第7話

「「「いただきます」」」


俺と父さん、母さん、レノアとレノアの両親、計六人が食卓を囲っている。


母さん達が作った美味しそうな料理がズラッと並んでいる。


父さん達の耳が真っ赤に腫れていて涙目なのは見て見ぬふりをした。


「それでアトラス、森はどうだった?」

父さんが香草焼を頬張りながら聞いてきた。


「さっきも言ったけど特に何もなかったよ。柵の向こうには行ってないし。あ、でも遠くに魔物が何匹か見えたかな」

ちなみに柵とは村の周りに張り巡らされているもので、村の腕利きの薬師が調合した薬を定期的に巻いているので魔物が寄ってこないようになっている。


「何!?大丈夫だったか!?」


ぺるおじさんが机に乗り上がる勢いで反応する。


そこに素早くエルサおばさんの手刀が入るが誰もが見て見ぬ振りだ。


「大丈夫じゃ。妾が光の魔法で脅かしてやったらすぐに逃げていったぞ」


「レノア、魔法がその年で使えるのはすごい事だけどまだ魔物に向けてはいけないわ。普通なら攻撃されたと思って反撃されてもおかしくはないわ。今日は何もなかったから良かったけど次はすぐ逃げなさい」

エルサおばさんがもっともなことを言う。

一応今は俺たちは七歳の子供なのだ。心配されるのも当然だろう。


「むぅ、わかったのじゃ・・」

レノアはどこか不満足そうだったが・・・


「そうそうアトラスにレノアちゃん。そろそろ村の仕事を覚えてもいい時期なんじゃないかと思ってお母さん達、明日から村の若い子達と一緒に作業手伝えるように頼んでおいたのよ。二人とも賢いしすぐ覚えられると思うわ」


「明日から?いくらなんでも早すぎる話じゃないの?母さん」

わかってはいる。これはあまり村の外へ出るなという命令だ。

ここ最近、頻繁に森へ出掛けている俺たちに母さん達の心配が募ったんだろう。


中身は別として身体はどこにでもいる七歳の男の子と女の子なのだ。


「二人が村にいた方がお父さん達の心配が少ないのよね。だから明日からハリス君のところに行ってちょうだい」

エルサおばさんがそう言う。


「わかりました」


「承知したのじゃ母上」


これはまぁしょうがないことだ。

森に出かけられない間、謎の魔物が攻めてこないかそれだけが心配だ。


「ちなみに何をするんです?」


「主にお父さん達のやっている酪農の手伝いね。トロンの世話の仕方とか時間が余ったら畑の野菜の収穫もお願いするわ」


どう急いでも一日で終わりきらない量になっている。しばらく森へ出掛けさせる気は無いのだろう。


俺たちは会話を交えながら食事を進めていった。

明日は朝から晩まで労働になりそうなので、レノア達もいつもより早く家に戻っていった。


「ではまた明日の朝じゃの」


「そうだな」


そう言葉を交わし俺は部屋に戻った。

軽く片付けをしてベットに潜り込んだ。

明日からのことを考えながら微睡みに促されるままに眠りへと入っていった。



◇◇◇


深く昏い、闇夜の樹海

一人の女らしき影とそれに付き従う複数の影が小さな照明に照らされゆらめいている。

そこは地下の空洞に作られた場所であり、時折壁を伝って水が滴ってくる。


部屋の魔力濃度は高く常人ならば気分を悪くするレベルだろう。


そこにいるのは人間と思われる女であり異形の怪物は付き従うようにひざまづいている

異様な光景だった。


氷大鬼アイスオーガが討伐された?こんな辺境の村で?」

魔物からの報告を聞き女は氷のように冷たい声でそう言う。


「こんな辺境な地にそんなことが出来る人間がいるとも思えないわ。図体だけ大きくて知能が足りないから寝首をかかれるのです。大方格下と見て油断してかかったのでしょう」


呆れたように言い放つ女に魔物たちの体がビクッと震えた。


だがそんなことは御構い無しに女は一人で話し続ける。

「私があの御方から頂いたこの力を分けて、わざわざ大鬼オーガから進化させてやった恩を忘れたのかしらねぇ?」


村一つ滅ぼしてくることも出来ないなんて、そう零しクスクスと嗤った。


だがその表情とは裏腹に女の纏う魔力はどんどんと昏く濁っていく。


「やっぱりあの御方からの依頼なのだから私直々に出るべきだわね。氷大鬼アイスオーガが倒されたのは意外だったけどその程度幾らでも変えはきくのだし、倒した人間もきっと野良の冒険者でしょう」

女はそう結論づけ謳うように次の計画を口にした。


「私があの村を焼き払い、人間を蹂躙して見せましょう。あの御方の恐怖を人間どもに理解させ何十もの魂を捧げれば、あの御方も私の忠誠心を認めてくださるはず」

周りのことは御構い無しに女は心酔した声でそう言い放った。


「ああ、今からその時が楽しみだわ。フフフッ、アハハハハハハハ」


暗い地下空間に女の狂笑だけが響きわたっていた。

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