事件

 アタシは食べ放題の店で、肉を味わっていた。

 けれど…心なしか、人が少ない。

 空席が目立つなんて、この店じゃありえない光景だ。

 まあ理由は分かっている。

 店にあるテレビからも、ニュースが頻繁に流れていた。

 店員達も険しい顔で見ている。

 このニュースを見た後、焼肉を食べに来るものなんてアタシぐらい神経が太くないとダメだ。

 そう思いながら、ウーロン茶を飲んだ。

 一人で食べる焼肉も悪くない。

 元々一人でいることが好きだから。

 だから…付け入る隙を与えてしまったんだろうか?

 事件は今から三週間前に起こり始めた。

 20代のOLの女の人が、死体で見つかった。

 しかもその死体には、失われている部分があったと言う。

 ところがその後…。

 公園のテーブルとイスのセットが置かれているところに、料理が並べられていた。

 その女性の肉から作られた肉料理の数々…。

 報道規制があるとは言え、どこからか情報は流れるものだ。

 その後、若い者達が犠牲となり、死体と料理の数はすでに5件以上にもなっていた。

 おかげで肉市場は赤字炎上。

 …まっ、その分、アタシが良い思いをしているってのも、気分が引ける。

 猟奇殺人。

 この事件が起こり、マカはすぐにアタシに目を付けた。

 それと言うのも、アタシの栄養が血肉だからだ。

 …動物、人間問わず。

 だからマカはアタシに声をかけた。

 ……まあ半分は心当たりを聞く為に、だろうけど。

 何でもマカの親友の子が怖がっている為、マカは動いているんだそうで。

 振り回されているって気もしなくもないケド。

 でもそういう存在がいるのは、いい。

 アタシみたいに、無関心でいるよりは。

 普通の人間らしいから。

 五人前の焼肉を平らげた後、お会計をした。

 そして店に出ると…。

「待ってましたよ。ヒミカ」

「…キシ」

 途端に険しい顔になってしまう。

 お腹いっぱいで、良い気分も台無しだ。

「ちょうど良かった。アンタに話があったのよ」

「何だ、先に言ってくれればすぐに駆け付けたのに」

 そう言ってクスクスと笑う。

 男にしては妙に色気のあるキシは、アタシの同級生だ。

 だけど…。

「だってボクはあなたの恋人なんですから」

 …ストーカーでもあった。

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