第6話
何とか協力プレイで二体とも倒した訳なんだが、なんか奥に更にやばい奴がいるようだ。
「どうするよ」
「どうするも何もないであろう」
どう考えても今地面に転がってる二体より強い筈だ。
傷は治したとはいえ魔力の消費も馬鹿にならない。
根本的に魔力の容量が減っているのだ。
前世で魔術には右に出るものはいなかったレノアでさえ今の昏き王の滅雷ゼラドリアスで三分の二くらい魔力を消耗してしまっているだろう。
だがそれよりも・・・
「早くしなければ夕飯に遅れてしまうであろう。母上と父上がまた心配して大騒ぎされても困る」
「だよな〜」
帰りが遅くなったら泣き喚いてそこらじゅう俺たちを探し回る父さんの姿が簡単に想像できる。
「なら急いで帰るか」
森の奥の魔物は心配だがそれよりも大事な事が今はある。
日を改めて明日か明後日にでももう一度森へ行って確認してくればいい。最悪の場合奥の手もある。
村にまで来させなければ俺たちの力が村の人にバレることもない。
「きちんとイウリの実ももって帰るのじゃぞ。大事な証拠になるのじゃからな」
「そういえばその為に来てたんだったな」
思いっきり忘れた。
「じゃ今夜のデザートを取りに行きますか」
最速で村に戻る為、脚へと魔力を集中させていった。
◇◇◇
「「遅いじゃないか!!」
村にたどり着いた直後、父さん達の叫びが村中に木霊した。
村のみんなは一瞬ビクッとしたが、いつものことかと呆れた溜息をつかれた。
「すごい心配したんだぞ。お前たちの向かった森の方向で不気味な声が聞こえたって、薬草を取りに行っていた村の若い衆が言ってたんだ!」
と父さんが、
「何も無かったよな!?」
とペルおじさんが、それぞれ叫ぶようにまくし立てる
「心配しなくても平気だよ父さん。何もなかったから」
心配してくれるのはとても嬉しいのだがもう少し声量を下げて欲しいものだ。
「「ホントにホントか?」」
「もちろんじゃ。父上、デザートのイウリも採ってきたぞ」
そう言ってレノアは籠から果実を取り出し父さん達に見せる。
「おぉ、流石俺のレノア。その歳でなんて優秀なの子なんだ。」
「イヤイヤ、ペルマディ レノアちゃんだけじゃないぞ。俺のアトラスの事も忘れないでくれ」
「ハイハイ、父さん達その辺でストップストップ」
父さん達が俺たちの事を語りだそうとするので一旦止める
(始まるといつまでも終わんないからな)
それに、とレノアが
「父上。あんまり騒いでおると、そろそろ・・」
「そうよあなた達。仕事放ったらかして一体何をしているの?」
レノアが言うが早いか母さん達が歩いてきた。
父さん達にかけた言葉は氷よりも冷たい。
「イヤイヤちゃんと仕事はハリンに任せてきたから問題はないぞ」
ちなみにハリンは村の若い衆の一人だ。
「ふふっ全く貴方って人は、それは押し付けたと言うのではなくて?」
エルサおばさんの言葉が刃のように飛んだ。
「まぁまぁこの人達の説教は一旦後にしましょう。アトラス、レノアちゃん帰りが遅いようだったけど大丈夫だった?」
「問題ないよ、母さん。ちょっとイウリの実を取るのに夢中になっちゃって」
「妾も大丈夫じゃぞ。帰りが遅くなって申し訳ない」
怪我も直したし、切られた服はレノアに認識阻害の魔術をかけてもらったからこれでバレないはずだ。
「そう、ならよかったわ。夕飯用意してあるから服の汚れを落として先に家に上がってなさい。私達はこの人達とちょっと話があるから」
一瞬母さんの目が服の認識阻害のかかった部分に向いた気がしたが気のせいだったか。
「レノア、今日はミシェルの家で食べることになったから家に荷物置いたらそちらに行ってね」
俺たちは家族ぐるみの関係で大体どちらかの家で食事を取っている。
今日は俺の家で食事らしい。
そんなわけで、父さん達はズルズルと引きずられていき俺達は家への帰路に着いた。
「じゃあ、また後でな」
「そうじゃの」
簡単に言葉を交わして俺とレノアはそれぞれ家に戻った。
木で作られた簡素な一軒家の扉を開き中へ入る。
ちなみにレノアの家は十メートルも離れていないところにある。
家に入ると今日の夕飯が用意されているのが見えた。
サラダに香草で焼いた一角兎ホーンラビット、眠豚エムリナの角煮、スープなどがあり、ここに俺たちが採ってきたイウリの実も加わるだろう。
俺はリビングを通り過ぎ自分の部屋がある二階へ上がっていく。
最近建て付けの悪くなってきた扉を開き中へ入った。
母さん達には隠して持っていた短剣をベットの下にしまいこみ破れた服は脱いでベットへ置く。
改めて自分の身体に傷がない事を確認し部屋着に着替えた。
「じゃまするぞ」
不意にノックもせず入ってくる人影があった。
「レノアか」
「傷はちゃんと治っておったか?」
レノアが聞いてきた。
自分の術がしっかり効いているかの確認だろう。
「問題なかったよ。お前こそ怪我はなかったか?」
「あんなトロい虫ごときに妾が遅れをとる筈ないじゃろう。それより服を直すから渡してもらえるかのぅ」
「ああ、いつもありがとな」
そう言って服を渡した。
森で傷がついた服はいつもレノアに直してもらっている。魔力のこもった針と糸を使うのでさらに丈夫になって返ってくる。
父さん達の説教は後十分くらい続く筈だ。
俺たちはしばらく無言のまま、布に糸を通す音だけが部屋に聞こえていた。
森で感じた不気味な魔力だけが気がかりだ。
(今回も無事に全てが終わると良いのだけどな・・・・・)
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