんですけど、住居用の部屋とは別に、隣の部屋を料理教室用として借りているんですよ」

「ふぅん。まあ先生にとっちゃ、通勤時間が無いも同然で楽じゃない」

「ええ、そうですね。教室が終わった後、先生の部屋に集まって、飲み会をすることもありましたから」

「いいなぁ。今度連れてってよ」

「喜んで。でも二人だけってのも、良いですよ」

「それは後でにしてね」

 5階から7階までは、普通の教室になっている。

 5階がアタシの選択コースである、和食専用教室。

 6階はキシの洋食コースの教室。

 そして7階はデザートコースの教室。

 アタシとキシは、6階の洋食コースの教室に来ていた。

 6階のフロアを出ると、教室数が3つあり、キシな真ん中の教室に入った。

 さすがに知り合いが多いらしく、声をよくかけられる。

 キシは笑顔で答えながら、一人の青年の所へ向かった。

「おはようございます。カイト」

「んっ? ああ、おはようさん。キシ」

 爽やかなイケメンが、キシを見て笑顔になった。

 妖艶な雰囲気を持つキシとは、正反対のタイプだな。

「おっ、キミがウワサのヒミカさん?」

「えっええ、そうだけど…」

 彼はアタシを見ると、興味津々といった感じになった。

「キシからよく聞いているよ。とうとう落ちちゃったんだって?」

 …何かもう怒りを通り越して、力が抜けてきた。

「カイト、ヒミカは恥ずかしがり屋ですから」

「っ!?」

「ああ、そうだったな。でも本当に付き合い始めるとはなぁ。キシが言うのを聞いてると、コイツがただストーカーしてるだけかと思ってたんだけど」

 まさにそうです!

「違いますよ。ボクとヒミカは結ばれる運命なんですから」

 そう言って、肩を引き寄せてきたキシを、殴り飛ばしたい…!

「ははっ。見せつけるなよ」

 しかしカイトは爽やかな笑顔で返す…。

「ところでカイト、この前教えていただいた料理教室のことですけどね」

「ああ、オレの兄貴が教えているヤツ?」

「はい。ヒミカも興味を持ちましてね。もう一度説明をお願いしてもいいですか?」

「ああ、いいぜ」

 カイトはカバンから一枚のチラシを出して、アタシに差し出した。

「オレの兄貴、普段はホテルでイタリアンの料理長をしてるんだけど、ここの教室借りて、土・日に料理教室を開いてるんだ」

「ここの教室で?」

 そんなことまで、この学校はやってるのか。

「ああ、何せここの卒業生だし」

 …スゴク納得。

「昔から肉料理が得意でね。肉料理中心に教えてるんだ。ヒミカさん、肉料理が好きなんだって?」

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