「21頁目 ちょっとセンチな気持ち」
×月☆日 ミントスにて出発前。
今日はダラダラ書くよ。たまにはいいでしょ。
今からエンドールに行くよ。荷物が増えてきたので、エンドールのあずかりじょに寄ってからキングレオ地方に行くことになったんだ。
便利なもので、キメラの翼にしても、移動魔法のルーラにしても、一緒に馬車も船もついてくるんだ。馬車にも船にもわたし達と一緒に移動できるように魔力の印みたいなのを刻み込んであるらしいんだけど、詳しいことは魔法使いじゃないわたしはよくわからない。ブライさんに一度聞いたんだけど、まあ理解できるわけないよね。
それで、エンドール地方から船でなんかして今はキングレオ城に行くって感じ。
じゃあ、そろそろ出発だから。
☆
エンドールで小休憩。お昼ご飯をトルネコさんの家でご馳走になる。
☆
最寄りの港町ハバリアにたどり着いて、宿でくつろいでいるところ。
船旅は疲れるね。トルネコさんの船は大きな帆船なんだけど、あっ、シンシアは帆船なんて見たことないよね。帆船はね、風の力を使って進む大きな船なんだ。セールっていう大きな帆に風を受けて進むの。だけど、そのセールの出し入れが大変。
港に着いたら畳まなきゃだし、出航の際は下さなきゃだし。
マストっていう支柱に登ってぐるぐる巻きに収納されているセールを下ろしたり畳んだりするんだけど、これが大変よ。
嵐が来たら慌てて登って畳んだりもしなきゃいけないし。そうじゃなくても風向きによってセールの向きを変えなきゃいけないので、船旅はぼーっとしているわけにはいかないんだよ。
便利な乗り物だと思っていたのに、結構大変。みんなで交代で仮眠をとったり、見張りをしたりするのだけど、だいたいトルネコさんに任せちゃう。(なんたってこの船のオーナーであり船長なわけだからね)ふっくらした体型で鈍重そうなのに、意外と器用に船のアレコレをしてくれて助かっちゃう。
で、そんな話は置いておいて、今日はなかなか怖い体験をしたよ。これこれ。これを書かないと今日は寝れない。
私たちはあずかりじょを後にして、エンドールの南から船に乗り込んだの。
大陸沿いの河口を南下していると、左手の半島に不思議なほこらを見つけたんだ。そこはエンドールから陸続きの場所なんだけど、険しい岩山がエンドールと半島を隔てていて、陸路ではたどり着けない場所だったんだ。
ほこらは半島の先っちょにポツンとあって、巨大な十字架が上部に掲げられていたから船の上からでも目立ったんだ。
「もしかしてお宝が、あるかもしれないわ」
とマーニャが目を輝かせたのも、わからないでも無い。わたしも、こういうところに古代の強力な武器とかありそうだし、手に入れられたらラッキーじゃん、と軽い気持ちでその提案に乗ってしまった。
ほこらを調査することにしたわたし達は船を浅瀬に止めて近づいてみたの。ほこらは小さいけれど思ったよりも頑丈な石作りの建物だった。
人を寄せ付けない神聖な雰囲気が漂っていて、ちょっと冷静に考えれば、呑気に近づいたらヤバそうな場所なんだけど、頭はマーニャの言う「お宝」のことばかりを考えていたもんで、フラフラと中に入ってしまったんだ。最近、マーニャに感化されてるかも。
さっきミネアにも「姉さんを見習ってはダメよ」なんて釘を刺されたし、気をつけなきゃ。根暗なわたしは大雑把で楽天家なマーニャに少し憧れているのかもしれないけど、その性格のせいでお酒と賭け事で身を滅ぼしかけているってこともちゃんと覚えておかなきゃね……。なーんて。
それでね、薄暗い石作りのひんやりしたほこらの内部に入ったんだけど、突然めちゃくちゃ強そうな魔物が襲いかかってきたの。びっくりしたよ。
