ヒミカの秘密

 アタシは唇を噛んで、顔を背けた。




 一ヶ月前。

 専門学校の屋上で、アタシは一人夕暮れを見つめていた。

 陽が落ちる景色を、アタシは一人で見るのが好きだった。

 そして落ちるギリギリのところで、いつもする儀式があった。

 アタシの血族の者は、夜の眷属と言っていい。

 陽が落ちると、眠らせていた血が騒ぎ出す。

 それを抑える為に…。

 アタシはいつも服に小型のナイフを隠し持っていた。

 切れ味の良いナイフは、切った痛みを感じさせない。

 けれど血をたくさん出してくれる。

 マカに高校卒業祝いに貰った。

 アタシはそのナイフで、自分の腕を切り付ける。

 そしてあふれ出した血を飲み、理性を保つ。

 もし見つかっても、うっかり傷付いてしまったと言えば良いだけ。

 そして舐めていたら…気付けなかった。

 キシが見ていたことに…。

 とっさに言い訳をすることも出来ず、キシは笑顔で何も言わずに受け入れた。

 アタシが人の血肉を摂取する体であることを―。

 アタシもうろたえてでも、弁解すべきだったのに…。

 その後、キシは恐るべき情報網を使って、血族のことを調べ上げた。

 …その時点で、マカに言うべきだった。

 でもアタシは何も言えず、そのままキシと……。

 恋人の関係になった。

 それで気が済むならと、思ってしまった自分が憎い。

「……連続猟奇事件の首謀者はアンタだったのね」

「ちっ違いますよ!」

「じゃあこの料理はっ……」

「ボクではありませんよ!」


 ………え?


「じゃあじゃあ! 何でコレは…」

 ……と、気付いた。

 ……フツーの動物の匂い、に。

 ……………。

 アタシはキシの顔を見て、大声で言った!

「紛らわしい上に、めんどくさい!」

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