学校で

「う~ん。それにしても、随分と凝った料理を作っていますね、犯人は」

「うん?」

 キシは料理の作品を見ながら、顔をしかめた。

「いえね。ボクもヒミカの為にいろいろと肉料理を学びましたが…。この料理のどれも、ボクが作ろうと思っていたものばかりなので」

 アタシは横から写真を見た。

 確かに。立派な料理だ。

「そうねぇ…。でも作られた料理、国籍バラバラね」

 それこそイタリアンとか日本料理とかいろいろと。

「そうですね。それこそボクが考えていたメニューがそのまま出されているようなカンジです」

「…本当に犯人はアンタじゃないのよね?」

「だからボクでしたら、自分の手で作って、自分でアナタを招待して、食べてもらいますって」

 …納得。

「でもこれだけの料理の腕を持っている人なんて、それこそ限られますね」

「個人で作れなくもないんじゃないの?」

「食べてみないことには何とも言えませんが…。料理の材料やスパイスなどは、専門家しか手に入れられないものもありますからね」

 料理の写真をパラパラとめくりながら、キシは険しい顔をする。

「…どの料理もこだわろうと思うなら、それこそ専門家並みの知識と人脈、ネットワークがないと手に入れられないものばかりなのが気になりますね」

「……考えたくはないけど、ウチの学校関係者とか? 料理にこだわり過ぎて、猟奇殺人に?」

「ありえなくはないですね。と言うか、かなり良い線いっていると思いますよ?」

 キシはテーブルに資料を置いて、アタシに向き直った。珍しく、真剣な表情で。

「ボクが通った料理教室で学んだ料理が、この殺人事件にもよく出ています。ちなみにボクが通っている料理教室は、ウチの学校紹介です」

「えっ?」

「主に卒業生や学校関係者がつくった料理教室なんですよ」

「ああ、ナルホド」

 タテ関係、ヨコ関係が広い学校だ。

「う~ん…。にしても、犯人、なのかしら? 作ったの」

「恐らくは。殺した者が、材料として料理人に作らせるって仮説は立てられますが、どうもしっくりこないですからね。自分で殺して、そのまま料理をした―と考えて間違い無いでしょう」

「うう~ん。なら容疑者は…」

「ウチの学校関係者、と考えて間違い無いかと」

 ………マジかよ?

「じっじゃあ犯人を見つけようと思ったら…」

「学校関係者を調べれば、案外あっさり見つかるんではないでしょうか?」

「マジでぇ~?」

 アタシは思わず頭を抱えた。

「でっでも料理関係者なら、警察が調べてるんじゃないの?」

「ヒミカ、この街にどれだけ料理関係者が存在すると思うんですか? いくら警察でも、手の届かない部分が出てきますよ」

「それが…ウチの学校?」

「軽くは調べられたでしょう。ですが個人を深くは調査しないでしょうね。他にも容疑者となる人間はたくさんいるんですから」

「~~~! …じゃあ被害者は? 何か料理関係者と接点があったのかしら?」

「そうですねぇ…」

 キシは被害者の調査書を手に取った。

「…共通点と言えば、全員がベジタリアンであったことと、若いこと…でしょうか」

「ベジタリアンって言うか…お肉が食べられないって人もいたみたい」

 キシの背後に回り、アタシは被害者の写真を指差した。

「この女性はアレルギーでお肉全般が食べられなかったって。他のはまあ好みもあるんだろうけど、ほとんど肉が食べられなくて、野菜が主食だったって」

「まあ動物もそうですが、雑食よりはベジタリアンの肉の方が美味しいと評判ですからね」

 キシは含み笑いで、アタシを見上げた。

「…何が言いたい?」

「いえ、別に。それにしても…六歳の男の子まで、ですか。少し胸が痛みますね」

「ああ…」

 六歳の肉アレルギーの少年までも、犠牲者だ。

 他の人も十代や、年上でも二十代前半だ。

「…肉料理で美味しいと言われているのが、ベジタリアンで若いものが良いと言われていますが…。まさにそれをなぞっていますね」

 アタシは思わず、キシを後ろから抱き締めた。

 キシは何も言わず、資料から目を離さずに、アタシの腕をさすってくれた。

「アナタを誘き出すにしても、筋を通し過ぎですね。気に入らないやり方です」

「アタシの正体が…バレてるの?」

「もしくは最初から知っているか、ですね。しかも事件はくしくもアナタとボクが付き合いだした後から始まっています」

 そう言ってキシは資料を握り締めた。

「アナタへの招待と、ボクへの挑発ってところでしょうか?」

「アンタも犯人の視野に入っていると?」

「この料理を見れば、そう思いますよ。全部、ボクがヒミカに作ろうと思っていたものばかりですから」

 キシは少しイラ立っているようだった。

「いいじゃないですか。受けて立ちましょうよ。犯人の挑戦に」

「キシ…」

「犯人のアナタへの気持ちもムカツキますし、ボクへの挑発も腹が立ちます。二度と立ち上がれないよう、叩きのめさなければ」

 …アタシはもしかして、相談する相手を間違えた?

 しかしキシはそんなアタシの思いをよそに、一人燃えていた。

「さて…では行きますか。ボクらの学校に」


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