今まで見たこともない凶暴そうな魔物だった。でぷっとした体格に大きな翼を持っためっちゃ強そうなドラゴンとか、バッキバキに割れた腹筋から筋肉質で丸太みたいな腕を生やして爪とか角とか牙とかがすごい尖った二足歩行の魔獣とか。やばすぎでしょ。
旅の道中で、似たような魔物を見ていれば(色違いとかね、よくいるんだけど)なんとなく行動のパターンとか、強さとか測れることはあるんだけど、初めて見た魔物だから、恐ろしくて。
戦うか逃げるか、一瞬迷っただけど、先日のミニデーモンに殺されたことを思い出しちゃって日和った。
今のレベルじゃ敵わそうな外見の魔物だったので、踵を返して逃げ出して、船に駆け込んだんだ。ホント怖かったよ。
心臓バクバクで船を出して、南下して、ハバリアに辿り着いてこうして心の休まる場所に辿り着いたんだ。
アリーナ姫は「強そうな魔物だから戦いたかったわ」なんて拳を叩いて悔しそうな顔をしてて、さすがおてんば姫って呆れつつも尊敬。
でも、アリーナ姫がおてんば発言をすると、すぐにクリフトは口を酸っぱくして小言を言うの。アリーナ姫御一行は最近仲間になったばかりなのに、何回同じような光景を見たことか。
「姫さま、そのような無茶をなされぬように!」
「姫さまにもしものことがあっては、このクリフト……いや王様がどんなに嘆かれることかっ!」
なんてね。
クリフトったら、もう恥ずかしくなるくらいアリーナ姫にゾッコンなんだよ。
ちょっとでもアリーナ姫が怪我をすると一番に駆け寄ってきて「ホイミ!」だもん。
「こんなの唾つけとけば治るわよ」ってアリーナ姫は言うんだけど「姫さまのお身体に傷が残っては大変ですっ」だって。
小さい怪我なのにアリーナ姫にばっかホイミをかけて、魔力を使い果たしちゃって、瀕死のブライにかける魔法の魔力が足りなくて大変な時もあったんだから。今だから笑い話だけど、ブライさんもカンカンだったのよ。
あとね、エンドールのコロシアムで結婚式が行われていると知ると、
「王子は姫と、姫は王子としか結婚できないのでしょうか……。しょせん私のような身分の低いものに王族との結婚はかなわぬのでしょうか……」
なんて肩を落としていて、ちょっと笑えた。笑うのも失礼なんだけどね。彼の恋路がどうなるか、この旅で初めて色恋沙汰が出てきたからマーニャとミネアと行方を気にしている。やっぱり恋の話だってしたいよ女の子だもん。
……でもさ、そんな風に束の間の憩いの時があっても、心の中でもう一人のわたしは冷めた目でわたしを見てるんだ。
旅を始めて世界を巡って、多くの仲間と出会ったりして、もちろん辛いことの方が多いけど、でも新しい村とか、仲間と過ごして色々と話したりしていると、そりゃ楽しいなって感じることもあるんだよ。
山奥の村にいたら絶対に会うことのできなかった人たちと出会って旅をして、いろんなことを共有して。きっとわたしも戦いのレベルだけじゃなくて、色々な部分でも成長していると思う。
でも。
でもさ。
それって村のみんなが、お父さんやお母さん、シンシアが犠牲になったって事実の上にあることじゃない。それを考えると……うまく言葉にできないけど、旅の最中で些細なことで笑ってちゃいけないって思う自分もいるのよね。
悲しみは時が忘れさせてくれるって誰かに聞いたことがあるけど、村が焼かれた時の憎しみは忘れちゃいけないと思うし、わたしはシンシアのことを忘れたくない。シンシアがわたしにとって一番大切な人だから。
わたしじゃなくてシンシアが勇者で、わたしがシンシアの身代わりになれたらって今でも考えるよ。
きっとシンシアが勇者だったら、わたしなんかよりもっとうまく旅をできたと思う。魔法だっていっぱい使えるし、わたしより人付き合いもうまいし……。
ねえ、シンシア。会いたいよ。
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