誤解後…

「自分の恋人を疑うなんて…。ヒミカ、ボクじゃなかったら許していませんよ」

「今でも十分に疑っているわよ。てーか何で公園でフルコース?」

「たまには変わった趣向も良いかと思いまして。せっかくあなたの為に、肉料理を学んでいたのに」

 ………そのせいで連絡が無かったのか。

「アンタの行動自体が不審過ぎるのよ」

「全て愛が成せるワザですよ」

 カンベンしてくれ…。

 翌朝。一晩かけて誤解を解いたケド、何故か納得出来ない。

 アタシのマンションのリビングで、キシは頬を冷やしている。

 …コレはさすがに悪いかな?

 聞けばキシは、料理教室に通っていたらしい。

 アタシが血肉を好むことを知って、世界の肉料理を学んでいた、と。

 そして昨夜、野菜しか食べずに育った動物の肉料理を作って、アタシにご馳走しようと…。

 フタを開ければ、何とも情けない真実。

 でも昨夜、マカに連絡を取り、確認してもらったところ。

 料理教室に通っていたことも真実。

 そして事件の時、料理教室にずっといたのでアリバイも成立。

 ………マカが深夜に関わらず、大笑いしてたっけ。

 まあでも一般の人間であるキシに、血族のことを知られたのはさすがにマズイらしい。

 けれどその優れた情報網を持っていることや、アタシや同属への理解があることから、将来、アタシと結婚するならば、このままで良いと言われた。

 …コレって自業自得?

 キシは痛い目に合ったものの、婚約者になれたことに嬉しさを隠せないようだ。

 今もタオルで頬を押さえながら、ニコニコしている。

「でもアンタ、洋食コースを選んでいるのに、わざわざ他国のも学んだの?」

「ええ、モチロン。いろいろな料理教室をハシゴしましたとも!」

 …おかげでアリバイを取るのも、楽だったらしい。

 いろんな意味で目立つからな、コイツ。

 ちなみにアタシとコイツの通っている専門学校は、料理の専門学校。

 アタシは和食、コイツは洋食。

 他にもお菓子の専門科もある。

 …なのにわざわざ、他国の肉料理を学んでいたのか。

 本当に愛されているな、アタシ。

「でもボクが連絡しなかったせいで、ヒミカに迷惑をかけていたことは謝ります。すみません」

「良いのよ。アタシも勘違いしてたし。お互い様ってことで」

 でも婚約者にさせられたんだから、アタシの方が大きなマイナスなような…。

「ふふっ。まさにケガの功名ですね」

 そう言ってアタシの隣に移動してきて、ぎゅっと抱き締めてくる。

「結果オーライってことで」

「その前に」

 ぐいっとキシの体を押した。

「事件の真相を突き止めないと…。マカに睨まれっぱなしなのは、いただけないわ」

「あっ、そうでしたね」

 キシは少し考えた。

「ボク、あなたと料理に夢中で全然事件のこと知らないんですよ。教えてくれますか?」

 …あんなに世間が騒いでいるのに。

 アタシはマカから預かった新聞紙や雑誌をテーブルに広げて見せた。

 そして事件をかいつまんで説明した。

 正直、キシには少し期待していた。

 ストーカーということを抜けば、キシは優秀な人間だから。

「…う~ん。まあちょっと不思議ですねぇ」

「どこが?」

「食事に手が付けられていないこと。だからヒミカはボクを疑ったんでしょう?」

「ええ…。まるでアタシを待ち伏せしているような事件だったから、つい…」

「そうですね。でもボクだったら昨夜みたいに、あなたに直に伝えてますよ」

 確かに! ちょっと早計だったな。

「…食べる者のいない肉料理、ですか。悲しいものを感じずにはいられませんね」

「さっ昨夜の料理だったら、ちゃんと食べたじゃない」

「冷めたものを、ね」

 …相変わらず、ねちっこい。

 料理は結局、そのままウチに持ち込んだ。

 そして会話後、お腹が空いたので頂いた。

 とても美味しかった。

 …けど、さすがに冷めてはいた。

「でも確かに、ヒミカを誘っているようですね。コレを見てください」

 そう言ってキシが地図を広げた。

「料理があった五ヶ所なんですけど…」

 地図に赤ペンで丸を付けていく。

 そしてあたしは、眉をひそめた。

「…コレって」

「ええ。間違いなく、あなたを誘っているんでしょうね」

 料理が用意されていた公園、五ヶ所。

 キシが丸を付けた、その中心部には…。

 まるであたしのマンションを囲むようにして、起きていたことが分かる。

「…あたしへの挑戦状?」

「あるいは招待状でしょう」

 ぎりっと歯噛みした。

「それにしても…」

 赤ペンを置き、キシは真面目な顔になった。

「ボク以外の人間が、あなたの料理を用意するなんて許せませんね!」

 …スルーすることにしよう。

「でも目的は? あたしの血族のことを知ってか、あるいは的外れか」

「う~ん。…でもヒミカの血族の方、そうそう派手には動きませんよね? 恨みをかうこともないのでは?」

「フツーなら、ね。ただウチの血族に敵対している一族も存在する。でもそいつ等とも考えにくいのよね」

 お互い、秘密な存在だ。

 そうそう目立った行動はしない。…というか、できないハズだ。


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