眠り猫
こんなはずじゃない。
こんなことが、あるわけはない。
わたしは、オーロラ。猫の形をしたロボット。
文明が滅んで人間がいなくなった地球に、他の銀河からやってきた宇宙船を出迎えるのは、ロボットじゃないの?
彼の好きなSF映画は、みんなそうだった。
わたしは、いつも彼のひざの上でいっしょに見ていたんだから。
わたしは彼の5歳の時の誕生日プレゼントだったから、もう、30年も彼といっしょに暮らしている。いや、いただ。
わたしの外見は少しも変わらなかったけれど、幼児だった彼はだんだん大きくなって、少年になり青年になった。
わたしは、いつも、彼といっしょだった。
彼の両親が
悲しい時も苦しい時も、もちろん楽しい時もうれしい時も、わたしはいつも彼といっしょにいた。
でも、彼は不治の病に侵されてしまった。それで、治療法が確立されるまで
当然、わたしは冷凍睡眠から目覚めた彼を出迎えるつもりでいた。わたしは猫型ロボットなんだもの。100年先だって、200年先だって、出迎えることができると信じていた。
彼の病が発覚してから、実をいえば、わたしも不調極まりなかった。突然、電源が切れたり入ったりするようになったんだ。そして、徐々に電源が切れた時間が長くなっていった。
いつもなら、メンテナンスランプにすぐに気付いてくれる彼も、冷凍睡眠前の検査や準備で、わたしに構っている心の余裕はないようだった。
彼が眠りにつくのを見届けてから、わたしは眠りの森商会でメンテナンスを受けることになった。彼が眠っている間のことを、ちゃんと頼んでおいてくれたのだ。だから、わたしは安心していた。
でも、でも!
作業台の上で、わたしが聞いたのは信じられない言葉だった。
「なんだって、30年前の猫型ロボットのおもちゃ!? どこのメーカー? ああ、4年前に倒産したところか。倒産していなくたって、とっくの昔に製造中止だろ。部品なんて、どこを探したってあるわけないじゃないか。10年前だって、部品が残っていたかあやしいもんだ。今の世の中、おもちゃは使い捨てが常識なんだ。修繕できるのは、せいぜい1年か3年、長くて5年ってとこだぜ。冷凍睡眠の客の持ち物だって? それなら、目が覚めたら、新しいロボットを買うようにすすめるんだね。今でさえも、こんな旧式のガラクタより、ずっとマシなものが次々に発売されているんだ。100年後なら、はるかに性能がいい新製品が並んでいるだろうしさ。それかオプション付きなら、このガラクタを廃棄して、未来のピカピカの新製品で出迎えてやるんだね。その方が未来に来たって実感できて、客も喜ぶというもんだ」
うそ、うそよね。そんなこと、あるはずがない。
機械だって、ロボットだって、年月とともに古くなって老いていって、死んでしまうなんて。それも、人間よりも短い寿命だなんて!
彼は眠りにつく前に、わたしを撫でて「またね。いいこにして待っているんだよ」と言った。だから、わたしも「
それなのに、わたしは彼との約束を果たすことができないんだ。
だったら、せめて、「さよなら」って言いたかった。それから「約束を守れなくて、ごめんなさい」って、言いたかった。
わたしの瞳から、光が消える。
わたしは、何もかもがわからなくなった。
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