柘榴【マカシリーズ・5】
hosimure
ヒミカ
「本当にお前じゃないんだろうな? ヒミカ」
「だから違うって言ってるじゃない。マカ」
アタシはうんざりしていた。
ソウマの店に呼び出されて早一時間。
ぬるくなったハーブティーを一口すすって、もう一度繰り返した。
「何度も言ってるケド、アタシじゃない。信じろとは言わないけど、いい加減にしてほしい」
「…いい度胸だな。じゃあ心当りはないのか?」
マカはテーブルの上に置いていた新聞紙や雑誌を、指で叩いた。
彼女もいい加減、イライラしている。
「まぁまぁ、二人とも。お代わりが何が良いですか?」
「冷たい緑茶」
「今度はコーヒー、ミルクだけ入れて」
「はい」
差し出されたコップを二つ、ソウマは笑顔で受け取った。
しかしマカは大皿を更に差し出す。
「あと茶菓子も追加で」
「はいはい」
皿の上に山盛りになっていたチョコレートとクッキー、スコーンはすでに影も形も無い。
「それで?」
「何よ?」
「こ・こ・ろ・あ・た・り・だ」
…区切りやがった。
「まあ無くはないけど…。もし当たっていたら、アタシにこの件、任せてくれる?」
「お前にか? …フム」
偉そうな態度を取る年下の女の子。
でも実際、ウチの血族の次期当主。
権力は彼女の方が上だ。
マカは緑茶のお代わりとお茶菓子を食べながら、眉を寄せた。
「…心当たり、あるんだな?」
「ええ、まあ…。ちょっと相手したくないヤツだけど」
「なら…」
「でも事の発端がアタシにあるなら、アタシが処理すべきことでしょう?」
ごくっ、とマカのノドが鳴った。
…スコーンを3つも口に入れるから。
「ヒミカが発端? 原因ではなく?」
「それは誓ってないわ。表の世にいられなくなること、何故わざわざ?」
「フム…」
「信じて、任せてみてはどうです? マカ」
口を出してきたソウマを、マカは軽く睨み付けた。
「ヒミカは血族の中でも優秀な方ですよ。長が将来、あなたの片腕にとも進めている方でしょう?」
げっ。人のいないところでそんな話が出てたのか。
「彼女なら、ちゃんと事件を終わらせてくれますよ」
「…まあヒミカの力は私も知っているからな」
マカはこめかみを爪でかき、アタシを見た。
「…分かった、お前に任せてみよう。だがムリそうであれば、シヅキとラゴウに頼む」
「あの二人に?」
「事件解決としては二人が適任だ。本当は私が動ければ良いんだが…」
「マカは受験の準備で忙しいですしね。セツカも高校受験に入りますし…」
…ああ。学生組の調整でテンテコマイか。
次期当主は多忙を極めているみたいだ。
「分かった。じゃあこの件はアタシに任せて」
「ああ。何かあれば、ソウマを頼るといい」
ソウマを見ると、ニッコリ微笑んだ。
…客、来ないからな。この店。
「ありがと。じゃあ定時連絡は午前0時で良い?」
「ああ、構わん」
「それじゃ、後でね」
アタシは紙ナプキンにお茶菓子を半分包んで、立ち上がった。
「…ちゃっかりしてるな」
「だってソウマの作るお菓子って美味しいんだもん。これから体力・知力使うんだから、栄養補給しておかなきゃ」
「ありがとうございます」
「ふん…。まっ、カロリー分は働けよ」
「あいよ」
店を出て、細い路地を歩いて、表の世に出た。
外はすっかり夜だな。
さて、マカにはああ言ったが、とりあえずは夕食を食べたい。
焼肉でも行くかな。
近くに学生食べ放題の店があったハズ。
学生証は持ってきたと思ったけど…。
カバンの中をゴソゴソといじっていると、電器屋の前を通った。
ちょうど夕方のニュースを流している。
その内容を耳にして、アタシは立ち止まった。
…マカとさっきまで話していた事件のことをやっている。
今日、新たな犠牲者が出た、と。
「ふぅ…。…急いだ方が良いかな?」
それでもカバンから学生証を見つけると、足は焼肉屋に向かう。
栄養補給。
我が血族には、無くてはならない。
人成らざる力を使うモノだから。
例え摂取するものが普通の人間と違ったとしても、今は補給しなければ戦えない。
学生証を見て、アタシは苦笑した。
ヒミカ。アタシの名前だ。
専門学校1年生。十八歳。
本来ならば十代最後の青春を謳歌するはずだが、この身に流れる血に縛られ続けている。
「まっ、イヤではないけどね」
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